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平成20年度 第1回 Q&A

第1回 2008年6月5日(木)

画像情報と電子透かし
--インターネットで画像や映像の権利を保護するための技術とは?--

越前 功(国立情報学研究所 情報社会相関研究系 教授/所長補佐/主幹)

講演当日に頂いたご質問への回答(全18件)

※回答が可能な質問のみ掲載しています。

標準化動向?

過去には、DVD機器のコピー防止技術として全米映画協会、コンピュータ業界、家電業界の間で電子透かしの標準適用が検討されたことがあります。最終的にDVD機器への適用は見送られましたが、今後もデジタル機器への標準適用が検討される可能性はあります。

電子透かしは、動画や音楽データはどうなるのですか?

電子透かしは、静止画像だけではなく、動画や音楽といったデジタルコンテンツへも適用が可能です。

文化を育成するには、クリエイターとその受け手が大事だと思います。著作権に関する受け手に対する教育はどのように考えていますか?
あまりガチガチに規制すると文化を作る受け手が萎縮しませんか?

今後は、コンテンツの受け手である私たちがコンテンツを創り、発信するケースが増えてきます。もし、自分が時間をかけて創り上げたコンテンツが勝手に改変され、他人のサイトで販売されていたら、どう思うでしょうか?著作権に関する教育は、将来創り手となる可能性のある受け手側にとっても大事なことであると考えています。

電子透かしに対する耐性の評価方法は確立しているのでしょうか?

電子透かしに求められる性能(画質、耐性、検出精度等)は、適用先によって様々なため、確立された評価方法はありませんが、動画透かしを対象とした評価方法のガイドラインが下記より提案されております。[1]電子透かし技術の評価手法の標準化に関する調査研究報告書(原案)、(財)デジタルコンテンツ協会、http://www.dcaj.org/report/sukashi/sukashi.pdf

電子透かしについて調査・研究のために資料を探しています。H13年度電子情報技術産業協会「電子透かし技術に関する調査報告書」など技術調査の資料が古いものばかりですが、新しい技術について調査報告書などの資料はありますか?

残念ながら一般に入手可能な電子透かしの包括的な技術調査報告書は、挙げられました資料が最も新しいものになります。当該資料より、少し後に電子透かしの特許マップが下記よりでておりますが、これも最新の技術を取り上げたものではありません。
[2](独)工業所有権情報・研修館 流通部(編)、特許流通支援チャート、平成14年度「電子透かし技術」、
http://www.ryutu.inpit.go.jp/chart/H14/denki12/frame.htm

PC上で閲覧する画像データはともかくとして、音楽や動画などの動的なデータやメモリの少ない携帯電話などの小型機器では、処理のシンプルさや処理速度の向上も重要ではないか? 埋め込み精度と処理速度のトレードオフ解消のような技術的課題もあるのではないでしょうか? こういう方面の技術の現状はどうなっていますか?

携帯端末での適用を想定した場合、電子透かし埋め込み・検出時の処理速度の向上や消費電力の低減が重要な課題になります。また、映像配信サービス分野においても、リアルタイムでの埋め込みが重要になります。電子透かし埋め込み処理では、埋め込み強度の分析精度と処理量が処理速度とトレードオフになりますし、検出処理では、幾何変形の探索範囲・精度と処理速度とトレードオフになります。最近の技術では、カメラ付き携帯電話を用いて文書や写真に埋め込まれた電子透かし情報を2秒未満で検出できる方式が提案されています。また、PC上のソフトウェアで動画コンテンツにリアルタイムに電子透かし情報を埋め込み可能なシステムも提案されています。

(1)管理IDはどこで管理(発行)するのですか?
(2)画面または紙面のどこでも読み取りできるのですか?

(1)については、IDの発行・無効化を管理するID管理センターなどが必要です。ID管理センターは、電子透かしのベンダーによって運営される場合もあれば、別組織によって運営する場合もあります。
(2)については、一定面積以上あれば、原理的には画面・紙面のどこからでも情報の検出は可能ですが、画像や紙面内容(極端に平坦な領域や文字が全くない白紙の領域など)によっては情報が埋め込めず、情報の検出ができないこともあります。

アナログ機器(例:フィルムカメラ)を利用した不正コピーにも電子透かしは有効でしょうか?

