ニュース / News

ニュースリリース

選抜した高校生等を先端共同研究により20代のエリート研究者に育てる「情報科学の達人」育成官民協働プログラムをスタート
―情報学分野の最先端研究を行う若手研究者が直接指導―

 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構国立情報学研究所(所長 喜連川優、以下「NII」)は、一般社団法人 情報処理学会(会長 江村克己、以下「IPSJ」)及び特定非営利活動法人 情報オリンピック日本委員会(理事長 筧捷彦、以下「JCIOI」)と共に、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)グローバルサイエンスキャンパス(GSC)(*1)「情報科学の達人」育成官民協働プログラム(以下「情報科学の達人」プログラム)を2020年4月より本格的にスタートしました。このプログラムは、20 代で世界のトップクラスの研究を行う情報学研究者や技術者を日本からも多数輩出することを目指して高校生・高専生を選抜し、NII、IPSJ、JCIOIが連携して先端的な共同研究に早期に取り組ませることでエリート教育を実施するものです。

 第1期生となる2020年度受講生には日本情報オリンピック(JOI2019/2020)(*2)の予選Aクラスの成績上位者を含め合計76名の応募があり、そこから38名を受講生として選抜しました。3月25日に開催したオンライン会議形式によるキックオフワークショップを皮切りに、「情報科学の達人」プログラムを展開していきます。

背景

 現代の情報学の研究とITを利用したビジネスは、GAFA (*3)等の巨大 IT 企業が他国企業を圧倒し支配的・独占的なシェアを占めています。これらの巨大 IT 企業でテクノロジーをリードするのは20 代後半~30代前半の情報学のエリート研究者です。そのため、情報学分野では 20 代 で世界トップクラスの研究に取り組むのが当たり前になっており、それに向けての教育システムも欧米では整備されています。

 対して日本の情報学分野では、20代のうちに世界トップクラスの研究で活躍する例は多くはありません。それは、高校生の年代には世界トップクラスにランクされる人材を毎年コンスタントに輩出し、国際情報オリンピックで優秀な成績を維持しているものの(表1)が、高校や高専から大学、そして大学院と連携・接続するべきエリート養成システムが機能しているとは言えない状況となっているからです。そのため、高校生の年代で情報学のトップクラスの研究に触れる機会が少なく、大学の研究室に入って初めて研究の魅力や重要性を知るのが現状です。

nii_newsrelease_20200430_image1.png

図1「情報科学の達人」プログラム実施概要

プログラム概要

 以上のように、日本でも20 代で世界のトップクラスの研究を行う情報学研究者や技術者を多数輩出することが喫緊の課題となっています。その使命を達成するべく挑戦するのが、今回スタートする「情報科学の達人」プログラムです。本プログラムでは、実施機関のNIIと共同機関のIPSJおよびJCIOIが共同でプログラムを推進します(図1)。

nii_newsrelease_20200430_image2.png

図1「情報科学の達人」プログラム実施概要

nii_newsrelease_20200430_image3.png

図2「情報科学の達人」プログラムの未来とエコシステム構築への構想

 まず、世界のトップクラスの数学理解、アルゴリズム理解、プログラミング・ソフトウェア開発能力等を持つ高校生・高専生を全国から選抜します。その10代のエリートたちが、最先端の情報学研究に触れ、さらに日本の情報学分野のトップクラス研究者と共同研究を行います(図2)。そして、共同研究を通して、情報学分野の世界のトップクラスにたどり着ける道を受講生に提供します。さらに、特別優秀な受講生には、本プログラムの実施期間終了後の発展ステージとして、海外の著名研究機関等で一定期間研究する機会を提供します。

 本プログラムは、1~2 年で完結するものではなく、受講生が高校初期から研究の素養を身に付け、卒業から10年程度で世界的な研究者・技術者として活躍できるようなエリートの育成を行う挑戦的なプログラムです。

 プログラムのスタートにあたり、第1期生となる2020年度受講生の募集を2020114日から221日まで行いました。その結果、日本情報オリンピック(JOI2019/2020)の予選Aクラスの成績上位者を含め合計76名の応募があり、38名を受講生として選抜しました。受講生の内訳は中学生6名、高校生25名、高専生7名となっています(20203月時点)。その第1期受講生と受講生を指導するメンター(若手研究者)及びプログラム関係者が一堂に会するキックオフワークショップは、新型コロナウィルス感染症の拡大防止対策のためオンライン会議形式に変更し325日に開催しました。

スケジュール

 第1段階育成プログラム(受講する初年度の4月~9月)では、JSTの戦略研究推進事業である ACT-I/ACT-X(*4)の研究者、情報オリンピックや各種プログラムコンテストの上位経験者からなる若手研究者(メンター)陣が、各受講生とグループを作り未来の研究構想について対話・助言・指導を行います。

