研究 / Research

科学研究費助成事業(科研費)― 基礎から応用までのさまざまな研究に挑戦 ―

科研費は、研究者の自由な発想に基づいて行われる学術研究を広く支える資金であり、基礎から応用までの幅広い学術研究を対象としています。教員・研究員ともに、科研費の応募を積極的に行っており、多数採択されています。
また、獲得した科研費を他の研究機関の研究者(研究分担者)へ配分し、連携のもとで研究に取り組んでいます。
同様に、他の機関の研究者が獲得した科研費にも、研究分担者として多くのNIIの教員が参画しています。

採択状況(2022年度)

採択件数 金額(千円)
研究代表者 73 388,186
研究分担者(他機関→NII) 57 60,700

【科研費による研究事例】

マスター生体情報のなりすまし防止と生体情報の活用を実現する生体情報保護活用基盤

 基盤研究(A) 

研究代表者:情報社会相関研究系教授 越前 功

高性能なカメラやマイクロフォンの普及により、人物の顔、音声、歩行動作、さらには指紋、静脈、虹彩といった生体情報が、遠隔からの撮影や録音を経て、サイバー空間に共有されることで、生体認証の突破や、詐欺や詐称といった「なりすまし」の脅威となることが指摘されている。これらの「なりすまし」には、撮影や録音された画像や音メディアから人物の生体情報を復元する必要があったが、機械学習の進展により、特定の人物の生体情報を復元せずに、公開されている生体情報データセットから複数の人物の生体情報と認識される生体情報(マスター生体情報)を生成可能なことがが新たに分かってきた。
そこで、本研究では、マスター生体情報の検出により「なりすまし」を防止する一方で、当該情報の生成に用いられる生体情報データセットについては、その有用性を担保しつつ、生体情報データセット固有の脅威を「無毒化」する生体情報保護活用基盤を確立する。

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説明可能フェイクメディア検出と自動ファクト照合による次世代メディア解析技術

 基盤研究(A) 

研究代表者:コンテンツ科学研究系教授 山岸 順一

本物に類似した映像・音声・文章等のフェイクメディアが機械学習により容易に生成でき、フェイクニュース等不正確な情報も氾濫するインフォデミック時代の今、社会に正しいメディアや情報を提示し、適切な意思決定を支援すべく、次世代メディア解析技術を世界に先駆け提案する。
まず、フェイクメディアの改ざん領域と手法を同定し根拠として表示する事で、真贋判定の説明可能性を向上させた生体検知手法を提案する。次に常に変化するメディア生成方法に頑健に対処するため、未知のフェイクメディア生成法を原理的に内包した新たな検知方法およびその学習法を提案する。更に、ファクトチェックを自動化した自動ファクト照合(Automatic fact verification)の高度化・メディア解析技術との融合に取り組む。

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人工知能によるオンライン紛争解決(ODR)システムの構築

 基盤研究(A) 

研究代表者:情報学プリンシプル研究系教授 佐藤 健

本研究は、以前開発した民事裁判上の争点整理システム(対象:弁護士・裁判官のような法曹向け)をインタラクティブなオンライン紛争解決(Online Dispute Resolution(ODR)) システムの各フェーズ(診断、交渉、調停、評価)に援用することにより、人工知能技術を用いた効率的な一般人向けのODRシステムを構築する。研究期間は3年で、まず、ODRにおける技術的問題点、法的問題点の洗い出しを行い、それを踏まえたODR各フェーズの支援機能検討を行い、最終的には各フェーズの支援機能を統合したプロトタイプシステムを構築して一般の人に試用してもらい、有用性を検証する。

知識表現・推論と機械学習の統合によるロバストAIの実現

 基盤研究(A) 

