研究 / Research

アーキテクチャ科学研究系

青木 俊介
AOKI Shunsuke
アーキテクチャ科学研究系 助教
学位:博士(計算機工学)カーネギーメロン大学
専門分野:情報通信ネットワーク
研究室WEB

サイエンスライターによる研究紹介

「完全自動運転」の社会実装を目指して

 私は自動車の「完全自動運転」を実現するための技術を研究しています。人の手や判断を完全に介さない「レベル5」と呼ばれる自動運転を確立するには、未知の状況を引き起こす歩行者や人間が運転する車両の行動意図を自動車に搭載されたAIがいち早く理解し、運転行動を決定する必要があります。また自動運転技術は、単に車の運転を自動化するだけでなく、交通や人流のデータを生み出し、それを利活用することで、都市生活の新しいプラットフォームにもなりうる可能性があります。この10数年で「ガラケー」が「スマホ」になったことで、健康管理や娯楽の新しいプラットフォームになったのと同じような大きな変化を自動運転技術は社会にもたらすでしょう。その未来を見すえ、都市IoT基盤と自動運転車が無線通信で繋がり、データを共有するシステムも研究対象としています。

 研究の手法としてはシミュレーションだけでなく、なるべく実機を用いた検証・研究を行うことを心掛けています。また私は研究信条として、"real-world problemを解く"を掲げています。理論の研究ももちろん大切ですが、潮流の変化が激しい情報科学の分野では現実世界をよく観察し、現実世界の問題に取り組むことが大切です。その実現のために研究室で所有する複数の移動ロボット・自律ロボットを活用しながら、自動運転車の開発に関連する企業とも積極的に連携して研究を進めています。

複雑な分散協調システムゆえの課題と面白さ

 私が自動運転の研究の道に進んだ理由は、大きく二つあります。もともと私は「バラバラなものが単独で動きながら、全体として協調して動く」、いわゆる分散協調システムに工学的な興味を抱いており、修士時代は、IoT(Internet-of-Things)や分散協調システム・組込システムの研究をしていました。自動運転システムも自動車一台の挙動を考えれば良いわけではなく、複数の自動車の動きを考えなければいけません。分散協調システムとしては非常に複雑ですが、非常にやりがいのある研究対象と感じています。

 二点目として、こちらのほうがより重要ですが、自動運転は「社会を大きく変革する技術」であることです。情報科学という工学と純粋科学を融合させながら、人々が解決を待ち望んでいる時代の要請に直接応えることができる研究であること。20年後の人類の未来に大きく資することができる可能性があることが、工学の研究者としてのやりがいになっています。もちろん自動運転システム自体がコンピュータシステムとしてとても面白いことも、研究を続けている理由の一つです。例えば自動運転車では、位置情報を知るための機器であるGPS受信機や三軸加速度から情報を得つつ、カメラやRadar類から周囲の物体情報を得て、それと並行して運転行動を決定するソフトウェア、車両制御を計算するソフトウェアを同じコンピュータ基盤上で動かす必要があります。そのような技術的に適度に困難かつ面白い課題を、さまざまな分野の研究を取り入れながら解決を目指すことが、研究を続ける大きなモチベーションになっています。

外部の情報を活用し、自動運転車のエネルギー効率を高める

 現在進めている研究の一つが、「自動運転車の走行効率化」です。自動運転車は、GPS衛星、クラウドや地図データベース、無線通信などを用いて様々な情報を外部から得ることができます。それらの外部情報をうまく利用することで走行にかかるエネルギーをできるだけ効率化する方法についての研究成果を、2021年の米国の自動運転に関する国際学会「IEEE Intelligent Vehicles 2021」で発表しました。(MultiCruise: Eco-Lane Selection Strategy with Eco-Cruise Control for Connected and Automated Vehicles)

 たとえば信号機には、青・黄・赤の3つの情報があります。走行中の自動運転車が、信号機の手前500mの地点で、いつ青から黄色に変わるかを正確に知ることができたら、そのタイミングに合わせてゆっくりと減速したりすることで、エネルギーを節約することができるわけです。この他にも、エネルギー効率を考慮した高速道路でのクルーズ走行や車線の変更などについて、アメリカの大手自動車メーカーとともに共同で成果発表をしています。

 自動運転車の開発を実現するためには途方もない数の技術課題をクリアする必要があり、これは大学の力だけでは何ともなりません。大学は理論研究・実証研究には向いていますが、大学単体の力で例えば実車両を用いた開発や、車両の生産・運用・社会実装まで持っていくことはほぼ不可能です。これを解決するために、NIIでの研究を活かしながら、民間と連携した研究活動を進めていこうと考えています。私の研究は自動運転のいわば「本丸」を攻めるものです。悲しい現実ですが、交通事故によって命を落とす人は毎年日本だけでも数千人もいますし、一生残るケガを負う人もたくさんいます。また高齢の方や心身にハンディをお持ちの方の中には、車を運転したいのにできない、したくない、という人がたくさんいます。そうした方々にとって自動運転は安全な「移動の自由」をもたらす技術であり、自分の研究によって少しでも未来のモビリティ社会に貢献ができたらと考えています。


取材・構成 大越裕

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