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平成29年度 第1回 Q&A

第1回 2017年7月12日(水)

やる気を引き出す人工知能
-個性を活かして学習意欲を高めるAI-

講演当日に頂いたご質問への回答(全34件)

※回答が可能な質問のみ掲載しています。

資料のP9とP10の空欄部分の内容を教えてください。

空欄を記入した資料を公開していますので、ご覧ください。

資料のP40、内発的動機づけに影響を与える要因で競争(青、赤)の色が1文字ずつ異なっているのは何か意味があるのでしょうか

赤は内発的動機づけを高める要因、青は阻害する要因を示しております。競争は両面があります。(勝者には有効だが、敗者には逆効果)

1週間後に1000円貰えることは、今貰えるよりも貰えないリスクを割引して考えているのでは?"1年"と1年+1週間では貰えないリスクはほぼ同じなので金額の差が小さくなるのではないですか?

ご指摘のリスクが関係している可能性はあるかもしれません。

資料のP14などで得られる価値と時間の関係をモデル化している点が面白いと感じました。一方で、「7つの習慣」などで言われる「緊急ではないが重要な仕事」をすることが大切といった話があります。ここでいう大切な仕事の価値と、P14の価値は単純な比較ができないように思えます。得られる価値についても、質のような多面的な側面がありそうですか、そこに対する考え方などはありますでしょうか?

ご指摘のとおりかと存じます。スライドで申した価値は物事を極端に単純化しておりますので、複雑なケースにおいても適用できるとは限りません。
恥ずかしながら7つの習慣を拝読しておりませんので、不正確な回答になるかもしれませんが、「緊急ではないが重要な仕事」は緊急性が低い仕事であるため、重要性があるのにもかかわらず、(ジム通いなどと同様に)明日やればいいやと先延ばしをしがちになり、重要度が低い仕事が優先されてしまうケースがあるのかと想像しました。その場合、意識的に「緊急ではないが重要な仕事」に取り組むことが大切なのだと思われます。

マシュマロを食べる子のほうが実は素直な気もするのですが・・・

おっしゃる通り、素直という一面もありそうですね。マシュマロの実験は、あくまで食べなかった子供の方が、恵まれた将来を過ごす傾向があるというだけですので、食べた子がすべて不幸になるということはございません。

ディープラーニングを使っていらっしゃるのでしょうか?
なぜそうなるかの理由はわかるのでしょうか?
予測性能、精度はどれくらいですか?

一般に、ディープラーニングは大量のデータに対して有効です。私の研究ではまだ500名程度のデータしか集まっておらず、ディープラーニングよりもランダムフォレストというアルゴリズムを使ったほうが良い結果が出ております。
 機械学習はブラックボックスな側面が強く、なぜそうかという理由を調べることが困難です。私はデータ量が原因だと考えておりますが、本当にデータ量が原因なのか調べる術がございません。
 現状の性能ですと、(期間は学習者ごとに異なりますが、だいたい1週間程度の期間で)学習者がある設定を用いて解答する問題数を予測する際に、だいたい23問程度の誤差が生じます。悪くはないのですが、とても良いとは言えない状況です。

この研究はAIの研究なのでしょうか、それとも心理学の研究なのでしょうか?

本研究は心理学の知見をもとに、AI(機械学習)技術を活用した、異分野融合型の研究になります。

暗記学習のスケルトンはどうなっているのでしょうか?

ご質問の意図に沿っていない可能性がございますが、今のところライトナー・システムと呼ばれる手法を用いて、忘却曲線を意識した学習を行っております。

作成しているアプリケーションはQTIなどの国際規格に準拠していますか?

残念ながら、QTIを含む国際規格には準拠しておりません。

TAOなどのシステムを利用していますか?

TAOなどのシステムは利用しておりません。

電子計算機(コンピュータ)は創造的機能は無いと聞いてきました。ディープラーニングはそれを可能にしたのでしょうか?

私はディープラーニングは創造的機能を可能にしたとは考えておりません。

自制心の前に「好奇心」があることが必要に思うが、「好奇心」を刺激することは何か方法がありますか?

