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平成19年度 第5回 Q&A

第5回 2007年10月10日(水)

経済学とネットワーク
--経済現象はネットワークの視点からどう見えるか?--

上田 昌史(国立情報学研究所 情報社会相関研究系)

講演当日に頂いたご質問への回答(全11件)

※回答が可能な質問のみ掲載しています。

エスカレータを右に並ぶ関西の人に言わせると、右に並ぶ方が世界基準だと言っていました(時々東京の人が来て乱してしまうそうです)。では「エスカレータ問題の標準化」はどちらに進むと考えられますか?

該当市場が国内と国際に分断されていると仮定すると、国内では、人口と影響力の大きい東京標準がじわじわデファクトを占めると考えるのが妥当でしょう。一方、国際的には右側がすでにデファクトとなっているので、エスカレータの標準化競争で日本は取り残されるという推論が成り立ちます。

経済を取引関係のネットワークで捉えると、そのネットワーク内での損失、利益はどう表現しているのか?
一般的な利益を生む、付加価値で計るやり方と違う結果が出てくるのだろうか?

まさに、どこまで外部性を内部化できるかという問題です。
モデルに依存するかと思いますが、一般的に、会計学では、不確実な利益は計上せず、損失の可能性は記載するという保守的な方法論を採ります。しかし、外部性の構造を理解して計測可能になれば、今まではうまく把握できなかった外部要因が利益・損失ともにより正確に把握することが可能となります。

本当に光(ファイバー)が「究極のブロードバンド」と(今のところ)思われているのですか? 2.囲い込みからのがれるための理論あるいは方法は?

1.いまのところ、固定系アクセス網で、光ファイバよりも速い伝送方式の商用化のめどが立っていないされていないからです。
2.常に互換性やアダプタの提供を求めること、あるいは投資を分散させることだと思います。ただ、囲い込まれていても、他に選択肢がある場合(潜在的競争圧力がある場合)、乗換費用は誰かが負担してくれる可能性が高まりますので、さほど心配しなくてもいいかもしれません。

1.社保庁の年金問題は解決されますか?
2.公共政策を研究されておられますが、政治や行政のモデル・倫理の低下というのは、経済学で解決されますでしょうか?

1.年金は、単年度会計と基金の組み合わせなので、根本的な問題点は今議論されている年度会計の方ではなく、基金の運用状況です。運用実績が1%変わるだけで大きな変化です。
2.シカゴ大学のベッカー教授が「犯罪の経済学」という考え方を提唱しました。これによると、「信賞必罰」を徹底すればいいというのですが、味気ないですね。社会規範は、教育、法制度、市場等広範な社会インフラの上に形成されるものですから、問題は簡単ではありませんね。

事実とのデファクトスタンダードであるWindowsの新しく出したVistaはXPとの下位互換性が不十分であり、しかもXPのサポートが近々終了という。
XP上に多大な資金とマンパワーを投じて来た状態であるから、社会にとって大きな損失であり、ITの普及発展の重大な障害ではないか。国あるいは国際的な組織によって少なくともOSの下位互換性を強制することは出来ないでしょうか?

MSは株式公開をした民間企業なので、独占禁止法や不正競争防止法等の競争法や該当する業法等に違反しない限りは「要求」はできてもその要求を「強制」することはできません。
ですので、欧州等では,セキュリティ上の理由もあって、公共利用のコンピュータに、プログラムの中身が公開されているLINUXを積極的に採用する動きがあります。日本でも経済産業省の一部でKNOPPIXというLINUXの一種を日本語化して使用、開発しています。

類似品の商品で形成される関係ネットワークは当然違ってくるが、どこを狙って開発行為をするのが効果的なのか? その方法論はあるのか?

類似品市場のネットワークの大小および類似度合いによって戦略が変わってくると思います。具体的な方法論は、経営学の議論を参照してください。

規模が大きくなくても、ニーズがあれば、経済的に成り立つLong tail理論は経済学的にどう説明するのか。また独禁法とは関係あるのか?

