研究 / Research
アーキテクチャ科学研究系
KURIMOTO Takashi
アーキテクチャ科学研究系 教授
研究紹介
タフに、そして柔軟に - 次世代研究ネットワークのあるべき姿へ
大学で情報科学を学んだわけではなく、大学院修士課程では、分子と原子の衝突について研究していましたが、実験で手を動かしているうちに「モノづくりとからみながら、実際に世の中で利用されるような研究をやりたいな」という気持ちが膨らんできました。
そのころ、ネットワーク技術が注目され始めました。人の生活を変える基盤技術は魅力的でしたし、「暖かい南の島にいながらも仕事ができる」という私自身の夢を叶えられるかもしれないと思いました。そこでネットワーク研究を志し、NTTに就職して研究所で社会人生活を始めました。1990年を過ぎたばかりの時期です。
次世代ネットワーク開発は「街づくり」
NTTの研究所では、高速大容量の通信を実現する装置や、通信の信頼性を向上させるための開発や研究を続けてきました。また、またNTTの事業部では、高速アクセスや大容量化の節目になる時期、ネットワーク全体がそのスピードや容量に耐えられるようにすることに注力して、次世代ネットワークを作りあげてきました。
ヴィジョンをもって、次世代ネットワークの構想や構成を考え、構成を検討するには、構想から実現まで5年くらいかかります。実現後も、長期間利用され続けます。大変で、かつ面白い仕事です。都市計画でいえば「最初に、どういう道路を作っておくか?」に似ています。都市が出来てから道路を作り直すことが困難なのと同じように、ネットワークに問題が発生しても、基幹部分は簡単には直せません。可能な限り、問題が発生しないように設計しておく必要があります。一方、柔軟に変えられる部分も、最初から含めておく必要があります。
基幹になる部分と柔軟にしておく部分を、どう切り分けるのか? 簡単に変えられないけれども大規模データの通信が得意なハードウェアの世界と、柔軟に多様な機能を作れるけれど大規模データの通信は苦手なソフトウェアの世界を、どう「棲み分け」させるのか? お客様それぞれの「高いセキュリティを」「大容量を扱いやすく」「お金の取引を扱うのでデータの遅延を少なく」といった多様な要求に応えるために、どうするのか? 課題は尽きませんでした。
NIIの「SINET」で未来の国際的研究を拓く
私がNIIで取り組んでいるのは、大学や研究機関を結ぶ学術ネットワーク「SINET(サイネット)」です。大学と研究機関をつないで実験データを共有したり、研究機関のデータを大学に転送してそこで分析したり、さまざまな利用方法があります。素粒子研究のための「カミオカンデ」のような施設や、いくつもの国の研究者が関わる天文学の電波望遠鏡プロジェクトでは、一秒間に数十ギガビット~数百ギガビットのデータを転送する必要があります。どうしても、大容量を高速に送受信できるネットワークが必要です。
また、接続する相手は国内とは限りませんし、いつも接続しておけるとも限りません。
2016年からスタートする新しいSINETでは、たとえば日本とアメリカとドイツで仮想的な「研究プロジェクト内ネットワーク」を、必要なときだけ構築し、しかも必要とされる容量の通信を可能にできるという仕組みを、複数の国をまたいで実現すできる機能を盛り込んでいます。国際的な実験研究に、役立つだろうと思います。
私はこれまで、実用化に関する研究開発を行ってきました。ネットワークは「使われてなんぼ」です。皆さんの要望を聞き、叶える何かを開発し、受け入れられて役に立って喜ばれればいいと思っています。もちろん、コストや実現性は大いに考える必要がありますが、どんどん高度化していく皆さんの要求に応え、最終的に「使える」ものにつながる実用化研究が出来ればいいな、と思っています。