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ニュースリリース

「LINEを活用した社会課題解決手法の研究」
2018年度 成果報告書を公開

 兵庫県、尼崎市、丹波市、京都大学大学院情報学研究科、国立情報学研究所ロバストインテリジェンス・ソーシャルテクノロジー研究センター(CRIS: Center for Robust Intelligence and Social Technology)、LINE株式会社の6者は、「LINEを活用した社会課題解決手法の研究」(*1)の2018年度 成果報告書をまとめました。報告書の概要については、以下のとおりです。

 なお、報告書の完全版は以下のURLに掲載しています。
https://www.nii.ac.jp/research/centers/cris/

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<LINEを活用した社会課題解決手法の研究 2018年度 成果報告書の概要>

1.研究の概要

(1) 研究体制

兵庫県、尼崎市、丹波市、京都大学大学院情報学研究科、国立情報学研究所ロバストインテリジェンス・ソーシャルテクノロジー研究センター(CRIS: Center for Robust Intelligence and Social Technology)、LINE株式会社の6者は、2018年4月にLINEを活用した社会課題解決手法の研究に関する連携協定を締結。連携協定を基に、京都大学大学院情報学研究科 黒橋禎夫教授(CRIS 副センター長)の主導によりCRISの研究プロジェクトとして実施した。

(2) 研究実施内容

社会課題の解決に資する人工知能(AI)の開発、並びに対話分析による住民サービス向上及び地域活性化施策の策定支援を目的とした共同研究の一環として、兵庫県尼崎市および丹波市の行政サービスに関する対話システム「尼崎市AI案内サービス」「丹波市AIサービス」をLINE上で運用する実証実験を実施、これに基づいた分析を行った。

(3) 実証実験の実施期間

2018年6月18日〜2019年3月31日
※現在は「尼崎市LINE@」「丹波市LINE@」に対話システムを統合、継続運用中

(4) 実証実験の実施対象

市民全般(市外在住者も利用可能)

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2.実証実験の結果

(1) 利用者

尼崎市 1,363人、丹波市 812人。両市とも30-40代を中心に幅広い年代の利用者を得た。

(2) 利用状況

[対話カテゴリ] 利用者からの問い合わせは両市とも行政サービス全般に渡って行われたが、対話カテゴリ上位は、尼崎市が「雑談・基本情報」「戸籍・住民票・印鑑登録」「防災」、丹波市が「雑談・基本情報」「ごみ・環境」「防災・防犯・安心・安全」であった。

[災害時の問い合わせ] 大雨・台風などの大規模災害発生時には、両市ともに災害に関連した問い合わせが急増し、問い合わせ内容も防災や災害で発生したごみに関連する質問が過半数を占めた。

[休日・夜間の問い合わせ] 対話数の曜日・時間帯分布としては、平日9-17時での問い合わせ数は両市とも全体の約5割であり、残りは夜間、土日等の行政窓口営業時間外に発生している。時間外での利用が全体の半数ほど存在することから、問い合わせ意欲があっても時間的な制約等から窓口を利用しない層へリーチすることができ、潜在的なニーズに応えることができた。

(3) 利用者アンケート結果(尼崎市132人、丹波市85人の回答)

[サービスの利便性・欲しい情報の取得状況] 「とても便利」「まあまあ便利」「普通」と回答した割合:尼崎市73% 丹波市61%。欲しい情報が得られたかどうかについては、「得られた」尼崎市が46%、丹波市が34%。両市とも約半数が「今後も利用したい」と回答。

[よかった点] 両市とも、「24時間いつでもどこでも問い合わせが可能だった」が半数以上の回答者から見られ、次いで「人に気を使わないで気軽にコミュニケーションできた」「ホームページやWeb検索で情報を探すより解決が早かった」「質疑応答だけでなく市からの情報などが発信されていた」など、チャットアプリケーションの特性を評価する回答が見られた。

[課題を感じた点] 両市とも、「的確な回答ではなかった」が最も多く、次いで「文脈が読み取れていない」「回答を得るまでの手順が長い」などの指摘が見られた。

[今後の機能向上に関する期待] 両市とも「住んでいる地域・地区に特化した情報の提供」が6割以上の回答者から見られ、次いで「より柔軟な会話対応」「近隣市町村に関する情報の提供」「自分の特性にあった情報の提供」など、身近な地域や自分の特性にあった情報提供への希望が見られた。

3.考察

(1) 今回の実証実験で得られた知見や課題

[回答の精度] 対話システムの回答精度をログ分析により人手で評価したところ、76%は「回答が適切」であった。不適切なもののうち、最も多かった理由が、FAQデータ(対話システムに投入する質問・回答データ)に該当する情報がそもそも含まれていないケースで、11%あり、FAQデータ拡充が対話システムの回答の精度を挙げる主要な課題であることが明らかになった。なお、検索の失敗については、FAQ検索システムに深層学習言語モデルを併用した統合モデルを開発することで改良を図った。

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自動応答の評価結果

[FAQデータの整備] コールセンターが存在しFAQデータの情報量が2.5倍以上多い尼崎市と丹波市では、利用者による利便性の評価や欲しい情報の取得状況に差が出る結果となった。前述のとおり、FAQデータの整備状況は対話システムの品質を左右するものであるが、FAQデータの整備及びメンテナンスには相応の工数がかかることから、規模・諸条件の異なる自治体に活用できるよう、FAQデータメンテナンス効率化のためのFAQカテゴリの整備や回答文のフォーマット整備、あるいはFAQデータ自動生成による新規作成支援などの取り組みを検討したい。

