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平成23年度 第6回 Q&A

第6回 2011年11月30日(水)

地球の温暖化を遅らせるには?
グリーン化へのITの貢献

浅野 正一郎(国立情報学研究所 教授)

講演当日に頂いたご質問への回答(全15件)

※回答が可能な質問のみ掲載しています。

グリーン化を進めるための問題を大変、素人にも分かりやすい講義をして頂きありがとうございます。ただ、エネルギー供給側(電力・燃料等)がグリーン化に対応するための国家戦略が10年余我々には見えてきません。 エネルギー供給側のグリーン化への対応を進めなければその成功は困難ではないだろうかと、素人で僭越ですが気がかりです。この分野の対応は現在どこまで進んでいるのでしょうか。

国家戦略は一概に述べることは容易ではありません。内閣官房には首相を長とする「地球温暖化対策推進本部」が置かれていますが、平成21年7月17日以降会議は行われていません。「地球温暖化問題への国内対策に関する関係審議会合同会議」が設置されましたが、これも平成20年7月18日以降開催されておりませんし、過去の関係者の集まりとされています。現政権では、グリーン化のための戦略を決める会議は公には開催されていないのが実情です。従って、過去の行動目標を所管府省庁と業界が努力し、達成に向けた地道な行動を継続する現状にあります。

地球温暖化制御について、日本の努力はどれほどの効果がありますか?自国で発生する量を抑える以外にどんな努力が必要でしょうか?

地球温暖化対策は、人類に課せられた大きな試練であると同時に、経済問題でもあります。現在、温室効果ガスの取引(排出枠を売り買いする市場)価格は、CO2の排出1トンが概ね6ユーロです。概略では原油1リットルで約1円と考えれば良いでしょう。この価格は、温暖化が深刻になると上昇すると考えられます。もし、日本が世界レベル以上の努力をして温室効果ガスの削減に努めれば、このような排出枠を買う支出を抑え、医療・社会保障・過疎化・雇用対策など日本社会が抱える持続的な日本社会の維持にかかわる課題に資金を向けることができます。そのような効果もお考えください。温暖化対策の他国への技術移転(輸出)ができれば、その対価の獲得だけでなく、他国で排出量が削減された分の一部を、日本における削減に加えることもできます。このように、国際的な技術貢献は二重になって日本に還元されることになるでしょう。

グリーン化へのITの貢献には2種類あると感じています。
(1)"Green by IT"と呼ばれる、ITをうまく利用して社会の地球温暖化対策に貢献するもの。
(2)"Green of IT"と呼ばれる、IT機器(システム)自体を省エネ・省電力化して地球温暖化対策に貢献するもの。 
本日の講演は(1)のほうが中心であったと思います。質問は(2)のほうの今後の動向・展望・ご意見などをお聞かせ下さい。インターネット利用がどんどん増えていき、データセンターも増えていく今後において、CPUやサーバ自体の省エネ化、あるいはそれらの排熱を冷却する空調システムの省エネ化が重要になるかと思いますがいかがでしょうか。

仰るとおりです。機器の省エネ、データセンタの省エネは大きなテーマであり、日本でも多くの会社がこの分野で貢献しています。このような「グリーンIT」を話題とする学会では、今年新たな発想が提起されています。それは、現在のインターネットが、膨大な端末としてのコンピュータ、年々高速化してエネルギー消費を増しているネットワーク、膨大なデータを抱え複製データを多数配置するサーバからなるとするとき、ネットワークとサーバの集約を考えた構造に作り直すことができないかとするものです。仮に、全米のデータセンターを5か所に集約して、データセンターには多くの人が使うサービスを全て揃えることができれば、データセンタ間を渡り合う通信が削減でき、ネットワークが省エネ化できると考えます。また巨大なデータセンタの電力は膨大となりますが、分散重複配置するのに比べれば大きな省エネ効果が生まれますし、データセンタ内の情報転送は最小のエネルギーで済ませることで省エネ効果を更に高めることができるとするものです。このような発想が現在のサービス提供者に容易に受け入れられるとは思えませんが、温暖化が進むと必要な対策と一つとして受けび上がる可能性があると考える人が増えています。インターネットは分散化による技術が発展したものです。これが集中化を考えることになるのか、極めて興味深いことと考えます。

データセンター・サーバ等で膨大な電力を消費していると聞きます。今後も増大していくと思われますが、IT分野自体でのグリーン化の取り組みについて知見をお聞かせ下さい。

Q3 の御指摘と似た内容と思われますので、ご参照ください。

「自動車のエコ貢献という点に関して」 ガソリン→動力にエネルギー変換する現行に比べて、現在の福島原発事故による化石燃料に依存する電力発電は「化石燃料→(変換効率が良い?)電気→(さらに変換)動力/エンジン」へと2段階の変換を必要とし、トータルでは非効率となりグリーン化に逆行していないでしょうか?自動車だけの電力源で見れば、電気がグリーン化に貢献するが、変換効率を落としてまで二度電気変換して利用する総合効率性についてはむしろ効率を落とすという事実についていかがでしょうか?

