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平成30年度 第4回 Q&A

第4回 2018年10月24日(水)

将来の無線アクセスネットワーク
-今のままでは周波数が足りない!-

講演当日に頂いたご質問への回答(全33件)

※回答が可能な質問のみ掲載しています。

様々な無線資源の割り当てがありますが、Cellを増やさずに、割り当て方法を改良、新しい対策を考えて問題をクリアーにするのでしょうか?それとも、Cellを増やすことを前提に、新しい手法を提案することを目標にしているのでしょうか?

Cellを増やすというよりは同一周波数帯が使用可能な基地局を増やし、システム全体の特性向上を実現する無線資源割当て法・信号処理法を考案するのが主な研究動向です。例えば、ご紹介したCRANでは全RRHが中央集中的にクラウドで制御されるので、今までの"Cell"の概念は失われつつあります。

提案法1と提案法2はMaxCSIとPFSを組み合わせた形ですか?それとも、新たな異なる関数で定義されているものですか?

単なる組み合わせではなく、総伝送速度とPF効用関数の異なるトレードオフレベルを達成できる新たなアルゴリズムを提案しました。

上り回線には下り回線以上の可能性はありますか?

どの意味での"以上"か分かりかねますが、一般的には上り回線と下り回線の瞬時の通信路状態は異なりますので、上りの瞬時通信路状態が下りよりも良ければ、上りの瞬時伝送速度も高くなる可能性はあります。

従来の基地局が行っていた信号処理をクラウド化することでフロントホールリンクへの負荷がかかるとのことでしたが、5Gを実現する上でコアネットワークをつなぐバックホールでも大容量化は必要でしょうか。

"モバイルデータトラフィック量が膨大に増加すると、コアネットワークのトラフィック量も増加しますので、バックホールの大容量化は必須となります。多くの研究が進められているようです。ご参考に:M. Jaber et al., ""5G Backhaul Challenges and Emerging Research Directions: A Survey"", IEEE Access, April 2016, available at : https://ieeexplore.ieee.org/document/7456186"

非直交割り当てで、端末間の混信は、アンテナのビームで切るのですか?

アンテナビームで切れる場合はビーム同士が直交しているので、非直交割当てではありません。SIC(Successive Interference Cancellation: 逐次的干渉除去)という信号処理法を用いて受信機側で干渉を除去します。

非直交割り当てについて、1970年代から理論は既知であったが、実装は5Gでようやく検討できたとのことでした。その理由として技術の向上とおっしゃっていましたが、そこに5Gで利用される周波数帯は関係するのでしょうか。また、周波数帯の特徴は。

NOMAが検討されているのは既存の低い周波数帯ですので、5Gで導入された理由ではありません。ただし目的は、NOMAを用いて既存の周波数帯でのシステム特性を向上させることです。

CSIはSN比だけでしょうか。

SN比のみではなく個々のチャネル係数や、それらを量子化した値なども使われています。

ユーザはどのようにCSIを推定するのでしょうか。

直前に受信したダウンリンクのデータフレームに含まれているパイロット信号を利用し、チャネル推定を行います。チャネル推定アルゴリズムは多々あります。

何msecくらい推定にかかるのでしょうか。

チャネル推定はそのアルゴリズムの計算量やシステムに依存しますが、1msec以下(数100microsec程度)と考えられます。

P.27でユーザが多くなればユーザあたりのtは減るので結果的に伝送量が減り、速度としては遅くなるのではないでしょうか。

基本的に割当て法を問わず、一定の無線資源を利用するユーザ数を増やせば、1人当たりの平均伝送速度は下がります。これはp.27のMax CSIに限りません。 ただしMax CSIに関してはユーザ数が増えると総伝送速度=全ユーザの伝送速度の総和が上がります。

SN比が一定値以上の全ユーザに均等にリソースを割り当てる方法に比べて、MaxCSIはサムレートが何倍くらいになるのでしょうか。

それは無線環境やSN比の閾値に大きく依存する為、"何倍くらい"とは定まりません。ご紹介したTDMAのようなシステムでは、 MaxCSIが総伝送速度を最大化するということだけ言えます。

