イベント / EVENT

平成18年度 第7回 Q&A

第7回 2007年1月16日(火)

ユーザインタフェース
--人間が楽に使えるコンピュータとは--

細部 博史(国立情報学研究所 アーキテクチャ科学研究系)

講演当日に頂いたご質問への回答(全13件)

※回答が可能な質問のみ掲載しています。

言葉の定義で恐縮ですが、「ワープロ」、「エディタ」、「DTPソフト」のそれぞれ違いとか、特徴ってあるのでしょうか?

通常,エディタ(より正確にはテキストエディタと呼ばれます)では,プレインテキストと呼ばれる,文字情報のみからなる文書を作成します.一方,ワープロでは,見出しの強調などの修飾を伴った文書を作成します.DTPソフトは,文書自体の作成を目的とするものではなく,本格的な出版を目的として主にプロが利用するソフトウェアです.

・先日、東京大学で「未来のリビングルーム」という発表があったのをニュースで見た。先生の研究はこういう「未来のリビングルーム」に関係していくものなのでしょうか。そういうものを一般の我々が見る機会はあるのでしょうか。
・また、10年後、20年後はどういうコンピュータ環境になるのでしょうか

「未来のリビングルーム」は,東京大学が21世紀COEプログラム「情報科学技術戦略コア」の一環として行っている,人と情報システムの新しいインタラクションの研究に関する成果として公開されたものです.私が紹介した実世界指向インタフェースは,未来のリビングルームを実現する上でも有望な技術であり,大いに関係があると言えます.

このような最先端の研究成果に触れることのできる機会は,残念ながら限られています.範囲は広くなってしまいますが,日本科学未来館が,情報技術を含む最先端の研究成果を公開する機会を一般向けに提供していますので,以下のWebサイトでイベント情報などを確認していただくのがよいのではないかと思います.

http://www.miraikan.jst.go.jp/

今後のコンピュータ環境は,ユビキタスコンピューティングに実世界指向インタフェースを組み合わせる方向へ進んでいくのではないかと思います.10年後,20年後の環境を具体的に予想することは難しいのですが,今後は特に携帯電話が発展して実世界との結び付きを強めていくのではないかと考えています.

新しいコンピュータ環境、ポストGUIにおける日本のレベルは世界をリードしているのか?そのレベルは?

これらの分野で,日本の研究開発のレベルは十分に高いと言ってよいと思います.特に携帯電話の分野で,数年前まで日本は世界をリードしていました.しかし,やはり情報技術分野における米国のレベルは総じて高いと言えますし,携帯電話ではヨーロッパ(特にフィンランド)のレベルも高くなっており,現時点で日本が世界をリードしているとは言えない状況です.

仮想現実感(VR)の応用分野、精神医学療法についてもう少し伺いたい!(聞き逃した?)

特定の物体や状況に対して過剰な恐怖を持つ患者を治療する方法として,暴露療法と呼ばれるものがあります.これは,恐怖感を生じる物体や状況を段階的に増やしながら与えることで,徐々に患者の恐怖感を取り除いていく治療法です.暴露療法においてVRをうまく利用することで,このような物体や状況を安全かつ比較的安価に再現することが可能であり,すでに実用化もされています.

ARというものは、冷戦が終了して軍事から民事へと流れたものですか?映画でしか知りませんが、ヘリコプター(アパッチ)とか、戦車の操作に使われているものっぽい気がしますが。また、機械だけでなく、外科手術の教授とか救急隊員の補助具としても可能性があるのですか?

ご指摘の通り,軍用ヘリコプターなどでパイロットへの情報提示のために用いられるヘッドアップディスプレイと呼ばれる技術があり,これはARの研究にも影響を与えていると考えられます.しかし,ARでは,実世界と仮想オブジェクトの位置合わせなどのアイデアも加えられており,必ずしもARが軍事から民事へ流れたものであるとは言えないと思います.

外科手術はARの重要な応用分野の1つであり,手術中の患者とその体内の情報を重ね合わせて医師に提示する技術などが研究されています.また,救急とは多少異なりますが,災害救助にARを応用する研究なども行われています.

