研究 / Research

科学研究費助成事業(科研費)― 基礎から応用までのさまざまな研究に挑戦 ―

科研費は、研究者の自由な発想に基づいて行われる学術研究を広く支える資金であり、基礎から応用までの幅広い学術研究を対象としています。教員・研究員ともに、科研費の応募を積極的に行っており、多数採択されています。
また、獲得した科研費を他の研究機関の研究者(研究分担者)へ配分し、連携のもとで研究に取り組んでいます。
同様に、他の機関の研究者が獲得した科研費にも、研究分担者として多くのNIIの教員が参画しています。

採択状況(2023年度)

採択件数 金額(千円)
研究代表者 64 393,048
研究分担者(他機関→NII) 52 56,302

【科研費による研究事例】

歴史ビッグデータ:史料とデータ駆動型モデルを結合する分野横断型研究基盤の構築

 基盤研究(A) 

研究代表者:コンテンツ科学研究系 教授 北本 朝展

現代のビッグデータ研究の根底にあるのは、データの大規模な収集と統合に基づき世界を復元して解析するという「データ駆動型アプローチ」である。このアプローチを過去に延長することで、過去の世界を情報空間に復元し解析することが歴史ビッグデータ研究の目的である。本研究は、過去の世界を記録した史料と過去の世界をデータ駆動型モデルで解析するアプリケーションをend-to-endで結合する「データ構造化ワークフロー」に注目し、様々な最新技術を投入することでその効率化と高品質化を図る。そして、歴史気候学や歴史地震学など、過去の記録を大規模に収集してデータ駆動型モデルで解析するアプリケーションに対応した「歴史ビッグデータ研究基盤」を構築する。史料を読み解く人文学者とデータ駆動型モデルで解析する理工学者の間を、オープンな分野横断型研究基盤を構築する情報学者が結合することで、過去の知を現代の社会課題解決に活用する道を開く。

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新しい概念に基づいたアルゴリズム・最適化の問題創出とその効率的求解方法の研究

 学術変革領域研究(A) 

研究代表者:情報学プリンシプル研究系 教授 宇野 毅明

現在コンピュータサイエンスで考えられている基礎的な問題の多くは、40~50年前に考え出されたものであり、現在までもその大きな構造は変わっていない。その間に世界は大きく変わり、社会の構造の捉え方、社会心理学などによる新しい人の心の捉え方などが登場し、これら基礎的な問題では扱えない事例が多く出てきている。例えばデマ投稿を発端としたコロナ禍のトイレットペーパーの買い占めでは、デマであることをすぐに判定し、それを人々に迅速に伝えた結果、買い占めが起きてしまった。情報学の問題、デマの判定、情報の迅速な伝達が達成されても、社会課題が解決されない、という一例であろう。このような状態は社会心理学ではパニックと呼ばれ、このパニックの意味は「自分は冷静だがそばの人は何するか分からない」と人々が思っている状態だといわれる。このような観点からは、デマ拡散の防止は全く異なる観点から研究開発されるべきであろう。当研究プロジェクトでは、情報学の研究者をはじめとする人文学、自然科学、数学など多くの分野の研究者が、概念と考え方、価値観を交換することで深い議論を行い、それによってこのような情報学が未来に取り組むべき課題や解決方法を構想し、カタログのような集合体を構築する。困難な異分野を横断する議論を効果的に質高く行うために、このような異分野の研究者が議論を行うための手法論や、思考法、伝達法、聞き取り法、議論運営法、場の構築法なども併せて構築する。

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グラフアルゴリズム基盤と最適化:理論研究と高速アルゴリズム開発

 基盤研究(S) 

研究代表者:情報学プリンシプル研究系 教授 河原林 健一

近年「第4の科学」と呼ばれる学術領域が勃興し、ほぼあらゆる科学の分野で情報処理技術が必要不可欠となっており、その高性能化の原動力となるアルゴリズム基盤の重要性は一層高まっている。特に現在の情報検索、プライバシー保護などのアルゴリズム革新は国家規模のビジネス創成につながっている。本研究では、数学的理論を駆使することにより、アルゴリズムの理論分野(おもにグラフアルゴリズム)の強化および、理論分野の道具を利用してアルゴリズムの高速化・スケール化に挑む。
中心となる研究課題は以下の3点
1.離散数学、グラフアルゴリズムにおける構造解析
2.オンラインアルゴリズム開発と機械学習への応用
3.アルゴリズム技術を機械学習への応用

近似コンピューティングを用いたチップ内ネットワークの高セキュリティ・高性能化

 基盤研究(B) 

