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学術情報ネットワークSINET6の国際回線を増強
~日本-米国-欧州を結ぶ超高速ネットワークが400Gbpsへ~

 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所 (NIIエヌアイアイ、所長:黒橋くろはし 禎夫さだお、東京都千代田区) は、学術情報ネットワーク「SINETサイネット6」の国際回線において、日本-米国-欧州を結ぶネットワークのすべての帯域を400Gbpsに増強し、2025年4月より運用を開始しました。

 SINET6の国際回線は、 高エネルギー物理研究のアトラス実験(*1)やBelle II実験(*2)、医学・遺伝学における研究プロジェクトなど国際的な連携などに活用されています。こうした国際共同研究において生じる大量かつ絶え間ない研究データの流通を支えるべく、学術向けの国際回線の帯域増強と高信頼化は不可欠です。

 今回の増強により、通信量増加で生じていた学術向け国際回線の逼迫の解消、超高速接続での安定性向上を実現しました。世界中の研究者が大容量の研究データを迅速かつ安定的に共有できる環境を整備し、国際的な学術研究のさらなる発展に貢献します。

1. 国際回線増強の背景

  • SINETは日本全国の大学・研究機関等の学術情報基盤として利用されている通信ネットワークで、NIIが構築・運用しています。日本全国の大学や研究機関が各地域のSINET拠点に接続しており、400Gbpsの超高速回線で日本の学術研究を支える通信ネットワークとなっています。
  • SINETの国際回線は、2019年に国の研究教育ネットワークとしては、単独機関では世界で初めて日本-米国-欧州を結び地球を一周する100Gbpsの学術ネットワークを構築しました(*3)。さらに、2022年にはアジア回線を強化し、日本-シンガポール間に加えて、日本-グアム間に100Gbpsの回線を開設しました。2024年4月には、欧州との接続をロシア経由から米国経由に変更し、回線速度を400Gbpsへ拡張しました。そして今回、2025年4月から、日本-米国-欧州を結ぶすべての帯域を400Gbpsに拡張しました(表1、図1)。
  • 国際回線は2〜3年の頻度で更新しており、学術研究の発展に伴うデータ転送量の増加を受け、より高速で安定したデータ通信を実現すべく、国際回線の増強を計画してきました。また、諸外国の研究ネットワークでは400Gbpsの国際回線の整備が進んでおり、我が国の研究環境を世界と対等に維持するためには同等以上の速度のネットワーク整備が必要となっていました。

2.国際回線増強による狙い

  • 今回の回線増強では、日本-米国-欧州の全経路を400Gbpsに増速し、大容量研究データを取り扱う国際協調研究のさらなる円滑化を図り、安定性と高速性の向上を目指します。本400G回線は太平洋地域の学術ネットワークとしては最初の実現となり、また日本から欧州までの回線は学術ネットワークとしては最長の400G回線となります(*4)
  • SINETは、国内外の大型実験設備と接続し、膨大なデータの送受信を絶え間なく支えています。例えば、欧州の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)、核融合実験炉(ITER)などの世界の最先端の大型研究施設と接続しており、これらの実験設備から出力される大規模な研究データの迅速な転送には、広帯域かつ安定したネットワークが不可欠です。特に海外の実験施設からデータをスムーズに取得するためには、十分な帯域が求められます。近年、米国や欧州、アジアをまたぐ国際協調型プロジェクトが増加しており、研究者からは広帯域な通信環境を求める声が高まっていました。
  • 米国回線においては、2024年からはBelle IIが本格稼働し、欧州回線においてはLHC関連(*5)で増加が予想され、米国や欧州を中心に400Gbps以上の伝送技術による新ネットワーク構築が進行しています。
  • 今回の増強により、安定的かつ大容量のトラフィックを相互にやり取りできるようになり、日本および世界の学術研究・教育の発展に貢献します。こうした安定的な運用には、海外との連携も不可欠です。SINETと他の学術ネットワークが広帯域で相互に接続することで、相互バックアップ、相互運用協力を行うネットワークの基盤として機能します。万が一、SINETが切れても、他の学術ネットワークをバックアップとして使用することで、さらなる安定運用を可能にすることができます。各国の大学・研究機関向けに特化した通信ネットワークである「NREN(National Research and Education Network)」は、学術研究・教育機関のデータ通信を支援することを目的に高速・大容量・安定性の高いネットワークインフラを提供し、各国と協力・連携をしています。各国のNREN同士が国際的な学術ネットワークを構築しており、連携することで相互接続している海外の研究ネットワークとの連携強化が実現します。
回線区間 2019年4月〜 2022年4月〜 2024年4月〜 2025年4月〜
日本ーロサンゼルス 100Gbps 100Gbps×2本 100Gbps×2本 400Gbps
ロサンゼルスーニューヨーク 100Gbps 100Gbps×2本 100Gbps×2本 400Gbps
ニューヨークーアムステルダム 100Gbps 100Gbps 100Gbps 400Gbps
日本ーアムステルダム 100Gbps 100Gbps 100Gbps×4本
米国経由に変更
100Gbps×4本
日本ーシンガポール 100Gbps 100Gbps 100Gbps 100Gbps
日本ーグアム 100Gbps 100Gbps 100Gbps
表1:国際回線増強の変遷

