イベント / EVENT

平成21年度 第5回 Q&A

第5回 2009年9月30日(水)

快適な情報通信はいかに実現されるか?
通信の品質保証

計 宇生(国立情報学研究所 アーキテクチャ科学研究系 教授)

講演当日に頂いたご質問への回答(全24件)

※回答が可能な質問のみ掲載しています。

TCP/IP プロトコルを利用しているが、通信についてはQoSよりも利用しているネットワーク環境による影響が大きいように感じる。自ネットワーク上に利用したいコンテンツがあればQoSは有効であると思われるが、異なるISP間でQoSが利用できるような規格が今後出てくるのか?
NGNのQoSは有効的であるのか?

まずQoSが必要になる理由として、通信フローをうまく制御することでネットワークの性能を最大限に活用するということが挙げられます。将来のトラヒックを厳密に予測することはできないため、例え高速なネットワーク回線を用意したとしても、バーストトラヒックの発生によって簡単に輻輳状態に陥ってしまいます。
現状ではISPごとに独自のQoS方針を採用している場合がほとんどだと思いますが、ビジネスベースでISP間のQoS保証を進めていくという流れもあります。
NGNではエンドエンドでQoSを保証する仕組みが標準化されているため、NGN内での通信においてはQoSの使用が当たり前になると期待されています。

情報爆発と言われてきたが、通信が爆発することはないのか。基本的な品質と思うが。
(Σ:1.23Tbps △増分40%/年)

ご指摘の通り、国内のトラヒック量は年40%(海外は年100%)の割合で増加しており、このままではネットワークが飽和してしまいます。そのため、各ISPでは40GbE(将来的には100GbE)などの高速回線やWDM技術を導入してバックボーン回線の増強を図っているところです。また、近年ではトラヒック量の過半数がP2P(中でも少数のヘビーユーザ)によるものだと言われており、各ISPではP2P通信を規制するなどして対策を行っています。

良いトラヒック(信号)、悪いトラヒック(信号)とは?

図の一部が印刷されず、わかりにくくなっていることをお詫びします。ここでいう良いトラヒックとはバースト性が少なく、パケットが安定して流れているため、他の通信に悪い影響の少ないトラヒックのことであります。逆にバースト性が強 いものを悪いトラヒックと称しています。

情報通信の楽しみ方が少し分かったような気がしました。
QoSの向上によって可能になったサービスはどんなものがありますでしょうか。

QoS技術の向上によって、リアルタイム性を必要とするサービス、例えばVoIP (Voice over IP)、動画ストリーミング、TV会議システムなどが実用的なものになりました。今後、携帯電話による通信にもQoS技術が使用されるようになります。

インターネットのQoSは、プロバイダー毎に異なりますか?
あるとすれば、どうやって知ることができますか?

インターネット全体にわたるQoS技術は今のところ存在しないため、現状では各IPSごとに独自のQoS方針を採用しています。 QoS方針はサービス差別化のための重要な指針であるため、各ISPのQoS方針を伺い知ることはなかなかできませんが、中には音声電話サービスや動画サービスなどの専用サービスを提供しているISPもあります。

通信品質と通信コストのトレードオフについて説明してください。
トラヒックの例の図:観測ポイントに依存すると思いますが、記述がありません。
通信の品質に通信機器の故障率も関係すると思いますが、特に記述されていません。

通信品質を高めるための方法として、広帯域回線の利用、高性能通信機器の利用、専用回線の利用などが挙げられますが、それらを利用することによって通常よりも通信コストがかかってしまいます。
観測ポイント:InternetMCIのバックボーンにおけるコアルータの中継部分で、アメリカ東海岸の都市部の利用者のアクセスポイントになるポイント。多数のユーザのトラヒックが集約されるポイントでは大体同じようなトラヒックパターンになります(日本でも)。
ご指摘の通り、通信機器の故障率によって通信の品質が変わってくる場合があります。しかし、ネットワーク回線が多重化されていれば、故障した通信機器を瞬時に迂回することも可能なので、大規模障害が起きない限り、安定した通信を行うことができます。

通信品質は確かに向上したが、回線使用料金はどれくらい、低下したのか。
通信品質を本日のテーマと逆に、下げていった場合、どこまで下げたら認識可能なのか。それは受け手側に設けたソフ トで認識率が向上するのか。

インターネットの前身であるARPANETでは、1機関あたり年1200万円ほどの料金を支払ってわずか50kbpsの回線を使用していました。それが現在では、月額5000円程度で100Mbps程度の回線を利用することができます。
どの程度の品質なら通信が成立するかについては、アプリケーションが要求する品質基準(信頼性、遅延、ジッター、帯域幅)によって変わってきます。例えば音声会話アプリケーションの場合、数百ms程度の遅延が頻繁に発生するとまとも に会話を行うことが困難になります。しかし、具体的な限度についてはアプリケーション側の工夫(データ処理時間の短縮化など)によってわずかながら変わってくると思います。

パケットのスケジューリングについて、優先スケジューリング(PQ)では何をもって優先度付けをするのでしょうか?(資料シート23)
資源配分の公平性と関連するのでしょうか?(資料シート28)

優先スケジューリングでは、主にアプリケーションの種類によって優先付けが行われます。例えば、IP電話用のパケットは優先度を高く設定し、電子メール用のパケットは優先度を低く設定するなどです。一方、資源配分の公平性は同じ優先度を有する通信の間で資源を公平に共有することを言います。

「長期依存性」の意味をもう一度。どういう現象なのか?