5Gのミリ波では天候に依存し、ビル内まで回折しないとなるとかなり用途が限られるのではありませんか。

そのため室内にも基地局を多数設置する必要があると考えられます。

無線通信(5G)のフィジカルレイアや各レイヤごとの国際標準化はどうなっていますか。日本の役割は。

ITU-Rと3GPP中心に世界中で議論が進められています。5G初期の物理レイヤの標準は2017年12月の3GPP Release 15(5GNR)で定義され、上位レイヤに関しては議論が進められています。日本の企業もNTT Docomo等、活発に参加されているかと思います。

NOMAとシャノン限界の関係は?

シャノン限界は送受信機一対一の通信路容量です。NOMAを実現するSuperposition Codingはご紹介しました放送通信路のような1対多数の通信路容量を実現する方式です。つまり対象システム自体が異なりますので、比較する関係にありません。

NOMAの非直交は何が非直交なんでしょうか。何かのベクトルと何かのベクトルが直交していないという話だと思いますが・・・

全く同じ無線資源(時間・周波数等)を複数ユーザの信号が使用しているので、そのユーザ間で干渉が生じます。イメージ的には個々の無線資源ユニットが1つのベクトルで、同じ無線資源を複数のユーザが使用することは同じベクトル、つまり直交しないベクトルを使用しているということになります。通信理論で言うと各ユーザの受信信号空間同士が非直交となります。それぞれのユーザへ割当てる電力をうまく制御することにより、各ユーザはSIC(Successive Interference Cancellation: 逐次的干渉除去)という信号処理法を用いて自分宛の信号を復号します。

直感的には直交システムに比べて、比直交になると難しさが格段に増すのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

直交割当てと比べて、非直交割当ての実施は格段に難しいというのは正しいです。そのため、5Gまでは実装されていませんでした。

通信容量増すのに時分割方式で乗り越えようとしているのですか。

時分割方式のみでシステム特性を向上させるには限界があります。その為、非直交無線資源割り当て等を活用した新しい手法を考案してきました。

何をもって公正というかは、哲学や価値観によるのではないか。例:世の中に対する貢献度か、重要な内容の通信を優先するか、多人数の人が、一律に通信させるか。

公平性の効用関数として数学的に定義されているものは複数存在します。哲学や価値観による話ではありません。ご紹介したsum_k log R_kは比例公正性といった代表的な公平性の効用関数です。

アンライセンスバンドのLPWAの運用時品質の見極めのための最重要ファクターは何でしょうか。例えば、となりの土地(他社工場)のIoTデバイスの無線周波数が自社IoTと干渉してしまったときなど。

優れた無線資源割当て法・干渉制御法が必要かと思います。例えばLoRaのようなLPWAですとチャネル・SF (Spreading Factor)・送信電力の割当てアルゴリズムによって大幅にシステム特性が変わってきます。

「移動体通信」と「移動通信」はどちらが正しい用語なのでしょうか。私はずっと「移動体通信」だと思っていましたが、ある有名なキャリアが「移動通信」と言っていました。

「移動体通信」の方が一般的かと思いますが、両方使われています。英語ではいずれも"Mobile Communications"です。

5Gの研究ですが、2020年には実装化される予定でしょうか。現在の課題点があれば教えてください。

2020年に実施化はされますが、初期の5G技術となります。特に難しい課題である超低遅延・超高信頼通信やmassive IoT connectivity技術等はその後の実装になる動向のようです。

クラウド無線アクセスネットワーク方式ですが、図を見るとクラウドは雲のように見えますが、クラウドに無線を集中することでクラウド障害時に大きな影響が出るように思えますが。

クラウドに全ての無線通信機能を集中してしまうと、障害時に大きな影響を及ぼしてしまうことは十分考えられます。そのような問題も、ご紹介しましたFog RANで回避できる可能性が高まります。