[行政現場からの反応] 実証実験の結果、両市の職員からは「24時間対応が可能になり、市民サービスの向上が図れた」「(市民から見て)どこに問い合わせたらよいか分からない内容や、AI案内サービスだから聞けること(人と上手くいっていない、いじめ等) などの質問の窓口になっている(尼崎市)」など、窓口では応じづらいニーズへの対応に一定の効果が見られたとの評価を得た。今後への期待としては、標準的な届出方法や証明書の取得など、定型的な問い合わせに対する応答を担い、省力化への手段としての活用への意見が上がった。

(2) 今後の方向性

上記で述べたFAQデータの整備への取り組みとして、先に述べたFAQカテゴリ整備や、市ホームページからのFAQデータ自動生成など、より効率的・効果的なFAQデータ生成、メンテナンスの仕組みを検討したい。また、利用者アンケートより要望が多かった、「住んでいる地域・地区に特化した情報の提供」を実現する上での「ターゲット配信」や、画像情報を利用したマルチモーダルな対話など、LINEの特性を活用し、双方向の対話を実現するコミュニケーションチャネルとしての研究をさらに進める予定である。

 

(行政サービスとしての今後の方向性)

■各市のFAQの整備

問合せへの自動応答機能の精度は、基となるFAQデータの質に大きく左右される。このため、各市のFAQの精査と整備を進めていく必要がある。この中で、より汎用的なFAQカテゴリの整備も検討したい。両市の市民生活の実情に沿ったカテゴリを整備することで、対話ログの分析と活用がスムーズになることが期待される。
そもそも、FAQページの拡充・更新自体にコストがかかるという問題もある。この問題に対処するため、丹波市では、FAQページの管理方法を一新する取り組みを行っている。従来のようにFAQページに質問と回答を記載する形式ではなく、回答部分のテキストを、市のホームページ本文の該当する箇所へのリンクに置き換えるものである。これにより、ホームページ本文とFAQを各々更新する必要はなくなり、FAQの拡充・更新コストの大幅な軽減が期待される。

■ターゲット配信の導入

利用者アンケートでは、「住んでいる地域・地区に特化した情報の提供」を今後期待するという回答が多く、より細やかな情報配信が期待されていることがわかった。LINEには、年齢や性別といったユーザー属性で配信の宛先を絞り込む機能が既に備わっているが、これに加え、過去の質問履歴から関連の深い情報のみを提供するなど、よりターゲットを絞った情報配信(ターゲット配信)を検討する予定である。ユーザーの興味・関心の対象や知識状態、システムによる既出情報などの幅広いコンテキストを考慮した対話の実現は、対話研究の観点からも重要な課題の1つである。

■画像を利用した行政サービスの提供

行政に関する問合せには、画像の利用が有効なものもある。たとえば、千葉市では、道路や公園の遊具の破損といった市内の問題を、市民が画像を使って行政に簡単に報告できるアプリケーション「ちば市民協働レポート(ちばれぽ)」を提供しており、一定の成果をあげている。テキスト情報だけでなく、画像情報が関わるマルチモーダルな対話データの収集・分析は、対話研究の観点からも意義深い。LINE上での画像の送信機能を用いれば同様のサービスの提供することは可能であり、今後検討する意義があると考える。

(検索、対話分析領域における今後の研究の方向性)

■文脈を考慮する検索システムの考案

連続した問合せでは、自明な文脈を省略するケースが少なからず見られる。たとえば、「ペットボトルの捨て方」と質問した後に、「大型ゴミ」とだけ質問することで、「大型ゴミの捨て方」を意図するケースである。このような省略を自動的に解析し、質問の意図を汲み取ることが望ましい。
このような省略においては、検索システムの入力にユーザーの以前の発話も用いることで、情報を補った検索が可能になると期待される。同様の事例を多く含む大規模対話データを擬似的に生成し、機械学習の手法を適用することを今後検討していく。

■行政ページのFAQ以外のページからFAQを自動作成

今後の大きな課題の1つは、FAQの充実化である。しかし行政自治体によってFAQの充実度は異なり、行政での拡充はコストもかかる。
そこで、情報源の不足を補うため、行政ホームページの通常の案内ページ(FAQ以外のページ)を入力として、FAQのQAを自動生成することを検討している。格解析やモダリティ解析などの技術を用いてページの解析を行って質問部分の生成を行い、機械読解技術を用いて回答部分をページ内から見つけることで、通常ページの情報からFAQを自動生成することが可能であると考えている。

関連リンク

ニュースリリース(PDF版)

「LINEを活用した社会課題解決手法の研究」
2018年度 成果報告書を公開


(*1) 国立情報学研究所とLINE株式会社は、「Robust Intelligence(ロバストインテリジェンス)」と「Social Technology(ソーシャルテクノロジー)」を主軸とした社会課題解決のための強靱な知識基盤の研究のために、2018年4月1日よりそれぞれ共同研究部門を設け、国立情報学研究所はその研究拠点としてCRISを設置しました。本研究は、同研究センターの研究プロジェクトとして、京都大学大学院情報学研究科 黒橋禎夫教授(同研究センター 副センター長)の主導により実施したものです。
本発表は兵庫県、尼崎市、丹波市、京都大学(大学院情報学研究科)、国立情報学研究所(NII)、LINE株式会社の6者による共同発表です。
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