長い時間スケールで観察しても、短い時間スケールで観察してもネットワークトラヒックが同じような変動の様子、振舞を示すという現象です。数多くのユーザトラヒックが集まるネットワークでこのような現象が見られます。

IPv6は、将来月面基地ができたとき、地球のWebサーバーを見られません。どうしたらよいでしょうか?

月面基地内のネットワークと地球上のインターネットを衛星通信などで中継し、論理的に一つのネットワークと見なす事で、月面基地から地球のWebサーバを見られるようになります。月面基地内の各ノードにも地球上と同様の方法でIPアドレスやドメイン名が割り当てられ、地球上のアドレス情報も含めて一元管理されます。

遅延(伝送遅延、アナログ)が通信品質を低下させるメカニズムを教えてください。(→ホームページでの回答を希望)
極端な輻輳から回復するプロセスを説明してください。(→ホームページでの回答を希望)

アナログ(物理層)レベルで考えた場合、伝送媒体の種類や通信距離あるいは符号化の方法によって大きく伝送時間が変わってきます。例えば無線電話の場合、数百ミリ秒程度の遅延が発生するだけで相手の音声が言葉として認識できなくなり、会話が成り立たなくなります。
極端な輻輳状態に陥った場合、ネットワーク上の各ルーターは、送られてくるパケット数を制限し、ルーター内部に溜まっているパケットを一部破棄することで輻輳状態の解消を図ります。また、パケットの送信元はこうした状況を伺い知ることができるため、パケットの送信レートを抑えることでルーターの負荷を低減させることができます。

TCPのウィンドウサイズは、通信開始時、スロースタートするが、その合理的な理由について教えていただきたいです。 最初から大きなウィンドウサイズで通信すればよいと思ってしまう。

実際に通信を行うまでは、ネットワークが扱えるトラヒック量がどの程度なのかがわかりません。もし大多数のユーザが同時に大きなウィンドウサイズで通信を行うと、簡単にトラヒック量が限界を超えて輻輳状態が発生してしまいます。そのため、TCPではスロースタートを行うことで輻輳にならないように配慮しつつ効率的な通信が行えるように工夫してあります。

受信側が、稼動していない(故障/電源OFF等)とき、パケットはどうなりますか?
どこかにプールされる?
消滅する?
永久にネットワーク上をパケットが回ってる?

受信側が稼動していない場合、そのパケットは破棄されてしまいます。アプリケーションによっては、受信側が復帰した後で再びコネクションを確立し、データを再送する場合もあります(電子メールなど)。また各(IP)パケットにはそれぞれ生存時間(経由可能なノード数)が設けられているため、あるパケットが永久にネットワーク上を回り続けることはありません。

通信、特にIPベースでのQoS問題は現実的には常に物理層の高速化と(若干の)バッファリングでクリアされてきている様に思う。
このトレンド(?)が変わり、QoSが主流の(オプションやローカル的なものでない)標準的に使われる方法になる方向 ・傾向はあるか?

インターネット全体として見ると、各ネットワークの管理方法が非常に多岐に渡るうえにコスト面での問題もあるため、QoSによるグローバルな差別化を実現することは困難な状況にあります。そのため、今後もローカルネットワーク内におけるQoSの利用が現実的だと思います。一方で、NGNではエンドエンドでQoSを保証する仕組みが標準化されているため、NGN 内での通信においてはQoSの使用が当たり前になると期待されています。

(自宅でのインターネット接続を考えたとき...)
アプリケーションによって異なると思うが、通信で要求されるQoSレベルは何msのような目安について教えてほしい。
例えば、電話なら100ms、ストリーミングなら数百ms、等々のように。

ITU-Tや3GPPでのQoSクラス分類に基くと、高品質での音声会話では、遅延が100ms程度でゆらぎが50ms程度、ストリーミングでは遅延が400ms程度でゆらぎが50ms程度、低品質のストリーミングでは遅延が1s程度とされています。

QoSでの「公平性」は人間から感じる「公平性/満足度」と直接的な関係はあるのでしょうか?
例えば、「みんなが(公平に)使いものにならない」
「ある時は完全に使えないが、使えるときは満足」
というような2つの場合の比較などがあるが、これは理論的にはどのようなスケジューリングに対応するのでしょうか。