現在、先生の努力している無線アクセスネットワーク領域の研究費は足りていますでしょうか。海外と競争ともなる領域にも思えますので、日本は十分な研究費用があるのか心配になりました。

研究費を取得するのは容易ではありませんし将来的には少々不安ですが、私に関しては現在のところ日本の科研費やフランス政府からの研究プロジェクトを支援していただいています。海外と競争するよりも、国際的なプロジェクト等で協力することが益々重要になってくるかと思います。お気遣いどうもありがとうございます。

P9 周波数再利用は同時利用ですか。

はい、複数のユーザやシステムが同時に同じ周波数帯を利用します。

LTE-Advanced(5G NR)では、主にカバレッジ拡張を制御して(ハンドオーバー時)周波数割当を安全に制御すると考えておりますが、BSがNokia,Ericson等で違いがあるのでしょうか。また国産のBSは登場するのでしょうか。

それぞれの会社の将来のBSが実装する割り当て法やスケジューラはベンダースペシフィックなので、一般的には違いがあります。企業秘密等もありますので、詳しいことはあまり公開されていないようです。国産のBSに関してはNTT Docomoが積極的に開発を進めていますので、登場することと思います。

地デジやワンセグのセグメントはサブチャネルと同じですか。

システムが異なるので同じとは言えませんが、周波数帯を分解した個々のエレメントという意味では共通しています。

太陽活動の電波への影響の防御については、どんな対策を考えておられるのでしょうか。影響少ない周波数割り当てはあるのでしょうか。

太陽活動の電波は極めて低い周波数領域の為、移動体通信の高い周波数帯へはほぼ影響はないようです。

無線の弱点は妨害電波に影響されることです。意図的な強力な干渉波が襲ったときどういう方法でこれを解決しますか。冗長系システムを構築するしかないのではないか。そうするとその費用を負担しなければならない。強力な無線システム構築の鍵は何か。

強力な妨害電波に対して、様々な対策が既に存在しています。強力な干渉波は基本的に狭帯域なので、例えば3Gの基本である広帯域拡散符号(WCDMA)や無線LANの周波数ホッピング技術等が効果的です。無線通信システムは以前から様々な妨害が考慮されて構築されているので、更なる費用は必要にはなりません。

NOMAの実用性を実験して欲しい。(NTT, KDDI等)

"NTT等ではNOMAの実践に向けて、既に実用性が示されています。ご参考に: https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2017/11/02_02.html"

街中ではWiFiの普及が進んでいます。WiFi基地局経由の通信は、有線通信路を通るので、無線より安定した通信が可能になる技術・設備といえるのでしょうか。

街中のWiFiは屋内・施設内などのWiFiのような無線であり、有線ではありません。WiFi基地局からの有線通信路というのはバックホールリンクの事です。通常の無線システムでは、無線通信路はlast mileであるユーザと基地局間のリンクのみであり、基地局はインターネットにバックホールリンク(有線)で繋がっています。

WiFi経由に限定すると、通信量の送量コントロールの点で有効でしょうか。

移動体通信システムのトラフィックの一部をWiFiへ流すトラフィックオフローディングは、モバイル通信量の負担軽減にとても有効です。今後益々重要になってきます。

海外と比較して、日本の無線アクセスNW技術の先進性(現時点と将来)はどうなのでしょうか。(純粋な無線技術の先進性とAI等を含めた総合システムとしての先進性。)

日本の無線アクセスNW技術の先進性は世界中でも認められていると思います。国内のアカデミアは海外と協力して純粋な無線技術、更にAI技術も取り入れたネットワーク、両方の面で研究・開発を進めています。

周波数の効率的利用の確保について、「周波数オークションの導入が本質的な解決策となる」という意見がありますが、どうお考えになりますか。

フランスやイタリアでは各オペレータがオークションで争って莫大な資金で周波数を購入していますが、世界各国で疑問の声が上がっています。色々と利点はあるかと思いますが、実施しているイタリアでは大きな問題になっていますので、全て解決するとは思えません。詳細な情報がないのでこれ以上お答えできませんが。 

shimin 2018-qa_4 page3377

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