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来るべき情報技術の社会的信頼を担う数理的ソフトウェア研究で文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)を受賞
NIIの蓮尾一郎教授、石川冬樹准教授、京都産業大学の勝股審也教授が共同受賞

 文部科学省が2024年(令和6年)4月9日(火)に発表した「令和6年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰」において、「来るべき情報技術の社会的信頼を担う数理的ソフトウェア研究」の業績により、蓮尾はすお 一郎いちろう 国立情報学研究所(NIIエヌアイアイ、所長:黒橋くろはし 禎夫さだお 東京都千代田区)教授、石川いしかわ 冬樹ふゆき准教授、勝股かつまた 審也しんや 京都産業大学教授(学長:黒坂くろさか あきら、京都府京都市)のグループが、「科学技術賞(研究部門)」を受賞しました。

 蓮尾教授らのグループは、将来的に社会のあり方を根本的に変えうる「来たるべき情報技術」の論理的信頼性保証のための手法を、数学的理論を活かして多数開発したことが評価され、令和6年度科学技術分野の文部科学大臣表彰の科学技術賞(研究部門)を受賞しました。

【研究の背景】

 近年の情報技術の進化のスピードはめざましく、自動運転技術 (*1)や統計的AI(*2)といった、社会のあり方を根本的に変えうる技術の開発が日々行われています。こうした「来たるべき情報技術」が社会で広く活用されるためには、安全性や信頼性が保証されなければなりません。しかし、その安全性や信頼性を支える科学技術の発展は遅れています。よって自動運転車の社会実装の遅れや、生成AIの使用のガイドライン制定における混乱などが生じており、こうした課題の解決が急務となっています。

 これまで、情報学の分野では情報システムの安全性を保証する方法として、プログラムのソースコードを論理的に解析するソフトウェア科学の手法が取られてきました。しかし、道路等の物理環境や歩行者など、ソースコード上に記述できない要素を扱う自動運転技術、また、大量の学習データを扱う生成AIを含む統計的AIは、従来の解析手法では、安全性の保証が困難です。また、ソフトウェア研究は現在細分化が進み、理論研究と応用研究の距離が広っているため、従来のソフトウェア科学の手法のみでエマージング情報技術の社会的信頼の樹立という大きな課題には、対応しきれない状況になっています。

【評価の対象となった研究成果】

 そこで、蓮尾教授らのグループでは、(1)実課題の深い理解による数理モデルの切り出し、(2)数学的抽象度を活かした新たな数理モデルの発見、などの研究成果をもとに、プログラムという数理モデルを必ずしも必要としない、実効的な信頼性保証の方法の確立に成功しました。大きな成果としては、以下の2つが挙げられます。

成果例1:自動運転車の安全性の論理的証明

自動運転車の安全性保証手法には現在決定打がなく、国際規格の策定の遅れが自動運転の本格普及の遅れに繋がっている。こうした中、蓮尾教授らは数学的理論基盤及び包括的ソフトウェア研究体制を活用して、自動運転車の安全性を数学的に証明する実効的手法を初めて提案した。
この成果は、将来の自動運転安全性規格の骨格となりうるポテンシャルを持ち、現在企業等と協働して国際規格への展開を行っている。

成果例2:統計的AIの抽象代数学的解析

蓮尾教授らは統計的AIの論理的解析の研究を進めた。その成果として勝股教授は、構造化ニューラルネットワークの学習アルゴリズムの「数学的に正しい」導出を、抽象代数学の言語である圏論を用いることで初めて成功した。これは、経験的に知られていたヒューリスティクスの数学的正当性を保証する実践的意義を持つ成果であり、また、抽象代数学及び論理学と統計的AIの強い関連を明らかにする学術的意義も大きい。

 これらの研究成果は、大きな社会的関心を集めたほか、企業との協働による産業応用などに繋がりました。今回の受賞では、研究成果が学術の世界や、社会・産業に与えたインパクトなども評価されました。

【令和6年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞 (研究部門) 】
来るべき情報技術の社会的信頼を担う数理的ソフトウェア研究

蓮尾 一郎(はすお・いちろう)

45歳

情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII)アーキテクチャ科学研究系 教授

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石川 冬樹(いしかわ・ふゆき)

44歳

情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII)アーキテクチャ科学研究系 准教授

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勝股 審也(かつまた・しんや)

49歳

京都産業大学 理学部数理科学科 教授

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(年齢は2024年4月1日現在)

業績概要:

 近年の情報技術の進化はめざましく、自動運転や統計的AIなどの新情報技術が次々に現れている。しかし、これら新情報技術の社会受容と本格展開に必要な信頼性保証技術は発展途上である。特に、数学的論証を旨としてさまざまな成功を収めてきたソフトウェア科学の研究分野は、新情報技術における「数理モデルの不在」という大きな方法論的困難に直面している。
本研究では、論理学と代数学という数学的基盤に立脚した包括的ソフトウェア研究を推進し、新情報技術の実効的な信頼性保証手法を多数開発した。ここでは、数学的理論と情報学的応用の両者の掘り下げにより、新情報技術に内在する数学的構造を抽出して、上記困難を解決した。
本研究により、自動運転車の安全性の論理的証明手法や、モノイダル圏による統計的AIの抽象代数学的解析手法など、多数の信頼性保証手法が得られた。これら成果については、高い学術的評価はもちろん、産業応用や標準化などの社会還元の取り組みも進んでいる。
本成果は、新情報技術をどう受け入れるべきかという社会的議論において必須の信頼性保証技術を提供するものであり、人間中心の真の情報化社会の実現に寄与することが期待される。

主要論文:
  • 「Goal-Aware RSS for Complex Scenarios via Program Logic」IEEE Transactions on Intelligent Vehicles誌、vol.8、p3040~3072、2023年発表
  • 「Differentiable Causal Computations via Delayed Trace」34th Annual ACM/IEEE Symposium on Logic in Computer Science 予稿集、p1~12、2019年発表
蓮尾 一郎 NII教授(筆頭者)のコメント:

 このたびは、科学技術分野の文部科学大臣表彰(科学技術賞)という大変名誉ある賞を頂き、光栄に存じます。数理的理論に裏付けられた説明と信頼に基づく人間中心の情報化社会の実現に向けて、さらに研究を進めてまいります。

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ニュースリリース(PDF版)

来るべき情報技術の社会的信頼を担う数理的ソフトウェア研究で文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)を受賞
NIIの蓮尾一郎教授、石川冬樹准教授、京都産業大学の勝股審也教授が共同受賞


(*1) 自動運転技術: センシング・意思決定・経路計画・車両制御等の要素技術の発展と、それを支える計算機ハードウェア・アーキテクチャの進化により、自動運転が現実のものとなりつつある。多くの人々の生活や、モビリティに関わるビジネス・エコシステム、さらに公道の使用についての法規制・社会慣習などを大きく変化させる、重要な「来たるべき情報技術」である
(*2) 統計的AI:ビッグデータから判断ルールを学習する統計的機械学習技術の進化は非常に速く、その応用は、物体認識等の従来応用に加え、文章や画像を生成する生成AIへと範囲を広げている。新応用が人間の作業の多くを代替すると期待される一方、ChatGPT等のLLM(大規模言語モデル)の信頼性や、画像・映像のdeepfakeなど、多くの課題が社会的波紋を広げている
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