学習において好奇心、そして、そこから生まれる興味は重要だと言われております。私は好奇心について深く研究をしていないため、一般的な回答になりますが、好奇心を満たして、その上で、さらに好奇心を刺激することが重要と言われております。
なお、好奇心については、Character Labの記事(英語)が良くまとまっていると思いますので、参考までに共有いたします。 https://characterlab.org/tools/curiosity

内発的動機づけは、自分に対するご褒美の場合でもあてはまるのでしょうか?

実は私も同様のことを疑問に思い、心理学研究者と議論したことがあるのですが、少なくともその研究者は、自分に対するご褒美に害はないと思われるという意見をお持ちでした。今のところ私も同様に思います。

海外の研究が多いようですか、日本人(東洋人)でも同じ傾向がでるのでしょうか(日本人は我慢強いと言われますが・・・)

実は私も同様のことを疑問に思い、多少調査したことがございます。国外研究では努力が重要であると考えることは良いとされておりますが、日本では努力主義が根付いており、成績の低い児童に自己否定感を与えるという研究報告がなされております。したがって、国外研究をすべて鵜呑みにしない方が良いとは考えております。

自制心に年齢、性別による違いはありますか?

女性の方が自制心が強い傾向にあることが研究で報告されております。
また、子供よりも大人の方が脳が発達しているため、自制心が強くなります。

・自制心のテストは子供が対象だったが、高齢者ではどうなるのか?(テストはあったのか)例:55才→75才
・100年Lifeと言われるほど、今後も長寿化、高齢化が進みます。子供と違って素直さのなくなった高齢者にも本日お話頂いた手法は有効なのでしょうか。

残念ながら、私は高齢者の方を対象とした研究論文を読んだことはございません。
ただし、私が携わった共同研究において、高齢者の方に双曲割引(時間と価値の関係)に関するアンケート調査を実施したところ、将来の近さにかかわらず金額が高いものを選ばれる傾向が高いように感じました。したがって、少なくとも、時間に対する割引度合いが他の年齢層の方と違う可能性があると考えております。

ぜひ、高齢者を集めて実験してみてほしいのですが、すでにそういったことをやっていますか?子供と若年とは違う結果が出るように思います。

調布市と電気通信大学が高齢者を対象とした歩行運動の促進に関する研究をされています。他にも、京都や神戸でも同様の試みがあったように記憶しております。健康増進という文脈では、高齢者の方を対象とした実験も活発なようです。

内発的動機づけの話は対象者の年齢は子供限定でしょうか。大人にもあてはまりますか。

内発的動機づけは、子供だけではなく大人にもあてはまります。

「努力を続けると、自制心を鍛えられる」ですが、「自制心があるから努力を続けられる」ということもあるのではないでしょうか?

実験では被験者をランダムに複数の群に分けており、もともと自制心がある(努力ができる)人に偏っていることはないと考えられます。その上で、努力を続けた結果、自制心が強まったことが報告されています。

仕事で成功した人が、オフは遊びや趣味に目いっぱい時間を使っていることが多いように思います。「自制心が共通の能力」という点からどのように説明できるのでしょうか?

まず、自制心だけが成功の要因というわけではございませんし、マシュマロを食べた子供であっても、成功している事例はございます。あくまで、統計的に傾向があるということです。
その上で、ご指摘の点に回答しますと、オンとオフを使い分けるということは、自制心があってこそ実現できることであるため、ご指摘いただいた成功者は自制心のある方なのではないかなと思いました。

自制心と自律神経の働き(もしくはストレス)の相関に関する研究・実験はありますか?

ストレスがかかっている状況では、自制心が弱まり衝動が強くなることが報告されております。

また自制心による成功体験によってストレス耐性がどの程度向上しますか?

ストレス耐性という観点では論文を読んだことはありませんが、成功体験から生まれる自信(自己効力感)は非常に重要で、意欲という観点でも、自制という観点でも、成功を支える要因の一つとなっています。

昔、クレペリンテスト(足し算の連続)がありました。これも、自制心(集中力)がわかる手法ですか?

内田クレペリン検査のことでしょうか。調べてみたところ、自制心そのものの調査というわけではなさそうですが、私は関係があるように感じました。

先送りすることで価値が増すものはありますか?例えば株なんかは先送りすることで価値が増す場合がありますが、今日売るか、半年後に売るかの判断はそう簡単ではない(双曲割引がなりたたない?)
また、骨とう品などの売買ではどう判断されますか?そこには、自制心のコントロールとは異なる心理メカニズムがあると思えるのですが・・・

時間と価値の関係は、客観的な価値が変動しないことを前提としており、主観的な価値の変化について述べたものです。
一方で、ご指摘の通り、株を始めとする多くの商品は、時間によって客観的な価値は変動すると思います。その場合、双曲割引とは別のモデルが必要だと思われます。
 ご指摘の通り、骨とう品の売買においては、主観的な価値の変化よりも、市場の変化を考慮することが重要だと思われます。

ザイガルニック効果は常に害があるのですか?