Long tailは、経済学の従来の言い方だと、「ニッチ市場」というものです。
ニッチ市場では、当初市場規模が小さいので、競争者が少ないため、独占利潤が得られます。しかも、インターネットを通じて世界中と取引が可能となったら、ニッチに特化することは大きな利潤機会を得ることとなります。しかし、もし、それだけ利益を生み出す市場があれば、みんな指をくわえて見rていることはありません。そのうち、たくさんの競争者が参入して競争市場となり、囲い込んだ固定客を持つか、常にビジネスイノベーションを繰り返していない限り、先行者の利益は早晩失われるでしょう。

従来のIP電話では、119につながらなかったが、KDDIのIP電話では固定電話と同じにすべての番号につながります。どうしてですか?

IP電話には2種類あって、050から始まるものと、光ファイバやケーブルテレビを前提とした0ABJとがあります。KDDIのサービスは地区によっては双方提供されているかと思います。0ABJのサービスでは、固定電話と同等機能を提供するように要請しています。ですので、時前で、関連データベースを持ち、各種緊急通報に対応しています。

今日の話とは直接関係ありませんが、経済現象について。こんなにコンピューターが高度化したのに、経済予測がほとんどアテにならないのは、どうしてですか?手計算とカンで行った予測の方が方向性としては正しい答えを出していたように思います。

かつて、1960年代に経済計算論争というものがありました。経済現象すべてを盛り込んだモデルを作って、計算機で処理してしまえば、完全な「計画経済」は可能ではないかというものです。しかし、当時のモデルで1年分の計画を立てるのに計算に30年かかるということで、合理的ではないという結果で論争が終結しました。
モデルも経済現象も当時と比べると比較にならないくらい複雑化しているので、状況はコンピュータの進化があったとしても、そう変わらないかと思います。もし、可能なら、再度「計画経済」を志向する国家が現れても不思議ではありませんが、現実は逆の方向(より市場の分散処理に任せようとする方向)に向かっているようです。
この議論とは別に、正確な経済予測モデルには、理論の精緻化が必要です。現在、日本や多くのOECD加盟国では、計画経済のように、毎年、多くの変数を勘案して「国民経済計算の体系」という行列式を解いて経済政策の参考にするのですが、先ほどの計算時間の問題があるので、不確定要素や外部要因を十分には取り込んではおらず、比較的内部に閉じたモデルを用いているので、ちょっとした外生要因の変動があると、予測が外れることがあります。不測の事態を正確に言い当てるという話に関しては、確率方程式は、勘と経験にはかわないかもしれません。

大きな資本を投下して打ち立てた事業は新技術の登場で次々と破壊される。固定電話はIP電話にとって替わりつつある。インターネットの次に来る技術は何か?

それは、「メタインターネット」です。同義反復ですが。現在、巷で言われているWeb2.0という考え方は、それに近いでしょう。
電話網は、経営学の組織論で言われている「中央集権型(ヒエラルキー型)」、インターネットは同じ議論で言えば、「分散処理型」。「メタインターネット」はその双方のベストミックスで、「連携分散責任型」になって行くのではないかと予想しています。その際のキーワードが「インターオペラビリティ(相互連携運用性)」です。

御専門の「ネットワーク経済学」とは簡単、大まかに言うとどういう経済学か?
Ex. マルクス経済学、計量経済学とかと比較して

今回はあまり専門的な分析を紹介せず、研究の上澄みだけをご紹介しました。
まず分野ですが、ネットワーク経済学は、産業組織論あるいは公共経済学という分野に入っていて、産業組織論は応用経済学の一種です。方法論としては、ミクロ経済学、計量経済学、ゲーム理論を用います。また、制度設計という観点からは、取引費用論、制度派経済学の成果を利用していると言えましょう。

shimin 2007-qa_5 page2602

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