画面22:認知症の徘徊老人の監視に用いられているか。赤外線通信。

研究段階ではありますが,類似の技術を用いた老人ホームの入居者の行動計測に関する実験が,産業技術総合研究所によって行われています.以下のWebページでその概要が紹介されています.

http://www.dh.aist.go.jp/research/enabling/EvidenceBasedNursing/index.php.ja

MITの石井さんの下のお名前は?(Tangible Bitsの石井さん)

石井裕(いしいひろし)先生です.

デスクトップメタファーが主流だが、本来の意味でのデスクトップではなくなってきている様に思えます。本来のメタファーであれば、すんなり受け入れることができるのですが、現実は人間が大きく歩み寄って成立している様に思えます。デスクトップを捨てて、新しいメタファーを期待するか、現行のデスクトップの拡張を期待するか?どちらが良いか?

確かに、GUIに関しては,本来のデスクトップメタファとは離れる方向へ進んでいっている面があると思います。

しかしその一方で、拡張デスクやタンジブルインタフェースなどの実世界指向インタフェースでは,現実のデスクトップにおける作業をコンピュータで増強する技術が研究されています.そのような意味で、デスクトップメタファは見直されていると言ってもよく、今後も期待してよいのではないかと思います。

ARでは、触覚(手触りとか)は感じさせられるのでしょうか。

ARというよりはVRの分野で、コンピュータによって触覚の情報を生成するUIが研究開発されています。このようなUIでは、圧力や振動などをうまく制御することで触覚の情報を作り出しています。微妙な手触りの生成などはまだ初期の研究段階にありますが、特に力覚と呼ばれる反発力を感じさせるUIについては多くの研究開発がなされており、すでに商品化も行われています。

・ブレイン・マシン・インタフェースもUIの一種ですか?
・ブレイン・マシン・インタフェースは、いつ頃どのように発展すると予想されますか?

ブレイン・マシン・インタフェース(BMI)は、脳と機械を直接的に接続することで入出力を行うインタフェースであり、UIの1種であると言えます。ただし、BMIでは脳から情報を取り出したりすること自体が重大な研究テーマであり、情報技術分野で行われているUIの研究とは大きく異なります。

BMIの発展の時期を予想することは難しいのですが、BMIは特に障害を持つ人達にとって有用な技術であると言えますので、そのような目的のUIとして発展していくことが予想されます。

UIの出力について、人の五感を経由するのではなく、神経に直接働きかけるという考えは危険ですか?電話にも骨伝導の受話器とかありますけど、障害者のPC利用促進には良いと思うのですが...。今のPC処理能力では無理?

前の質問で話題となったブレイン・マシン・インタフェース(BMI)は、出力用のUIとしても利用可能です。例えば、聴神経を電気的に直接刺激することで音を伝える人工内耳と呼ばれる技術がすでに実用化されています。また、視覚に関しても、人工眼などと呼ばれる同様の技術が研究されています。

UIの開発において、安全性は実際の所、最後の項目なのが実情ですか?初期のモニタではX線がかなり放射されていましたし、PC本体からの有害物質(ホルムアルデヒド等)放出について、メーカーで規制したのもここ1〜2年ですから。電磁波とか、これらの要素が使用者に対して、疲れやすいといった原因(テクノストレス)になり、生産性のマイナス要素となってはいないのでしょうか?

今日のUIの研究開発において、ユーザの安全性の確保や疲労の軽減は重要な課題となっています。確かに、新しい特殊なハードウェアを必要とするようなUIでは、安全性が十分でないこともあります。
しかし、普通のマウスやモニタを用いるようなUIの研究においては、ユーザビリティを評価する上でユーザの疲労も検討することが通常となっており、疲れやすいUIは、たとえ高速な入力を実現するものであったとしても、ユーザビリティが高いとは判断しないのが正しい考え方であると言えます。

今回、UIだけの入札案件が予定されているので、UIを作った後ではダメで、事前に評価したい方法論をもう少しコメントして下さい。

専門家レビュー、あるいはヒューリスティック評価と呼ばれる方法では、仕様書レベルでもUIの評価が実施できると言われています。これは、ユーザビリティに関する経験則などを用いて、UIを評価する方法です。

ヒューリスティック評価を扱った図書としては、以下のものが挙げられます.

ヤコブ・ニールセン(著) 篠原稔和・三好かおる(訳)
ユーザビリティエンジニアリング原論--ユーザーのためのインタフェースデザイン
東京電機大学出版局 2002

shimin 2006-qa_7 page2607

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