NIIについて / About NII

学術情報ネットワーク外部諮問委員会報告書

「学術情報ネットワーク外部諮問委員会」報告について

平成25年6月4日
国立情報学研究所

 国立情報学研究所(NII)は、学術情報ネットワーク(SINET)の整備・運用を行ってきており、我が国の大学等における学術研究及び教育活動全般を支える情報ライフラインであるとともに、先端的学術研究の推進、連携に不可欠な最先端ネットワーク基盤として、その役割を果たしている。平成23年2月からはSINET4の構築を開始し、平成23年4月より5年間の計画でSINET4の運用を開始した。東日本大震災時には、東北地区は既にSINET4に移行していたが、利用者への影響はなかった。また、現在、平成28年度以降の次期学術情報ネットワークのあり方について、検討に着手しているところである。
 今般この一環として、国内の情報学および学術情報基盤に造詣が深い有識者にご参集いただき、中長期的視点での助言をいただくための「学術情報ネットワーク外部諮問委員会」を設置、平成25年3月に委員会を開催し、報告書として取りまとめいただいたので、ここに公開するものである。

報告書
委員名簿

学術情報ネットワーク外部諮問委員会報告書

平成25年6月4日

エグゼクティブサマリー

学術情報ネットワーク外部諮問委員会は、2013年(平成25年)3月8日委員会を経て、この最終報告書をとりまとめた。

委員会は、学術情報ネットワークSINET4が、2011年(平成23年)3月11日に発生した東日本大震災においても、いささかも影響をうけることなく機能したことについて、1995年(平成7年)の阪神・淡路大震災という過去の教訓を生かして対応をおこなった成果であると評価する。

次期学術情報ネットワークの構想にあたっては、学術情報ネットワークが日本の研究を先導する責務を持っている点を踏まえて整備計画が立案されるべきである。ネットワークのみならず、クラウド、ビッグデータ、スーパーコンピュータ連携など研究活動の動向を考慮にいれた設計が重要であり、これらに対応するためには、圧倒的なデータ量への対応や高速性を備えることが必要である。さらに、大学における新しい連携事業や教育連携も視野に入れ、また、セキュリティについても十分配慮されていなければならない。大学および研究者コミュニティにおける学術情報ネットワークの重要性のみならず、さらなる高速性や新機能への期待はますます高まるものと考えられる。

PCやコンピュータの役割が大きく変化するこれからの時代には、我が国の研究活動基盤を支える学術情報ネットワークにもそれを予測した設計が求められる。世界のトップランナーとなる意識をもって大胆な計画が立案されることを要望する。その際には、全都道府県へのノード配備を維持しつつ、回線の経済的な整備の可能性も考慮することが望ましい。

国際連携、特に時差のない地域とのリアルタイムな連携など新たなニーズも高まると予想される。アジア諸国のプレゼンスが高まるなか、近隣諸国との間でネットワークの連携はもちろんのこと、様々な連携関係も確保していく必要がある。

国立情報学研究所は学術情報ネットワークの他にも、大学図書館の総合目録データベースや機関リポジトリなどのコンテンツ事業も進めており、ネットワークとコンテンツをうまく関連付けて情報環境を提供していくことが可能である。この点で、国立情報学研究所は他を差別化でき、我が国だけでなく世界を先導することができる。委員会は、研究所の今後の取り組みに大いに期待する。


委員会所見

所見1:
阪神・淡路大震災では、建物の倒壊などによりネットワークが途絶した例があった。今回はその教訓を活かし、データセンターを整備するなどの対応により、ネットワークの接続を維持し続けた点は評価できる。また、今回の経験をエンジニアの立場から情報発信するとよいのではないか。

所見2:
ネットワークを中心とした基盤は、学術研究及び科学技術研究の重要な基本インフラであり、欧米や中国に遅れをとることは問題だ。厳しい予算状況の中でも、最大限の技術的な工夫もしつつ、整備を進めてほしい。また、必要があれば予算の増額要求も行いつつ、諸外国に遅れをとることなく整備すべきだ。

所見3:
将来的に必要となるネットワークの帯域や性能については、まずは欧米の事例と比較しながら検討していくのがよいと思われる。費用の上限をあらかじめ設定して、その範囲内で計画を考えるのはよくない。

所見4:
HPCI構想の中で、「京」を中心として、大学に設置されたスパコン群とのクラウドが生まれつつある。クラウドとビッグデータの時代には、求められるスピードとデータの量がこれまでと桁違いに大きくなる。

所見5:
大学改革に関連して、大学はさまざまな大学間連携の試みを行っている。ネットワークを活用した遠隔授業も当たり前のこととなり、今後も増加していくであろう。こうした取り組みに伴うデータ量の増加は相当大きいはずだ。また、大学関係者のパソコンや情報端末の使い方がこれまでと全く変わってくる。セキュリティとデータの安全性を考慮して、ネットワークを介してクラウドを利用するといった使用形態が顕著に進んでいくと推測される。

所見6:
文部科学省の検討会で、アカデミッククラウドやビッグデータの重要性が議論されている。また、中央教育審議会の審議の中で、学位規則が改正され、学位論文のインターネット公開が基本となった。それに伴い、NIIが進めているクラウド型の機関リポジトリであるJAIRO Cloudの重要性が増し、それに対するアクセスも増加することが予想される。

所見7:
所見4,5,6のような状況の変化を考えると、40Gから100Gへの増速で対応できるかどうかは疑問だ。ニーズの拡大を視野に入れて、次期SINETの計画を立てることが重要だ。SINETは社会インフラを先導するという役割を担っているので最大限の努力をしてほしい。

所見8:
SINETが現在提供している帯域が広すぎるという指摘があるとのことであるが、この指摘は近視眼的である。増速には予算の問題があるが、全ての回線を専用線で整備するのではなく、より経済的な整備も可能となっているので、その必要性を説明しながら、企業とも連携しながら増速に努めていただきたい。一方、SINETは利用者から経費を取らずにネットワークを提供している。そのため利用者側から過剰な要求が出てくることも予想される。これを調整する機能も重要である。

所見9:
「メリハリのある配備」と地域格差の解消のいずれを優先するべきか。これは重要な論点だが、その中で全県展開という方針は堅持してほしい。

所見10:
海外との接続の重要性も忘れてはならない。グローバル化の観点から、今後、国際接続がますます重要となってくる。特に時差のない地域とのリアルタイムの共同作業や授業連携などが増えると期待される。また、アジア諸国の存在感が高まる中、アジア諸国とのネットワーク接続もしっかり確保してほしい。

所見11:
NIIはこれまでにSINETだけでなく目録所在情報サービスのようなコンテンツ事業も推進し、また機関リポジトリの取り組みも進めてきた。ネットワークだけでなく、データやコンテンツなどにも配慮して、一体化した学術情報基盤を構築していかなければならない。

所見12:
NIIは、研究の成果を活かして、ネットワークやコンテンツの事業を実際に運営しているという点で、他の情報学の研究所と差別化できる。こうした優位性を最大限に活用して、日本だけでなく世界を先導してほしい。


委員名簿

委員長
有川節夫(九州大学総長)

委員
片山泰祥(日本電信電話株式会社代表取締役副社長)
高橋真理子(朝日新聞社 編集委員)
結城章夫(山形大学学長)

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