イベント / EVENT

平成30年度 第3回 リポート

コンピュータを使って美しい自然現象を表現する/市民講座「情報学最前線」第3回

 国立情報学研究所は9月13日、平成30年度 市民講座「情報学最前線」第3回を開催しました。今回は、コンテンツ科学研究系 安東 遼一助教が、「流体力学で描くデジタルアートの世界 -幸運をもたらすシーンのCG、美しさは数学?-」と題して講義しました。

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 安東助教は、コンピュータ・グラフィクス(CG)のための美しい映像を実現する数値流体力学の新しい計算手法の開発に取り組んでいます。それは、「自然の美しさをコンピュータを使って表現すること。理論だけで、自然現象を写真と見分けがつかないくらいに再現すること」と説明しました。自然現象の概念はある程度、微分方程式で記述することができるため、再現したい自然現象に対応する微分方程式を探し、それをコンピュータで計算すればさまざまな自然現象を表現することができます。微分方程式を解くためには、空間を格子(ブロック)に分割し微分方程式を格子で計算できるように数学的に変形を行い、その数式を計算できるコンピュータアルゴリズムを考案して計算し、計算結果を可視化します。安東助教は、「たった一行の方程式をコンピュータで解くだけで、現実感のあるアニメーションや映像を作り出すことができます」と述べました。

 安東助教は自身の研究の一つとして、マーブリング模様の生成に関する研究について説明しました。コンピュータは、マーブリングのような、なめらかな形を表現するのが難しいため、安東助教は、多角形を使い、頂点の数を増やして動かしていくことにより、たくさんの頂点でなめらかな曲線を表現するという手法を開発しました。また、マーブリングの線は決して交わることはないという特徴から、円を水の流れに合わせて少しずつ変形させ、円の中身を塗りつぶしていくと、輪郭を追うだけでマーブリングを描くことができることを紹介しました。一方で、マーブリングの形状が複雑になれば頂点が増え、計算時間が長くなってしまうため、複数の計算資源を活用して、計算を分散させたり、それぞれの計算資源の負荷が同じくらいになるように頂点をずらしたり追加したりして、計算を高速化する手法を開発したことも説明しました。

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 また、液体の薄膜をちぎれることなく表現する研究や、水の形状をもっと自然に再現する研究も紹介しました。水の形状を表現するためには、これまでに格子を使った手法、粒子を使った手法がありましたが、格子法を使うと水しぶきが足りなかったり、粒子法を使うとなめらかさが失われてしまったりと、それぞれに一長一短がありました。そこで安東助教は、水しぶきとなめらかな界面を同時に表現できる「両方の手法の良いところ取り」の手法を考案しました。全体に格子法を使って水の形状を計算し、水しぶきがあがっているところだけに粒子法を使うという手法で、格子法と粒子法の境目をなめらかにつなぎ、つなぎ目が目立たないようにしました。安東助教は、「形状がとがっている部分、流速が激しく変化している部分にはより多くの粒子を配置しました」と説明し、この手法を使ったリアルな水しぶきのCG映像を披露しました。

 参加した方からは「水の動きを格子法、粒子法という二つの手法を用いて表現するという細やかさがすごい」「流体の複雑な動きがたった一行の式で表わされているというのが印象的」「これらから研究が進むとさらにリアルなCGが出てくるのだろう」など、たくさんのご意見が寄せられ、安東助教が織りなす美しいデジタルアートの世界に関心を寄せていただけたようでした。

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 次回は、10月24日に、アーキテクチャ科学研究系 金子 めぐみ准教授が、「将来の無線アクセスネットワーク -今のままでは周波数が足りない!-」と題して講義します。たくさんのご参加をお待ちしております。

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