研究代表者:アーキテクチャ科学研究系 教授 鯉渕 道紘

Society 5.0が目指す「国民の安全と安心を確保する持続可能で強靱な社会」の実現に向けて、ゼロトラストセキュリティの半導体チップの実現が必要である。そこで、本研究では、情報漏えいと計算妨害を防ぐチップ内ネットワーク技術を探求する。具体的には、チップ内ネットワークにおけるハードウェア・トロイによる情報漏洩、なりすまし、DoS(Denial of Service)攻撃、サイドチャネル攻撃を防ぐために、(1)近似コンピューティング技術である電圧オーバースケーリングと非可逆圧縮による情報隠蔽、(2)改ざんデータをそのまま計算に利用するアプリケーションレベルの耐タンパー技術について検討する。そして、最終的に、セキュリティ強化と高性能化を両立する新たな技術の実現を目指す。

生物的メカニズムを利用した大規模センサーネットワークの非集中型管理に関する研究

 基盤研究(B) 

研究代表者:情報社会相関研究系 教授 佐藤 一郎

心筋の伸縮やホタルの発光など、自然界には複数の実体の振動現象の収益が自律的に揃う現象が知られている。本研究はセンサーネットワークを構成する複数センサーノードによる定期的な測定を各ノードの振動現象として捉え、生物の振動同期の仕組みを活かすことで非集中制御によりセンサーノードの測定の周期を揃える。そして揃った周期の中で、位相に相当する測定タイミングを、複数ノード間で揃える、つまり同時に多重測定したり、または均等にずらす、つまり時間粒度を高めることで、センサーネットワークの測定を高度化する手法を提案する。またその手法をシミュレーションおよび実際のセンサーネットワーク上で実現して、有効性や効果を明らかにしていく。

オーバーレイサービスの実態とプレプリントの利用に与える影響

 基盤研究(C) 

研究代表者:コンテンツ科学研究系 助教 西岡 千文

オープンサイエンスの広まりとともに、学術雑誌での掲載に先行する査読前の論文(プレプリント)をプレプリントサーバで公開する動きが広まっている。このような中、プレプリントを対象として査読等の学術的認証を提供するオーバーレイサービスが多く提供され始めている。本研究課題では、これらのオーバーレイサービスを、学術的認証の形態やオープン性といった軸により体系的な整理を行い、国内外でのオーバーレイサービスの受容状況を明らかにする。オーバーレイサービスによって認証されているプレプリントの被引用数等の経時変化を観察することで、オーバーレイサービスの各種特徴がプレプリントの利用に与える影響を定量的に明らかにすることを目指す。

光の広波長域情報を複合的に活用した海中環境における形状推定

 若手研究 

研究代表者:コンテンツ科学研究系 助教 淺野 祐太

海底の形状や深度、海洋生物の3Dデータを非破壊・非侵襲・非接触で取得する方法は、海底や水産資源を調査する上で最も重要な技術の一つである。従来、高精度かつ高解像度の3Dデータを取得するために、画像中の空間的な特徴量や光の飛行時間・位相の特徴量を使用して、対象までの深度を計測する手法が開発されてきた。しかし、これらの手法は一般的に空気中で画像を取得することが想定されているため、光の吸収・散乱・屈折現象が発生する海中環境には、直接適用することができず、様々な制約が存在する。本研究では、解析の妨げとして捉えられてきた光の物理現象による影響自体を解析の手掛かりとして、光の広波長域情報を複合的に解析することで、非破壊・非侵襲・非接触で広範囲・高分解能・鮮明な海中環境での形状推定技術の実現を目指す。

指点字コミュニケーションにおける伝達と理解メカニズムの解明

 基盤研究(B) 

研究代表者:情報社会相関研究系准教授 坊農 真弓

本研究課題の目的は、指点字コミュニケーションにおける伝達と理解のメカニズムを明らかにすることである。方法として、指点字対話を書き起こす手法を開発し、データベース化することにより、連鎖分析や発話内容の分析を可能にする研究環境を整備する。盲ろう者とは、視覚と聴覚に障害を持つ人々のことを指す。指点字とは、先に視覚を失い、その後聴覚を失った「盲ベース盲ろう」に分類される盲ろう者に用いられる傾向のあるコミュニケーション手段である。指点字は「盲ろう者の指を点字タイプライターの6つのキーに見立てて、左右の人差し指から薬指までの6指に直接打つ方法である」(東京盲ろう者友の会ホームページ)。本研究課題では、すでに収録済みの指点字対話データに対し、会話分析・相互行為分析を実施する。これらの分析のためには、指点字の打点位置を同時に起こる音声と一致させ、やりとりを書き起こす手法の開発が必要不可欠である。この手法に基づく分析結果を、盲ろう者当事者らと共有し、当事者研究の手法で本研究の発展の可能性を検討する。

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