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図1:国際回線の経路

3.今後の展望

  • 今回の増強により、国際的な研究ネットワークとの連携がさらに強化されます。特に、米国Internet2、欧州GÉANT、オランダSURFnet、北欧NORDUnetなどの海外研究ネットワークとの接続性が向上し、日米・日欧・日アジアの国際共同研究の推進が期待されます。
  • また、これらのネットワークは、量子コンピュータ、AI、ビッグデータ解析など最先端の技術研究を支える基盤としても活用されます。今後もSINETの国際回線のさらなる高速化と安定運用を推進し、学術研究、グローバルな研究環境の発展に貢献します。
  • 引き続き、次世代のネットワーク技術の研究開発を進め、日本の研究者が世界とシームレスにつながるための基盤強化を進め、未来の科学技術発展に寄与してまいります。
関連リンク

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学術情報ネットワークSINET6の国際回線を増強
~日本-米国-欧州を結ぶ超高速ネットワークが400Gbpsへ~


(*1) アトラス実験:欧州原子核研究機構(CERN)に順次建設中のLHC加速器を使った実験の一つ「アトラス(ATLAS)実験」。東京大学素粒子物理国際研究センターが参画しており、解析用データの転送などにSINETの国際接続サービスを利用している。
(*2) Belle II:高エネルギー加速器研究機構にある素粒子反応の測定装置「Belle II測定器」を用いた国際共同実験。SuperKEKB加速器で加速した電子と陽電子を衝突させた際に発生する大量のデータを精度よく測定し、素粒子のふるまいを調べる。Belle II測定器の前身の「Belle測定器」によるBelle実験(小林・益川理論を証明し2008年ノーベル物理学賞)より、大量に発生する解析データの転送や、安全な通信環境づくりにSINETが利用されている。
(*3) NIIニュースリリース:2019/03/01 NIIが世界初の単独地球一周超高速100Gbps学術通信回線網を構築~Society 5.0実現に向けSINET国内回線に続き米国・欧州・アジア直結の国際回線も増強~
https://www.nii.ac.jp/news/release/2019/0301.html
(*4) 構築にあたってはKDDI株式会社により支援・協力。
(*5) LHCLarge Hadron Collider。欧州原子核研究機構(CERN)に建設された世界最大の陽子陽子衝突型加速器。ヒッグス粒子の発見等を目的としたATLAS実験(2013年ノーベル物理学賞)で、大量に発生する解析データの転送や、安全な通信環境づくりにSINETが利用されている。
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