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平成20年度 第5回 Q&A

第5回 2008年10月7日(火)

脳科学と情報学
--脳の理解に結びつく脳科学のデータベースとは?--

山地 一禎(国立情報学研究所 コンテンツ科学研究系 准教授)

講演当日に頂いたご質問への回答(全13件)

※回答が可能な質問のみ掲載しています。

①「オープンサイエンス」という言葉はいつ頃生まれたのですか?
②生まれた動機、必然性は何ですか?
③社会科学でのオープンサイエンスは国民全体が参加しやすいと思いますが、社会学でのオープンサイエンスサイトは無いのですか?

オープンサイエンスの起源は残念ながら知らないのですが、元来オープンであった科学の営みを、あるべき姿に戻そうとする考え方のようにも捉えることができると思います。
また、今後の科学の発展に向けては、これまで細分化されてきた学術分野の横のつながりが、不可欠になってくると思います。オープンサイエンスの取り組みは、そうした学際的な研究をサポートするものでもあることを考えると、今の時代におけるオープンサイエンスの必然性が見えてくるように思えます。
社会学に関しては、十分にフォローしていないので正確な回答ができませんが、どの分野でもオープンサイエンスの可能性は十分にあると思います。

オープンサイエンスに向いている分野とは何でしょうか?
化学、物理、生化学、医学など向いていない分野ではどのような改善が考えられるのでしょうか?

インターネット上での情報の共有が前提になります。研究成果を対象とするならば、共通のフォーマットで記述できることが1つの近道になると思います。バイオインフォマティクスの流れを参考にすると、その共通のフォーマットが原理的な内容に近ければ近い分、曖昧性が排除されて、共有性が高まるように思います。この共有性の確保は、オープンサイエンスを推進する上での大きな要素となると考えています。

人文・社会科学におけるオープンサイエンスの例はあるのでしょうか?

いくつかの例は見られますが、私の知る範囲では、まだ化学のようなコミュニティを形成するまでには成長しておらず、手探り段階といった印象を受けます。だからといって、人文・社会科系がオープンサイエンスに向いていないわけではないと思います。コンピュータを利用した研究の浸透と同じように、段階的にニーズが生まれてくるのだと思います。いまは、オープンサイエンスの黎明期であるからこそ、誰もがその分野での創始者になるチャンスがあるとも考えられます。

オープンサイエンスは大変良いと思いますが、いわゆるサイバー攻撃を受けないのでしょうか。対策は?

当然、攻撃を受ける可能性は十分あります。オープンサイエンスといっても、なにでもオープンにするわけではありません。サービスへの認証・認可などを十分に配慮し、信頼性の高い学術コンテンツを安心・安全に流通させることが重要になります。国立情報学研究所では、Cyber Science Infrastructure事業の中で、そうした基盤の一端となる技術開発も進めております。

オープンサイエンスでのデータベースで論文だけでなく、実験データや資料などとシェアして共通資産として利用する理想的なお話しでしたが、負の側面として、データベースにあるデータの信頼性はどう担保するのでしょうか。論文執筆者の責任に帰することになるのでしょうか。

登録されたコンテンツが、「だれが」「いつ」「なにを」提供したものであるか、というディジタル学術コンテンツの内容証明ができれば、負の側面も克服できるのではないかと考えています。我々は、電子署名、タイムスタンプと呼ばれる技術を導入して、この問題に取り組んでおります。常に内容が保証されるので、間違ったものを公開しても、公開された内容が改ざんされても、全て明らかにされます。この技術と組み合わせて、信頼性の低いコンテンツは淘汰さていくようなコミュニティを形成し易い基盤の構築も重要だと考えております。

オープンサイエンス
学術コンテンツピラミッドの形や研究成果の再利用と交換のあり方は、分野によってかなり違う部分と、共通の部分があると思う。
今後、どの分野にも使えるようなプラットフォームを構築していかれるのでしょうか。
モデルケースは?