 受講生は、第1段階育成プログラムで研究機関を訪問して広く浅く情報学最先端研究を学ぶ予定でしたが、新型コロナウィルス感染症の拡大防止対策により研究室訪問が難しくなりました。そこで、この状況に対応するため、研究室訪問が開始できるようになるまで、「情報科学の最前線」を学ぶオンライン学習のカリキュラムを行います。オンライン講習では、情報科学の最前線を学ぶために、情報科学分野で過去10年間研究を先導してきたトップ研究者が、それぞれの研究分野の歴史、背景と最先端研究について語ります。またメンターを中心とした若手研究者が、さらに専門的なトピックについて紹介します。

 第1段階育成プログラム終了段階では、指導研究者による評価、推薦書、および受講生の第二期に向けての研究プロポーザル等を判断材料とし、第2段階育成プログラムに進む受講生(10名程度)を選抜します。受講初年度の10月から始まる第2段階育成プログラムでは、受講生自身の研究テーマに応じた日本のトップ情報学研究者の研究室で共同研究を行います。また、受け入れ先研究室と受講生との距離を隔てたコミュニケーションを円滑に行うために、NIIのSINET(*5)によるサポートを提供する予定です。SINETのVPN機能(*6)を利用し、受講生や受入大学、情報系トップの研究者の仮想的なグループをネットワーク上に構築し、仮想グループが安全にネットワーク上でディスカッションやデータ交換等を行える環境を提供する予定です。

 第2段階育成プログラムの最終段階となる2021年3月には、受講生による成果発表ワークショップを開催します。また、情報処理学会全国大会等における特別セッションでも発表を行い、多くの情報学研究者に成果を披露していきます。

関連リンク

グローバルサイエンスキャンパス(GSC)「情報科学の達人」育成官民協働プログラム令和元年度採択機関の決定について
https://www.jst.go.jp/pr/info/info1396/index.html

「情報科学の達人」育成官民協働プログラムのウェブサイト
https://www.nii.ac.jp/tatsujin

NII広報誌「NII Today」No.87 (特集:「情報科学の達人プログラム」始動)
https://www.nii.ac.jp/today/87/

一般社団法人 情報処理学会(IPSJ)
https://www.ipsj.or.jp/

特定非営利活動法人 情報オリンピック日本委員会(JCIOI)
https://www.ioi-jp.org/

ニュースリリース(PDF版)

選抜した高校生等を先端共同研究により20代のエリート研究者に育てる「情報科学の達人」育成官民協働プログラムをスタート
―情報学分野の最先端研究を行う若手研究者が直接指導―


(*1) グローバルサイエンスキャンパス(GSC):将来、世界を舞台に活躍し世界をリードする科学技術人材を育成するために、大学などの研究機関と科学技術振興機構(JST)が連携し、2014年度に開始された高校生を対象とした科学に関する育成プログラム事業であり、2019年度は14の研究機関で実施されている。
(*2) 日本情報オリンピック(JOI2019/2020):高等学校2年生までの競技プログラマー日本一を目指し、数理情報科学の能力を競う智の競技会。
(*3) GAFA :世界のIT業界において巨大で支配的・独占的な米国の巨大企業であるGoogle、Apple、Facebook、Amazonを指す。
(*4) ACT-I/ACT-X :ACT-Iは、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業において、独創的な発想で人類が現在あるいは未来に直面する問題を解決し未来を切り拓こうとするICT分野の若手研究者を見いだして育成し、研究者としての個の確立を支援するプログラム(2016~)。ACT-Xは、同じくJSTの同事業において、我が国が直面する重要な課題の克服に向けて、優れた若手研究者を発掘し育成することを目的とするプログラム(2019~)。
(*5) SINET : 全国930以上の大学、研究機関等の学術情報基盤として、国立情報学研究所(NII)が構築、運用している情報通信ネットワーク。本プログラムでは、SINETにより受講生が遠隔地に設置されたサーバ等を利用する際や、受入大学外の情報系トップの研究者との研究ディスカッション等に利用するオンライン環境サポートを提供する予定である。
(*6) VPN機能 :ネットワーク上に仮想的なトンネルを形成することで、インターネットなどの共用のネットワークをあたかも専用回線のように利用することができる機能。VPNを利用すれば、通信経路を認証や暗号化を用いて保護するため、第三者が侵入できない安全なネットワークを構築できる。

※本発表は、一般社団法人 情報処理学会(IPSJ)および特定非営利活動法人 情報オリンピック日本委員会(JCIOI)との共同発表です。
4367

注目コンテンツ / SPECIAL