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ニュースリリース

アニメ「リトルウィッチアカデミア」の絵コンテ等を研究に活用へ
~TRIGGER制作のアニメ作品素材データをアカデミア研究者向けに提供開始~

 アニメーションスタジオTRIGGER(本社:東京都杉並区、代表取締役:大塚 雅彦、以下 TRIGGER)と大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(所長:喜連川 優、東京都千代田区、以下 NII)は研究コミュニティへの研究用データの提供で提携し、劇場アニメ作品「リトルウィッチアカデミア」の絵コンテ等のアニメ素材データを「トリガーデータセット」(図1)として3月15日(火)から提供を開始しました。実際に劇場公開された商業アニメ作品の素材データを学術研究に提供することで、画像自動生成技術の開発や制作進行の効率化など、アニメーション技術に関する学術的研究の促進に貢献します。

 このトリガーデータセットは、NIIのデータセット共同利用研究開発センター(センター長:コンテンツ科学研究系教授 大山 敬三)が運営する情報学研究データリポジトリ(IDR)を通じて提供されます。

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1 トリガーデータセットに含まれるアニメ作品「リトルウィッチアカデミア」素材の例

背景

 日本のアニメーション産業は、ビジネスモデルなどの収益構造、製作委員会方式に代表されるスキーム、人材の不足などに多くの構造的な問題が指摘されています。それに対して、動画サブスクリプションサービスなどの新たなビジネススキームなども提案・実践されていますが、根本的な解決にはまだ至っていません。

 この構造的な問題に対しアカデミアが取れるアプローチとして、テクノロジーによる作業の効率化と人材の育成が考えられます。しかし、商業アニメ作品は著作物であるため、その原画や背景などの素材データが学術的研究に提供される例はほとんどありませんでした。そのため、ディープラーニングによるアニメ映像生成技術の開発を意図したとしても、AIに学習させるのに必要な素材データが入手できず研究をスタートできないという問題がありました。

実施内容

 今回、TRIGGERとNIIは学術研究分野向けのデータ提供で提携し、「トリガーデータセット」を3月15日(火)から情報学研究データリポジトリ(IDR)を通じて提供します。このデータセットは3月16日(水)のコミック工学研究会(*1)でアカデミア研究者向けに紹介されます。

IDRのトリガーデータセット紹介ページ:https://www.nii.ac.jp/dsc/idr/trigger/

 このデータセットは、TRIGGERが制作した劇場アニメ作品『リトルウィッチアカデミア』の制作で使用した素材一式をデジタル化したデータです。このアニメ作品は、文化庁若手アニメーター育成プロジェクト『アニメミライ2013(*2)の参加作品として201332日に劇場公開されたものです。データセットは株式会社ワクワークと秋山 剛氏(株式会社プレイド)の支援により作成されたもので、アニメ作品の制作プロセスで使用した素材がほぼ揃っているのが特徴です(*3)。データセットには以下の素材が含まれています。

  • シナリオ 第3稿(決定稿) 1
  • 絵コンテ 197ファイル
  • 美術 392ファイル
  • 設定 89ファイル
  • 色彩 67ファイル
  • 作画(カット袋・タイムシート・レイアウト・原画) 383カット分
  • 仕上げ 397カット分
今後の展望

 本データセットの活用により、画像自動生成(自動フレーム補完、超解像度技術、3Dモデル自動生成等)、制作進行の効率化(進行プロセスの効率化、業界慣習に基づいた制作進行管理ツール等)、データ管理構造などの新規手法・改善手法等の開発が期待されます。

アニメーションスタジオTRIGGER取締役・プロデューサー 舛本 和也コメント:

「アニメ制作における中間生産物は長年、学術的研究対象として活用されていませんでした。
この度、多くの関係者のご協力のもと、弊社作品を提供できたことはTRIGGERとしてもアニメ業界としてもとても有意義なことだと感じています。アニメという表現媒体の学術的研究が進むことで業界の発展につながっていくことを望みます。」

国立情報学研究所(NII)データセット共同利用研究開発センター長 大山 敬三コメント:

「今回、TRIGGERよりご提供いただいたデータセットは、文化庁のプロジェクトの参加作品として制作された「リトルウィッチアカデミア」というアニメ作品の一作分に関するものですが、制作プロセスは商業アニメ作品と何ら変わりありません。そのため、通常は制作関係者以外が目にすることのできない中間生成物を通して制作プロセスを再現することができる、貴重なデータセットとなっています。データ量はさほど多くはありませんが、新たな研究の切り口を提供できるものと大いに期待しています。なお、本データセットの企画・構築にご協力いただいた中山英樹様はじめ株式会社ワクワークの皆様と株式会社プレイドの秋山剛様に心より感謝いたします。」

コミック工学研究会委員長(東京大学大学院情報理工学系研究科 教授) 相澤 清晴コメント:

「漫画やアニメは、日本が世界に誇るコンテンツです。情報処理技術の分野でもコンテンツ解析、制作支援、画像生成等に関しての技術的な研究が限定的ながら進められてきました。研究がコミュニティで広がるためには、そのデータとしてのコンテンツは必須になります。しかし、日本に誇るコンテンツでありながら、研究コミュニティで自由に使えるデータは、Manga109などはあるものの、まだまだ限られています。アニメでは、ほぼ皆無で、いわゆる日本のアニメのデータセットはありませんでした。それだけに、トリガーデータセットは貴重です。30分とはいうものの、約1万枚の原画などアニメの制作過程のデータを含み、新しい課題にもつながる研究データになりうるでしょう。製作後の動画データも共有できると素晴らしいです。将来、より多くのアニメのデータが提供されることを期待します。」

関連リンク

ニュースリリース(PDF版)

アニメ「リトルウィッチアカデミア」の絵コンテ等を研究に活用へ
~TRIGGER制作のアニメ作品素材データをアカデミア研究者向けに提供開始~


  • (*1)電子情報通信学会のヒューマンコミュニケーショングループに設置された学術的な研究会。コミックを中心としたモダンカルチャーコンテンツを工学的に利用するための学術的知見の蓄積と、コンテンツを介して分野を跨る異分野コミュニティ間の意見交流と連携の促進を目的とする(https://sig-cc.org/)。
  • (*2)文化庁若手アニメーター育成プロジェクト『アニメミライ2013』:メディア芸術の振興に向けた取組の充実を図るため、将来を担う優れた若手アニメーター等の育成を推進し、もって我が国アニメーション分野の向上とその発展に資することを目的とした、文化庁の若手アニメーター等人材育成事業(http://animemirai.jp/index2013.html)。当該プロジェクトは現在もアニメーション人材育成調査研究事業『あにめのたね』として継続中(https://animenotane.jp/)。
  • (*3)動画データは含まれません。

  • ※本発表は、アニメーションスタジオTRIGGER との共同発表です。
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