イベント / EVENT

平成18年度 第3回 Q&A

第3回 2006年8月24日(木)

現代暗号
--ネット社会の情報を守る暗号技術とは--

渡辺 曜大(国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系)

講演当日に頂いたご質問への回答(全11件)

※回答が可能な質問のみ掲載しています。

太平洋戦争時に日本の暗号が全て解読されていたということだが、海軍と陸軍の暗号は異なっていたのか、それぞれ違っていたのか教えてください。

『ウィキペディア(Wikipedia)』によると,日本の陸軍と海軍は暗号機を独自に設計・開発・運用していたとのことです.参考)http://ja.wikipedia.org/ 『日本の機械式暗号』

バーナム暗号について、式に確率が導入されるのはなぜ?

バーナム暗号が安全であるためには,鍵がでたらめ(ランダム)に選ばれることが重要です.このでたらめさを記述するために確率が導入されます.

「バーナム暗号のコストが高い」について、コストとは何のコストを云うのでしょうか?

バーナム暗号を実際に運用するためには,平文(メッセージ)と同じ長さの鍵が必要です.スライド中の『バーナム暗号のコスト』とは,鍵を安全に共有するためのコストのことを指しています.

量子力学で記述されるような現象とは、例えばどんなことですか?

量子力学で記述される現象に,「波動と粒子の二重性」があります.いま,光を平行な2つのスリットを通してスクリーン上に投影する実験(ヤングの実験)を考えます.スリットの間隔をうまく(十分に小さく)選ぶと,スクリーン上に縞模様が観測されます.これは,光が波動であり,干渉が起こっていると考えることによって説明できます.ここで,光の代わりに1個の電子を投影する実験を考えます.この実験を繰り返すと,スクリーン上に光の場合と同様の縞模様が観測されます.これは,一般的な直観に反して,単一の粒子が干渉を起していると考えることによって説明できます.これが,「波動と粒子の二重性」です.

WindowsのIE(Internet Explorer)には、情報伝達に公開鍵が使用されているという話を聞いたことがあるのですが、どのように活用されているのでしょうか?

IEでは,下記のSSLが実装されています.SSLでは,公開鍵暗号は,認証と鍵共有のために用いられています.

暗号技術を用いて、パスワードなど解読することは可能なのですか。

安全性に欠陥のある暗号が用いられている場合,暗号解読技術を用いて暗号化されたパスワードが解読される可能性はあります

SSLとは?SSLは安全か?

SSL (Secure Sockets Layer)とは,暗号通信を行うためのプロトコル(手順)を定めたものです.共通鍵暗号と公開鍵暗号の両方を利用するハイブリッド方式です.SSLの安全性に関しては,CRYPTRECによる報告書が次のアドレスから入手可能です.http://www.cryptrec.jp/estimation.html

シーザー暗号で文字「K」や「X」は、例として出ただけなのか、シーザー自身も使ったものなのか(イタリア語でKやXは使わなかったのではないかと思うので)。議論の本筋とは外れているが。

スライド中の平文・暗号文は説明のために発表者が選んだものです.

(1)公開鍵暗号とはどういうものですか?シーザー暗号は公開鍵なのでしょうか?簡単でいいので教えてください。
(2)エジプト文字(ヒエログラム?)の解読はどうやったのか。
(3)ドイツの暗号がなかなか破られなかったのは何故?

(1)公開鍵暗号とは,暗号化のための鍵と復号のための鍵が異なる暗号方式です.暗号化のための鍵は公開し,復号のための鍵は秘密にします.暗号化のための鍵が公開されているため,事前に鍵を共有しておく必要がないのが特徴です.なお,シーザー暗号は公開鍵暗号ではありません.
(2)ヒエログリフの解読に関しては,下記のサイモン シンによる本の第V章に興味深い説明があります.
(3)エニグマは機械式の暗号であり,暗号化のために複雑な処理が可能であったこと,また,鍵の更新に注意していたこと,などが理由として考えられます.

量子コンピュータができるのは、いつ頃と予測しますか?一説には50年、100年とも言われますが・・・。量子コンピュータができると公開鍵暗号の安全性の担保は?

量子コンピュータがいつ実現されるかを予想するのは難しい問題です.実現するためには何か革新的なアイデアが必要であろうと考えられています.なお,量子コンピュータが実現したら,素因数問題・離散対数問題が効率的に解かれてしまうため,ほとんどの公開鍵暗号が破られてしまうことになります.したがって,量子コンピュータでさえ解くのに膨大な時間を要する計算量的問題にもとづく公開鍵暗号を利用することによって安全性を確保することになるかと思われます.

暗号技術について、参考文献など教えてください。

サイモン シン:暗号解読 -- ロゼッタストーンから量子暗号まで(新潮社) 一松 信:暗号の数理(講談社ブルーバックス:改訂新版) 太田 和夫,國廣 昇:ほんとうに安全? 現代の暗号(岩波書店) 黒沢 馨,尾形 わかは:現代暗号の基礎数理(コロナ社) 岡本 龍明,山本 博資:現代暗号(産業図書)など

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