電子透かしは原理的にD/A-A/D変換耐性をもっておりますので、フィルムスキャナなどで撮影した写真をデジタル情報に変換すれば情報の検出は可能です。

「監査機関」によるチェックが欠かせないとなると、「不正コピー」自体を防ぐことは出来ないのでは?

講義でご説明しましたように、電子透かしは、不正コピーの抑止に主眼が置かれた技術です。コピー制御情報などを埋め込むことでコンテンツの不正なコピー防止する方法もありますが、この場合は、関連機器全てに電子透かしの検出機能を組み込む必要があります。

(1)電子透かしは具体的にはどのような技術なのですか?
(2)コンテンツ管理として課金に利用できるとのことですが、バーコードの代わりに使うという意味ですか? それとも別な使われ方があるのですか?

(1)画像電子透かしについて身近な例を用いて説明しますと、QRコードのような特殊なパターンを人間の目に知覚しにくいように画像上にまんべんなく埋め込み、検出する技術に近いかと思います。詳細は下記文献や電子透かしに関する文献がございますのでこちらをご参照ください。
(2)仰るとおり、この場合はバーコードの代わりに使うことを想定しております。

オリジナルに暗号を埋め込むこと自体が「著作物」に加工を加えることであり、著作者人格権(加工されないオリジナルを保つ権利)に抵触することにならないでしょうか?

電子透かしの埋め込みにあたっては、権利者に加工の了承をとることが一般的です。実際に埋め込み後のコンテンツ品質を権利者がチェックすることもあります。

「方式」と「鍵」に透かしを分けることは数学的に可能なのですか? どうも不可能に思えますが...。

ShannonのPerfect cover

金属への透かしの目的が分かりません。

金属やプラスチックへの電子透かしは、成型部品の流通管理として一部で実用化が始まっている技術です。ICチップに比べて熱や汚れに強いという利点があります。

用途、ニーズがあるのは分かりますが、実際に不正コピーを見つけたというような代表的な事例はありますか?

米国の著名な映画賞の審査員に公開前に配布される映画には電子透かしが埋め込まれており、不正にインターネットにアップロードした関係者を特定し起訴したという例があります。日本でも電子透かしが埋め込まれているWebサイト上のアイドルの写真を不正にCD-Rに複製・販売した人を特定し送検した例があります。

コピーの劣化が激しくても透かしは残るのですか?

電子透かしの埋め込み強度に依存します。電子透かし埋め込みによる画質劣化とメディア処理への耐性向上はトレードオフの関係にありますので、透かし埋め込みによる画質劣化を許容すれば、コピーを複数回経ても透かしが残る可能性があります。

電子透かしの原理は未公開とのことでした。ではどうやって他者の不正コピーを実証して(社会に)説得できますか?

例えばソフトウェアを例にとるとソースコードが未公開でも一般的に利用されている技術的手段は数多くあり、我々はその処理結果を信頼して業務や手続きに用いています。今後は、電子透かしも一般的に認知され、信頼される技術的手段として扱われると思います。

画像に対する「電子透かし」等の技術を一般の人も使えるようになるのにはどれくらいかかるのでしょうか? 時期の問題として、もうすぐ使用できるのでしょうか? 個人ブログなどに写真を掲載した場合などにも使用できる技術として一般化されるのでしょうか?

講義でご説明しましたように、現状コンテンツホルダー側では、実サービスが始まっておりますが、デジタルカメラや携帯端末などの普及や編集ソフトの低価格化により、数年後には、個人ユーザによるリッチコンテンツ配信が活発になると思います。そのような個人ユーザ向けの電子透かし製品展開も同時に行われると考えております。

(1)電子透かしを取り入れる際のデメリットはないのですか?
(2)[スライド22]ウェブサイトの巡回とあるが、実際にそれは可能なのですか?
(3)[スライド16]著作権A→購入者B この段階で他の人にコピーされると、Bも被害者になりえる。それは考えられることだと思いますが、対処のしようはあるのでしょうか?

(1)電子透かしは、ヘッダやフッタへの情報付加とは違い、コンテンツのデータ値を直接変更して情報をうめこむので、コンテンツの品質に影響がでる可能性があります。権利者にはこの影響を理解頂く必要があります。
(2)現在、いくつかの巡回サービスが実際に運用されています。
(3)この場合、配布先IDをユーザ側の受信器で埋め込むことで対処可能と思います。

shimin 2008-qa_1 page2590

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