研究 / Research
コンテンツ科学研究系
KOMIYAMA Yusuke
コンテンツ科学研究系 准教授
研究紹介
■真の「オープンサイエンス」を目指して
大学院から前職にかけて、ライフサイエンス分野でのデータサイエンス(バイオインフォマティクス)研究を行っていました。AIに学習させるデータを世界中の論文や研究データを国際的なデータベースから収集していたのですが、当時は自身の目的に沿ったAIの精度を上げるには、引用する先行研究のデータ数が不十分でした。同じ頃に世界では、研究データを早期に情報共有し、研究開発のサイクルを加速的に行う「オープンサイエンス」という概念が議論され始めました。その理念の実現のためには、研究データを全国規模で管理・共有されるエコシステムが必要だと考えていました。
2016年に私がNIIへ入所してから、アメリカの研究機関Center for Open Science (COS)が開発した研究データ管理のオープンソースソフトウェアOpen Science Framework (OSF)をベースにして、日本でも使える研究データ管理システムを作ることができないかと模索していたところ、NIIでオープンサイエンスと研究公正を支えるための研究データ基盤の開発が始まりました。それが3つの基盤(管理、公開、検索)で構成されている、現在のNII Research Data Cloud(NII RDC)です。私は、2017年より3つの基盤のうち研究データを管理するGakuNin RDMの立ち上げに参画することになりました。それ以降、GakuNin RDMのシステム開発の責任者を務めております。
■進化を続けるデータ管理基盤 GakuNin RDM
GakuNin RDMは、研究者が研究データや関連資料を管理・共有するための研究データ管理サービスです。2022年からはNII RDC開発の第二期に入り、私の研究グループでは、研究者のデータ管理の利便性向上と、データガバナンスを実現するための新機能の開発に着手しています。NII RDCの7つの新機能のうち、データガバナンスとデータプロビナンスについては、GakuNin RDMグループと連携して開発を進めています。
私の主な研究開発は、研究機関や研究者からの要望を受けて、それを整理し汎用性を持たせた上で、GakuNin RDMに新しい機能を組み込むことです。開発した機能がGakuNin RDMに反映され、それが研究者の利便性向上につながるので、非常にやりがいを感じています。また、米国のCOSとも協力し、日本で研究開発したGakuNin RDMの機能をオープンソースソフトウェアのOSFに還元するための、国際連携も進めています。
これまでに開発した機能の代表的な例としては、研究データの証跡管理システムがあります。GakuNin RDMで管理されているすべてのファイルに「時刻認証局(TSA)」が発行したタイムスタンプを添付することで、その時点で研究データが存在していたことを証明すると共に、GakuNin RDM外でファイル内容が書き換えられた場合、アラートがプロジェクト管理者に自動送信されるなど研究公正が担保されます。研究データ管理に同様の仕組みを導入したという例は欧米でも聞いたことはなく、おそらく世界で初めてのシステムと思われます。
■研究データ管理の概念がすべての研究者に浸透するために
現在、私の担当する管理基盤と、NII RDCを構成する基盤の一つである公開基盤の連携を進めています。これまで3つの基盤はそれぞれ独自に進化を続けてきましたが、基盤間の連携は課題でした。今後、研究者がGakuNin RDMでの操作で、論文や研究データを提携している図書館システムに登録できる基本的な機能を搭載していく予定です。
将来、3つの基盤が完全に連携されるようになると、質の高い研究データに基づく論文が出版され、先行研究の成果のデータを二次利用しやすい時代になります。研究大学の研究者間での研究データ利活用促進のみにとどまらず、中小の大学や民間企業、一般市民も高品質な研究データや論文を利活用できるようになることで、研究予算の格差によらない多様な研究活動が可能になることが期待されます。
研究データ管理の認知度は確実に高まりましたが、研究機関の体制や制度として定着して、一般の研究者の活動に浸透するにはまだ道半ばだと認識しています。それを実現するためには、海外の研究データ基盤との連携や大規模データへの対応、研究ツールとの連携など、まだまだ解決すべき課題は数多くあります。今後も、継続的に学術機関のITセンター、図書館そして研究者などの利用者の声に耳を傾けて、既存システムの利便性や安全性を高めつつ、国際標準化された研究データ基盤を継続的に開発してサービスを提供していきたいと考えています。