研究代表者:情報学プリンシプル研究系教授 井上 克巳

人工知能(AI)研究においては、機械学習(Machine Learning; ML)の発展によりパターン認識機能が近年飛躍的に向上しているが、記号処理を伴った高度な知的作業においては知識表現・推論(Knowledge Representation and Reasoning; KR)が活用されてきた。
本研究では、これまで独立して研究されてきたMLとKRの両技術を有機的に統合することで、説明可能であってロバスト性も有するような次世代のAIを構築するための技術基盤を確立する。このために、(1) KR技術の導入によるML技術の説明可能性・更新容易性の向上、(2) ML技術に支えられたロバストなKR技術の開発、(3) MLとKRの統合による画期的なAI応用、という3つの研究目標を設定している。

視覚的障害物がキャンセルされた光線場を実空間中に創出する超多眼系構築技術の探索

 挑戦的研究(萌芽) 

研究代表者:コンテンツ科学研究系准教授 児玉 和也

狭小な雑居ビル等は視界を大きく遮る柱や壁の存在に悩まされながらも、老舗のライブハウスから数多のアイドルグループを育成した劇場に至るまで、安価なコミュニティスペースとして流用され、演劇、音楽、映画など新しい対抗文化を力強く支える持続可能な地域社会の拠点となってきた。感染症対策が要請した新時代のソーシャルディスタンスのもと、さらなる狭小空間のリサイクルにより都市の効率的コンパクト化を推し進めるには、こうした視覚的問題の解消が欠かせない。空間中を飛び交う光線を遮蔽物の前後等で自在に入出力し視覚的障害物の仮想的透明化を実現する超多眼系の構築に取り組む。

多様な計算効果の時相的・状態依存的性質検証のための型システム

 若手研究 

研究代表者:アーキテクチャ科学研究系准教授 関山 太朗

高信頼ソフトウェアの実現には状態管理が必要な様々な機能群(計算効果)に対応したプログラム検証技術が必要となる。本研究課題では計算効果の正しい使い方を表す時相的性質と、プログラムの状態に関する状態依存的性質を検証するための新たな型システムについて研究を行う。これらの性質を検証することで、プログラムが計算効果を正しく使用しているか、プログラムが計算効果の正しい状態を保持しているかを検証することを目指す。

談話的言語理解を評価する文章読解データセットの構築

 若手研究 

研究代表者:コンテンツ科学研究系助教 菅原 朔

自然言語の理解を実現するシステムの評価タスクとして、文章を読んで質問に答えさせる読解タスクが近年さかんに取り扱われている。しかし、既存のデータセットでは説明的・事実的な内容の文章をもとに質問が作成されることが多く、複数の文や文章全体にわたる内容にかかわる理解を問うことができず、人間らしい高度な言語理解を評価するためのタスクとして限界があった。本研究ではまず文の相互関係の理解に関連するような言語現象・推論を定義し、それらが含まれるような文章を収集する。その文章に対して関係の理解が明示的に要請されるような質問を収集することで、文脈的な事象の遷移・関係性を正確に捉える能力を評価するためのデータセットを構築し、より高度な言語理解システムを開発することを目指す。

指点字コミュニケーションにおける伝達と理解メカニズムの解明

 基盤研究(B) 

研究代表者:情報社会相関研究系准教授 坊農 真弓

本研究課題の目的は、指点字コミュニケーションにおける伝達と理解のメカニズムを明らかにすることである。方法として、指点字対話を書き起こす手法を開発し、データベース化することにより、連鎖分析や発話内容の分析を可能にする研究環境を整備する。盲ろう者とは、視覚と聴覚に障害を持つ人々のことを指す。指点字とは、先に視覚を失い、その後聴覚を失った「盲ベース盲ろう」に分類される盲ろう者に用いられる傾向のあるコミュニケーション手段である指点字は「盲ろう者の指を点字タイプライターの6つのキーに見立てて、左右の人差し指から薬指までの6指に直接打つ方法である」(東京盲ろう者友の会ホームページ)。本研究課題では、すでに収録済みの指点字対話データに対し、会話分析・相互行為分析を実施する。これらの分析のためには、指点字の打点位置を同時に起こる音声と一致させ、やりとりを書き起こす手法の開発が必要不可欠である。この手法に基づく分析結果を、盲ろう者当事者らと共有し、当事者研究の手法で本研究の発展の可能性を検討する。

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