研究の内容となるので詳細は記述できませんが、共通なプラットフォームを意識しながら、特定の分野をターゲットにしたサービスの展開を進めているところです。完璧に共通なものはできないかも知れません。現在の研究分野は非常に特殊化しておりますので、共通化を意識してプラットフォーム(基盤)の機能を汎化しすぎても、使い勝手が悪くなります。基本的にはプラットフォームは汎化性を確保しつつ、これをコミュニティ(運用)により詳細化(特殊化)していくわけですが、そのバランスが重要になります。

(脳神経外科)医師に光を眼に当てられて、「瞳孔が開いている」と言われました。交感神経の過緊張状態だそうです。P.10の上の図の(計算論的神経科学1)では、「明るくなると瞳孔が小さくなる」という法則が記載されていますが、私の状態は反証となるのですか。或いは、自律神経の失調状態が何かのメカニズムにより生じているものでしょうか。

瞳孔の大きさは、主に自律神経系の活動により変化します。すなわち、瞳孔の大きさを変化させる筋肉への入力が自律神経になっているのです。瞳孔への自律神経入力は、光以外の要素によっても変化することがあります。ご質問にある状態もその1つです。P.10の結果は安静時の実験結果であり、実際の研究では、そうした細かな実験条件のコントロールのもとデータを計測します。したがって、ご質問の現象は反証にはならず、生体反応の計測条件(補助仮説)が違うことになります。交感神経の緊張状態に対する瞳孔の反応を調べたい場合は、そのような実験環境を設定するのです。非常に地道な作業です。科学者が行っていることが、「同一性の追求」である、ということを身をもって感じます。

P.10計算論的神経科学1のスライドおよび2のスライドについて
"計算論的とは、データを式に表すことであり、そのために、パラメータを多く増やし、モデル(この場合は力学的モデルをつくって)を作って、式化に活かす"
という過程であると考えてよいのでしょうか?

パラメータを増やせば増やすぶんモデルの自由度があがります。モデルがより複雑な応答も表現できるようになります。その複雑化が実際の生体の構造などに対応していればよいのですが、そうでなければ複雑な応答を再現する勝手なモデルになってしまいます。生体の構造や機能は非常に最適化されているところがあります。すなわち、モデルはシンプルであればシンプルであるほどよいのかも知れません。

脳の計算論的なモデルは、どのように作られるか?
作ることは可能なのか?
そのようなモデルは、コンピュータの世界での「心を持つコンピュータ」とか「考えるコンピュータ」に近いものなのか?

これといった王道はありません。作ることが可能かどうかもわかりません。しかし、それぞれの研究者がそれぞれの方法で脳に対するできるだけ多く、できるだけ異なったレベルの同一性を追求しています。当然、「心」や「考える」をテーマに研究を進める科学者もたくさんいます。今後の成果に期待したいところです。

学際的協力とは、"脳とロボット"等でしょうか。メリットとデメリットがあると思います。

脳科学とロボット工学、機械工学、情報学などが結びついたよい例だと思います。学際的協力とは、強制されるものではなく、科学の発展のために必要にかられてできる分野だと思います。各々の学術・研究分野は固有の文化をもっていることがありますが、それを克服することができれば、新しいパラダイムが見つかるかも知れません。

同一性の英語はアイデンティティーで良いのですか?

Identityのように明確なものではありません。Identityという言葉は客観性を意識したニュアンスがありますが、講演の中で表現した同一性とは、あくまでも自らの主観性を介した観念です。言語学的な表現では、日本語ではシニフィエ、フランス語ではsignifié 、英語ではsignifiedと記述します。

オープンサイエンスに疑似科学が入り込む危険性はどう回避されていくのでしょうか?

オープンサイエンスにより、情報発信の敷居が下がった結果、ご質問のような危険性が生じる可能性はあります。いろいろな対処法が考えられますが、身近な例でいうとウィキペディア(参加者が作る事典)のようなコミュニティによるコントロールも、一つの解決策になるべきだと思います。

NIHのホームページを教えて下さい。

講演で紹介した文献検索サービスは以下です。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/

NIIの提供する論文情報ナビゲータのサービスは以下です。
http://ci.nii.ac.jp/

多くの方々が学術コンテンツにふれて頂けることを期待しながらサービスを提供しております。ぜひ、ご利用ください。

shimin 2008-qa_5 page2594

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