NIIについて / About NII

所長の挨拶

kurohashi2023.png黒橋 禎夫
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構
国立情報学研究所 所長

情報学を核として競争から協創へ

 終末期なのか新時代の幕開けなのか分からない混乱の時代である。

 2024年は能登半島地震から始まった。地震そのものは天災として受け入れざるを得ないが、地震国として事前の備えや発災後の対応をもう少し工夫できないものかと考えさせられる。また、こちらは人災でしかない地域紛争の凄惨な状況に変わりはなく、ドローンなどのIT技術が高度な兵器として活用されていることにも心が痛む。人口問題(爆発も減少も)、貧困問題、食糧問題、温暖化問題など、人類を悩ませる問題は枚挙にいとまがない。

 一方で、2023年は、AIの進化が一線を超え、AIと人類の本格的共生が始まった年として歴史に刻まれる年になるだろう。定型的な仕事と創造的な仕事の両面でAIの利用が始まり、医療や法律など専門家の判断を要してきた分野でもその支援が始まりつつある。

 20世紀に科学技術や産業は大きく発展したが、競争という面が強調され過ぎた(人類の歴史は争いであるから、それがそのままだったと言うべきかもしれない)。様々な複雑な社会課題を解決していくためには、競争から協創へ我々の価値観を転換すべきである。学術・サイエンスの分野において、この動きはオープンサイエンスである。昨年のG7ではこのことが強調され、我が国でも2025年度から公的資金の支援を受けた研究の成果論文やその根拠データは即時オープンアクセスが義務付けられる。

 NIIでは以前から我が国の学術情報基盤の整備を進めており、学術情報ネットワークSINET6は1,000を超える大学・研究機関等に利用されている。また、学術情報に関する管理・公開・検索の基盤としてNII Research Data Cloudの開発を2017年から開始し、2021年から運用を始めた。2022年からは、これをさらに推進する研究データエコシステム構築事業を、多くの大学・研究機関との協力のもとに進め、今後はその成果を本格的に展開するフェーズに入る。あらゆる研究分野の論文とデータ、そして計算資源に容易にアクセス可能となり、新たな研究、新たな異分野共同研究をスムーズに始めることができる環境を構築し広めることが目標である。

 2023年5月から、生成AIの社会へのインパクトの大きさを鑑み、日本でも大規模言語モデル(LLM)の構築を体験し、研究を行うことができる場が必要であると考え、NIIがハブとなってLLM-jpという活動を開始した。活動・成果の全てをオープンにするという思想のもとに、当初は自然言語処理の研究者30名程度で始めたものだったが、現在では産官学の1,000名を超える参加者があり、2023年10月には130億パラメータのモデルを構築・公開した。2024年4月からはこの活動をさらに発展させNIIにLLM研究開発センターを設置し、GPT3と同規模の1,750億パラメータのモデルを構築するとともに、その信頼性や透明性の確保に取り組む予定である。

 冒頭述べたとおり混乱の時代であるが、今後はますます科学技術と人間の関係が重要となり、人間の価値観の再考も必要であろう。技術と人間の境界面に位置し、技術と人間を総体的に捉える学問である情報学の責任や役割は大きい。

 NIIは大学共同利用機関法人の一つの研究所として、ここで紹介した学術情報基盤やLLMだけでなく、総合的に情報学の研究と事業に取り組んでいる。約200名の全国の客員教員と協働し、公募型共同研究を運営し、100を超える世界の研究機関とMOUを結び、世界の大学からインターンシップ学生を受け入れている。If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together. という諺がある。情報学を核として、競争から協創の時代への変革に貢献したい。

2024年4月

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