総合的なエネルギーの最適利用に関する問題は30年前から検討を続けるグループがあります。御指摘のように、電気万能なのか、電気が蓄積できないために電機依存は効率化に向かないのかは常に意識の中心にあると思われます。個人的な意識で恐縮ですが、家庭・事業所・工場など固定される場所で消費されるエネルギーと、車輛・航空機・船舶・鉄道など移動しながら消費するエネルギーの対策は本質的に異なるものと考えます。欧州の風力・太陽熱・地熱の利用は主に固定された場所での消費のための方策であり、この発想が進む地域ではEV/HV等電気エネルギーの利用には積極的ではありません。自動車工業会でも電機への動力の変更には必ずしも確信を持てないようです。私も、技術開発の根幹をなす技術の見極めが必要な時期が来ると想像しています。

(1)冒頭のスライドについて、家庭からのCO2排出量→水道1.8%とは?(水道局などの設備運営のための電力などという意味ですか?)
(2)電気自動車は電力→蓄電→動力へのエネルギー変換効率(ロス)を考えても本当にエコなのですか?また蓄電池を製造する時のCO2も含め、ライフサイクル全体でエコですか?
(3)CO2は温暖化には関係ないとの説もあるようですが、先生はどのようにお考えですか?
(4)情報学研究所と「情報の共有」という部分において、環境省や国交省との連携はとれているのでしょうか?
(5)電気自動車(EV)は電池の製造や維持、廃棄のTotal Life Cycleを考えた時に、本当にCO2削減に寄与するのでしょうか?

(1)給水のために水圧をかけるのに使われるエネルギーと考えます。
(2)Q5の御指摘と似た内容とおもわれますので、ご参照ください。
(3)温室効果という点での疑問と思われますが、エネルギー原単位の消費の計測量としては意味あるものと思われます。
(4)現在、国土交通省CIO(情報統括責任者)補佐官を拝命していることもあり、情報の統括(統計を含めて)を行っている総合政策局と連携しています。なお、国土交通省では総合政策局が、地球環境対策の取りまとめをしています。
(5)電池に関するライフサイクルのCO2削減は、専門家でも様々な意見があるようです。しかし、この問題に精通されている早稲田大学 大聖(だいしょう)先生のまとめられた資料で、政府で広く参照されているものを拝見しますと、寄与があると判断されています。なお、急速充電など公共的な施設の配備に関する分析は欠けている面があり、給油に匹敵する迅速性を得るには更なるシステム的検討を必要としていると思われます。

浅野先生の研究は今日お話の内容のどの部分にあたるのでしょうか?
ドラスティックにCO2の削減を行うような何かがあるのでしょうか?

私は技術者を育てる工学(特に、インターネット)を専門として30年以上活動してきました。しかし、審議会等政策の立案に参加するようになり強く感じることは、国の発想を浸透することが中心であり、これに批判がでると、国の判断を妥当なものとする政策評価や効果評価の手法を取り込むようにしているのが今日の姿と思えてきました。社会で活動する個々の者(企業や国民)の受け取り方を直接反映する手法と手段を持たないことの「限界」を垣間見ました。そこで、今までの専門とは多少離れるのですが、政策とこれを受け入れる者を関連させる「何か」をITにより実現することはできないかという期待を持つようになりました。政策立案者と同等に現状を掴むことができ、立案された政策が重要できるかを判断することができ、政策進行を監視でき、容認した政策に参加する「責任」を持つようなスタイルです。今日、日本が抱える課題の多くは、簡単な解決方法がなく、国民には長期的な負担がかかる半面、その実態が見えなく、政策に疑問が残り、責任をもつ行動に結びつかないと感じることが増えているのではないでしょうか。温暖化は一つの例なのですが、このような政策と国民とのある種の「断絶」を結び付けることがITによりできないか、というのが私の願いなのです。繰り返しますが、私の専門とは必ずしも一致しません。しかし、政策に関与する機会があり、ITを専門とするものの思いを反映できるかもしれない機会があるとき(それは、これから国会で審議される「交通基本法」の成立後の地域交通の維持の課題への対応を負ないような例ですが)、この発想をプログラムに反映する努力を続けたいと思うのです。このことが、今回の市民講座で申したい最大のことでした。

各交通手段によるエネルギー消費減には限界があるということですが、「モーダルシフトの促進」「ガソリン価格の引き上げ」によって実現するという方法ないのでしょうか。各業界の言い分には出てこない部分をどうお考えか聞かせて頂きたい。

エネルギー消費を抑えることができ、経済活動が発展するならば宜しいのですが...これが「ガソリン価格の引き上げ」で解決するでしょうか。「モーダルシフト」、特に原材料のモーダルシフトは進んでいます。でもそれが顕著な成果とならないのは、完成品や中間製品の流通が、「大量」あるいは「規格化された」輸送に馴染まない面があるのが現状と思われます。内外の競争が激しくなると、在庫の保有や蓄材によるロスを少なくするために、デマンド型の流通が主流となる段階が表れ、モーダルシフトに限りを持たせています。でも、その条件の中で。流通界のエネルギー消費は減ってきています。それが、利益最大化と結びついてきているからです。現状以上のエネルギー削減を求めるとき、改めてモーダルシフトや燃料価格の引き上げが論議されましょうが、そこに至るには社会の決意を必要とするでしょう。

(1)COSPARとは何の略ですか?
(2)2ページ以降の資料の数字は出典から推測して、日本だけの統計数字と考えてよいのでしょうか?

