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ニュースリリース

眼底画像から血圧や血糖値を推定するAIを一般公開
~メタボリック症候群を予防する研究の一助となることを期待~

 公益財団法人 日本眼科学会 (代表:西田にしだ 幸二こうじ、東京都千代田区) と国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学 (総長:杉山すぎやま なおし、愛知県名古屋市) 、大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所 (NIIエヌアイアイ、所長:黒橋くろはし 禎夫さだお、東京都千代田区) は、日本医療研究開発機構(AMED)の支援により構築された学会主導データベース「Japan Ocular Imaging Registry: JOIR」で収集された画像データを用いて、眼底画像から個人の血圧や血糖値を推定するAIを開発し、無償公開を開始しました。本成果を研究者が活用することにより、メタボリック症候群を予防する研究の一助になることが期待されます。

【背景】

 大量の画像を深層学習(Deep Learning、DL)した人工知能(Artificial Intelligence、AI)を医療に利用する動きは学術研究から社会実装の段階を迎えています。DLでは、学習の条件を変えることで、同じ学習データであっても異なる性能をAIに持たせることができます。こうした医療AIは、診断の示唆を与えるのみならず、従来は検出できなかった画像上の未知の特徴を認識することも可能です。未知の特徴には画像が撮影された個人の状態も含まれ、例えば眼内の光を感じる部分である網膜を撮影した眼底写真からは、年齢や性別を推定することが可能です。
 NIIは2017年に医療ビッグデータ研究センター(Research Center for Medical Bigdata、RCMB)を設置し、医療画像ビッグデータのデータベースとDLの計算資源を併せ持った統合クラウド環境(クラウド基盤)を整備運用してきました。また、日本眼科学会は、眼底画像を含む眼科データを全国の眼科関連施設から収集し、医療補助AIの研究開発を支援・促進する目的で、一般社団法人 Japan Ocular Imaging Registry(JOIR)を2019年に設立しました。このJOIRのデータベースに収集した眼科画像を匿名化してRCMBのクラウド基盤へ送り、クラウド基盤上の計算資源を利用して医療支援AIを研究開発しています。
 日本眼科学会はNIIと共同で、眼底画像をもとにその人の年齢を推定するAIを開発し、そのAIモデル(推定手法)を広く研究者が自由に利用できるよう2023年1月に一般に無償公開しました。さらに、眼底画像から性別を推定するAIを開発し、2023年12月にAIモデルを無償公開しました。今回は、眼底画像からメタボリック症候群に関連する血圧や血糖値、腹囲、BMIの値を推定するAIモデルを名古屋大学と共同で研究開発し、そのモデルを無償公開します。

【研究開発の概要】

 今回研究開発したAIモデルは、血圧(収縮期と拡張期)、血糖値、腹囲、BMIの真値が付与された17〜94歳の眼底写真約13万枚を学習データとし、眼底画像から深層学習を用いて値の推定を行うものです(図1)。これまで実施した眼底画像からの性別推定AIモデル開発においては、EfficientNet-B7が最も高い精度であったことから、今回も深層学習モデルとしてEfficientNet-B7を採用しました。
 その結果、検証データの眼底画像からAIモデルが推定した値と真値の間の平均絶対誤差は、収縮期血圧 10.34 mmHg、拡張期血圧 7.09 mmHg、血糖値 8.71 mg/dl、腹囲 7.18 cm、BMI 2.53でした。これまでに、160万枚以上の大規模画像データセットを用いて開発されたAIモデルが提案されていましたが(Ryan P. et al., Nature Biomed Eng, 2, 2018)、今回開発したAIモデルは学習用画像数が10分の1以下にも関わらず、既報のAIモデルに匹敵する性能となりました(図2)。今回開発した眼底画像からの血圧(収縮期と拡張期)、血糖値、腹囲、BMIの推定AIモデルを公開します。

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図1 開発したAIモデルで眼底画像から推定できる値

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図2 開発したAIモデルによる拡張期血圧の推定値と真値の関係

今回開発されたAIモデルは、眼底画像から血圧・血糖値・腹囲・BMIといった代謝関連指標を一定の精度で推定できることを示しており、研究者にとって新たな視点でメタボリック症候群のリスク評価を行う手段として活用されることが期待されます。これにより、生活習慣病の予防医学の分野における基礎研究や疫学研究の進展が促されるとともに、動脈硬化などの疾患予測に関する知見が深まる可能性があります。将来的には、こうしたAI技術が健診や遠隔医療の現場に導入され、非侵襲的かつ簡便な方法で個人の健康リスクを可視化することができるようになるかもしれません。

【モデルの公開】

本モデルは、以下の、JOIRのウェブページよりダウンロード可能です。
http://www.joir.jp/data/index.html

【研究プロジェクトについて】

 本研究は、日本医療研究開発機構(AMED) 臨床研究等 ICT 基盤構築・人工知能実装研究事業「次世代眼科医療を目指す、ICT/人工知能を活用した画像等データベースの基盤構築」(課題番号:JP17lk1010024/研究代表者: 大鹿哲郎)および「医療ビッグデータ利活用を促進するクラウド基盤・AI 画像解析に関する研究」(課題番号: JP20lk1010036/研究代表者: 合田憲人)の支援を受けました。モデルは森健策(NII RCMBセンター長・名古屋大学教授)と小田昌宏(名古屋大学准教授)が開発しました。

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