人間から感じる満足度の目安として、QoSとは別にQoE (Quality of Experience)という概念が提唱されています。QoEでは、ユーザが知覚するサービス品質を直接定量化するのに対し、QoSはネットワーク自体の品質を示す指標とされています。 QoSとQoEとの関連性についていろいろ研究が行われており、両者には強い相関があると考えられていますが、同レベル のQoS条件であってもユーザによってQoE評価が変わってくる場合もあります。また理論的なスケジューリングとの対応についてですが、優先度という概念を持たないFIFO方式では、キュー長が長くなるとどのフローに対しても大きな遅延が発生します。WFQ方式では、各フローに対して優先度を設定しつつも、資源を公平に配分することで低優先フローに対しても一定のサービスを提供することができます。

①設計で言及された「統計的多重効果」をもとにした試算の具体的な算出方法/内容について教えてほしい。
②今のインターネットが、今後M2M(Machine-to-Machine)の通信量が多くを占める形になると、トラヒックパターンはまったく別の形になるのでしょうか?それともネットワークの本質的にこのようなパターンになっているのでしょうか?

統計的多重効果に考慮してより正確に必要帯域を計算する様々な方法が研究されております。その例として、大偏差近似と呼ばれる近似方法が挙げられますが、本講座で扱う内容の範囲を超えるため割愛させていただきます。
ネットワークのトラヒックパターンは、通信データのバースト性やTCPのフィードバックメカニズムの影響を受けるため、M2Mによる通信量が増えたとしても、これらの性質が変わらない限りトラヒックパターンも変化しないものと考えられます。

「LTE」以降の通信方式の進化方向は?

LTEの進化系として第4世代携帯通信方式が世界的に研究されています。基本的にはLTEの通信方式を踏襲しつつ、無線LANやWiMaxなどで培われた通信方式も取り入れる可能性があります。また、LTEより高い周波数帯域を使用することで1Gbps以 上の通信速度を達成します。

CS(Class Selector)とは何ですか?
輻輳ウィンドウとは何ですか?
また、なぜTCPはパケットがロスした場合、輻輳ウィンドウの閾値を半分にするのですか?

Class Selectorとは、従来から定義されていたIPヘッダのTOSフィールド値との互換性を保つために定義されたDiffServのクラスであります。
輻輳ウィンドウとは、一度にまとめて送信することができるセグメント数のことで、ネットワークの輻輳状態や、送受信ノード内のバッファサイズによって値が決まります。
輻輳ウィンドウの閾値とは、スロースタートと輻輳回避アルゴリズムを切り替える閾値のことで、経験上、輻輳ウィン ドウの半分までのトラヒック量ならば輻輳状態にならない可能性が高いため、タイムアウトの後に輻輳ウィンドウの閾値を半分に設定します。

シート 9左上:north/southの意味?

north : 北行きの回線 south : 南行きの回線

ネットワークトラヒックの例のグラフでNorthとSouthは何ですか?
長期依存性とベビーテールで長い時間間隔で強い相関とあるがどんな関係があるのか?

north : 北行きの回線 south : 南行きの回線
長い時間間隔での強い相関とは、ある時間スケール(例えばミリ秒単位)で観測したトラヒックと、より長い時間スケール(例えば秒単位)で観測したトラヒックが似たようなグラフ傾向になるという意味です。

「品質のグラフ表現」において到着曲線やサービス曲線は、なぜこのような曲線になるのですか?

図に使った曲線はあくまでも例ですが、一般的にどちらの曲線も右上がりのものであり、かつサービス曲線がいつも到着曲線より上にならないようになっています。その間の縦方向の差がルーターなどにおける待ちパケットの長さ、横方向の差が遅延時間になります。

プロセッサの共有とは何がプロセッサを共有しているのですか?
サービス品質要求をもとに必要な帯域はどうやって算出(計算)するのですか?
フローの集合とは何ですか?

プロセッサ共有とは、各入力フローに対して何らかの重み付けを行うことで差別化を実現しつつも、公平な資源配分を行うことで高優先フローが資源を独占しないようにスケジューリングする方式です。
アプリケーションによって、要求する品質レベル(信頼性、遅延耐性、ジッタ耐性、データ量)が異なってくるため、これらの性質(+ユーザ数)をもとに必要な帯域や通信機器の性能などを算出します。
実際のネットワークでは、数多くのユーザやアプリケーションが存在し、それぞれが同じネットワーク回線を利用して通信を行っています。そのため、ネットワーク内には多数のフローが集まることになります。

TCPの輻輳回避アルゴリズムにおいて、パケットの紛失が起こると再び1からスロースタートするのはなぜですか?1からではなく、紛失が発生する直前のセグメント数に戻すのではだめなのでしょうか。
1からスロースタートするローテーとタイミングが他の通信と重なった場合に、帯域の無駄が発生するのではないでしょうか。

輻輳状態から回復するまでには非常に時間がかかるため、再度輻輳状態を引き起こさないようにするために再度スロースタートを行います。しかし、最近のTCPには即時輻輳回避アルゴリズムが実装されており、再スタート時におけるウィンドウサイズをパケットロスした時の半分の値に設定することで、軽い輻輳状態でも効率な通信を行うことができるように工夫されています。

shimin 2009-qa_5 page2584

注目コンテンツ / SPECIAL