研究 / Research
コンテンツ科学研究系
黄 浪HUANG Lang
コンテンツ科学研究系 助教
研究紹介
もうSFではない―囲碁のその先へ
私は幼い頃からSFに夢中でした。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場するタイムトラベルはもちろん、人間の思考や身体構造を再現する人工知能(AI)や先進ロボットなど、当時は遠い未来のものと思われていたテクノロジーに強く惹かれていました。
私の進路を大きく変えたのは、2016年、人工知能囲碁プログラム「AlphaGo」と韓国の元プロ囲碁棋士、イ・セドル氏との対局でした。当時、コンピュータサイエンスを専攻する大学生だった私は、AlphaGoが4対1で勝利したことに衝撃を受けました。機械が人間を超えることができるのだと、初めて実感した瞬間でした。これが、AI研究の道に進み、自ら学習し、人間を超えるAIを生み出したいと決意するきっかけとなりました。
その後、自己教師あり表現学習やマルチモーダル表現学習[注1]の研究へと進み、東京大学の電子情報学専攻で博士号を取得しました。2025年にNIIの助教となった現在も、AIが自ら学習し、環境の変化に適応していく可能性を追究しています。
私が特に関心を持っているのが、大規模言語モデル(Large Language Model, LLM)で使われる自己回帰モデルです。自己回帰モデルは、すでに生成された情報をもとに、次に何を生成するかを予測します。しかし、テキストとは異なり、画像や動画には必ずしも決まった順序がありません。人間は常に未来を予測しながら行動しています。自己回帰モデルも同じように、未来を見据えることで、何を生成し、何を記憶すべきかをより適切に判断できるのではないか。
未来の情報を現在の生成に生かす―そう考えたことが、コンピュータビジョン研究、そしてリアルタイム動画生成モデル「Video-Mirai」につながりました。
「Video-Mirai」で未来を見据える
Video-Miraiは、自己回帰モデルと拡散モデルを組み合わせ、未来のフレームを考慮しながら動画を生成します。また、「適応」も重要な特徴です。例えば、生成途中で品質が低下した場合、それを教師信号[注2]としてモデルを適応させることで、品質を改善しながら生成を続けられます。
自己改善には、アーキテクチャの構築、学習、そして信号を受け取った際の適応という三つの段階があると考えています。モデルが新しいスキルを学習するとき、変化する重みは全体のごく一部です。その重みの差分(weight delta)は、ソフトウェアのアップデートのように共有でき、ベースモデルに新しい能力を追加することができます。学習に使われたデータそのものを共有する必要がない点も重要です。
私の研究は、ヒューマノイドロボットにも広がっています。動画はロボットが世界とやり取りする自然なインターフェースであり、人間とのコミュニケーションには、映像や言語などを組み合わせるマルチモーダルな技術が必要です。現在は、カメラの映像をもとに、タオルをたたむ、物を拾うといった作業のために、ロボットが取るべき行動を予測する研究にも取り組んでいます。
SFを現実のものにする
一方、Video-Miraiの課題は、長時間の動画で一貫性を保つことやハルシネーション・不自然な動きを抑えることです。そこで、これまでに生成した内容や重要な情報を記憶する機能、物理法則を考慮した制約を動画生成に組み込む研究を進めています。
SFから得たアイデアは、今も私の研究の原動力です。自分の代わりに家事をし、買い物をし、会話ができ、私の意図を理解してくれるアシスタントロボットがいたら面白いと思います。でも、正直に言えば、タイムマシンの方がほしいです。AI開発の進歩は非常に速く、10年後の世界を想像することさえ難しくなっています。これからどんな未来が訪れるのか、とても楽しみにしています。AIによって研究への障壁が下がる今だからこそ、私たち人間の研究者が未来に向けて何をすべきなのかを考えていかなければならないと思っています。

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