いえ、そういったことはございません。集中力という観点では、ザイガルニック効果に害があるとは言えますが、一方で、忘れずに頭で意識し続ける必要がある場合は、有益だと思われます。

グルコースを摂取したことで、自制心に影響を与えるという実験はあるのですか?

あります。例えば、砂糖入り(グルコースあり)、もしくは、ダイエットシュガー入り(グルコースなし)のレモネードを飲む群で比較したところ、砂糖入り(グルコースあり)のレモネードを飲んだ郡の方が自制できたという研究報告があります。

テクニックを使った場合は、自制心が鍛えられるのですか、それとも自制心は変わらず特定の誘惑に勝てるだけなのですか?

ご指摘の疑問は、私も興味を持っております。調べた限り、そのような調査はないのですが、私はテクニックを用いた成功体験を通して、自制心が鍛えられるのではないかと期待をしております。

個性によってインセンティブを変える、というのはいろいろな応用がありそうですが、産業への応用は既にあるのですか?

既に、社員教育用に心理アンケートを用いた個性の分析サービスは実用化されています。私が調査した限りでは、私たちのようにソフトウェアを用いた、個性によるインセンティブの出し分けは、応用事例はないようです。ただし、自信のある/ないなど、簡単な場合分けはあるようです。

マシュマロテストで示された自制心(個人の天性の性質)と、AIによって鍛えられた自制心を同質のものととらえてよいのでしょうか?

今のところ、先天的な自制心と後天的に獲得した自制心を比較する研究報告を読んだことはありませんが、私は同質であると信じております。

現在、人工知能ブームの様相を呈しております。先生のご研究の中でも人工知能技術を研究されていますが、「人工知能の定義とは?」「人工知能と言えるものと言えないものの境目は?」についてお考えをお聞かせいただきたいと思います。

人工知能の定義に関する議論は様々なものがありますが、私はチューリングテスト(人間が会話を通して人間か機械か判別するテスト)に合格した機械を人工知能と定義したい、また、境目は特にないと考えています。

AIによって鍛えられた自制心でもって、短期的に好成績を得られても、長期的に個人に与える影響を懸念しております。例えば、インセンティブ/動機づけに危機感を与えられたものの場合、長期に渡ると抑うつを発生させるような怖れはないのでしょうか?例えば、高学歴な人間が就職後、ブラック企業のような環境で過酷なノルマに追われ続け、障害を受けるようなケースが想起されるのですが。

罰やネガティブな情報を用いた動機づけは、強力である一方で、長期的には精神衛生上良くないことが研究で分かっています。そこで、私たちは、罰やネガティブな情報が長期に渡って続かないような工夫を行っております。

人工知能アプリの本質は自制心をどう引き出し、持続性を促すかにあるのかなと認識しました。例えばこれを、健康増進アプリの活用に応用できないでしょうか。ウェアラブル端末がなくとも歩数計測は可能です。

はい、もともとは学習に特化せずに、健康増進なども対象に考えておりました。しかし、対象とする行動を広げると、研究がブレやすいことに気付いたため、現在は学習に特化して研究しております。

努力、自制心≠クリエイティブという式が成り立つようですね。アーティストはそういう意味で別格なんでしょうか。

ご指摘の点は興味深く感じます。なお、最近は、あきらめずにやり抜くという能力として扱われることもあり、必ずしも何かを抑制するという側面だけではないようです。

質問ではありませんが、自制心という言葉から禁煙を連想してしまいます。禁煙は禁煙で深い研究がおこなわれていると思います。今日紹介されたものと、共通するところが多いように感じました。

はい、禁煙は自制心と強い関係がありそうです。私が読んだ論文の中で興味深かった研究の一つとして、喫煙したら罰金するという契約を自分自身に課すことで、高い禁煙の成功率を実現したという研究がございます。

shimin 2017-qa_1 page2733

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