Committee on Space Reseach(COSPAR)です。御指摘のように、統計情報は国内の値です。国際的には、国連の値がありますが、統計手法が統一されていないものがあり、今回は提示を避けました。

乗用車の燃費は平均耐用年数(12年)の半分(6年分)シフトして考えればよいのではないでしょうか。

現在の普及率(買い替え率)が続けば、概ね、そのようにお考え願えればと存じます。

温室効果ガスに対する世界の寄与割合はどうなっていますか?

1997年京都議定書の目標(日本:1990年比6%減、米国:同7%減、EU同8%減)を寄与割合とすれば、日本は約束年2012年の達成は微妙、米国は離脱(増加)、EUは困難な見込み<1997年当時に比べ排出割合が高い国が加盟しており、それを加えると極めて困難)となるのが現状でしょうか。もっとも、1997年時には国際海運や国際航空など排出量の算定が難しい分野は除外されていまして、現在専門家間ではこれら分野を含めることが検討されています。ですから、今回示した排出量には議定書目標に含まれない分野も含まれていると理解して下さい。その上で申しますと、日本は目標の達成を諦めていないが、再生エネルギーの利用はかなり遅れていると言えます。過去は善戦、将来は不安とするのが正確でしょうか。

交通、流通の効率化はエコだけでなく、経済へのメリットも少なくないと思いますが、課題としては長期的すぎると思われます。見込み、目通しとしてはどの程度を想像されていますか?

全国を目標とすると、見通しは立ちません。ただ、富山市等、地域交通の改革にチャレンジしている都市があります。住民、交通事業者、自治体の意識が結集し、市長や市役所の熱意とスタッフを抱え、バラバラになりがちな政策資金を総合化する発想で成功する事例があります。このような成功事例(ベストプラクティス)を増やし、その類型を支援し(NPOや意識の高い協議会を活用し)、制度の枠組みを柔軟とする(規制や制約を無くす)ことで、活動が広がることを期待しています。そのようなプログラムを国土交通省で検討しています。

「ITによる把握可」は人権との衝突はないのでしょうか? 生活が何でも情報として管理されるようで恐怖感があります。

ご指摘は課題です。しかし、統計に付きまとう問題なので、IT化と統計に関する枠組み(自主規制)の有り方を議論している事例があり、それを参考にしています。例えば、情報セキュリティ大学の広松 毅先生の活動など参考になるとことが大きいと考えています。

(1)来年、アメリカ・ロシア・中国・韓国・フランスなど世界の主要指導者の選挙があり、(2)今後世界はブロック化による国際政治が進展していく方向になる。(3)既存の常識が変化していく世界での、(1)~(3)を進展による、世界でのグリーン化の考え方をどのように構築していくか、ポイントをご教示頂きたい。

経済振興地域を国際的枠組みに如何に組み入れていくのかというご指摘と判断いたします。COP17(南アフリカ)の政治交渉もそれが中心となることが予測されますし、かなりの困難を予想し、先の日本政府の対処方針に絡む報道となっていると思われます。科学者・技術者・専門家では経済発展地域の方々も問題と共有しており、COP15(2009年、デンマーク)では先行した Science Forum の歩調をみて、COP15議長のデンマーク化学相が自信を持った事実がありました。しかし、会議が始まると、冒頭から政治が前面に出て、紛糾し、議長職を降りる事態となりました。実態論と政治とのかい離の事例と思われます。今の世界経済の象徴的なものがグリーン化にも表れているのでしょう。中国・インド等と米国の自由主義との軋轢は日々に顕著になっていると思われますので、しばらくは合意を得ることはできないのでしょう。しかし、地球環境問題は、激甚災害など国内問題ともなりますので。それに対処する行動は民間で必ず起こると予想しますので、今後起こる新たな枠組み作りに注目したいと考えます。

質問というより提案ですが・・・
(1)温暖化阻止は間に合わないので、強制的に地球と太陽の間に日傘を打ち上げてはどうか。(スペースパラソル)
(2)これからは戦争による死者より環境による死者が増えるはず。環境保全のための第二軍隊を各国に作らせてはどうか。

興味あるご指摘と考えます。(1)は、人間を含め地上の生物の生存環境に影響をあたえるとも限りませんので、広汎な配慮をひつようとするでしょう。(2)については、草の根的な行動が、政府以外から起きることが予測されるという点については、皆様と共に注目していきたいと存じます。

shimin 2011-qa_6 page2556

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