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平成21年度 第6回 Q&A

第6回 2009年12月14日(月)

物忘れがなくなる社会は実現するか?
生活を見守るライフログ

相原 健郎(国立情報学研究所 コンテンツ科学研究系 准教授)

講演当日に頂いたご質問への回答(全24件)

※回答が可能な質問のみ掲載しています。

(一般的に&研究として)
どこまでを自分の情報と呼ぶのでしょうか?(p.6)
ブログで、友人の事、家族の事を書く人が多いと思いますが、友人や家族のプライバシーは、書き手の利便性とトレードされるのが現実ということでしょうか。友人や家族に許可をとってブログに記事を書いたり、ツイッターしたりしていないと思うのですが。

個人情報とプライバシ情報は別のものと見なされます。個人情報は個人を特定できる情報で、いわゆる個人情報保護法で定義され保護の対象となっているものと考えられます。
一方、プライバシ情報は、例えば「自分の後ろ姿が映った写真」や「自宅のあるエリア」など、かりにそれがわかっても個人が特定できない場合であっても、当人が人に知られたくない、見られたくないと考える情報は全てプライバシ情報と言えるかと思います。したがって、プライバシ情報は人によってその範囲が異なるものだと言えるでしょう。ブログで友人などのことに触れる場合には、その友人がそのこと書かれて(公開されて)どう思うか(プライバシを侵害されると思うか)を配慮するようにされるのが良いでしょう。

p.15 映像を"同じ時間かけて見返す"の便法として、ex.音付き倍速再生等(DPS)等技術の普及が有効と思われるが、具体的技術製品があれば紹介されたい。

いわゆる早回し、早送りなどの技術で短い時間で映像等を確認する方法はあると思いますが、情報爆発の時代と行ってもそこで生活する人間自身の情報処理能力は本質的に以前と変わっていませんので、これまでの生活であまり行ってこなかった過去分の情報を見返すという作業を生活の中で無理なく行えるようにするための革新的な技術は、今のところまだないと考えています。
テキストの要点を抽出し要約する技術、視覚的な特徴量から映像や映像に自動的に索引を付けて検索できるようにする技術などはいくつかあります。

FTC(米国)に対し、日本の個人情報保護法や日米以外の法律は、どんな違いがありますか?

法律や制度面での詳細については、その専門の先生にお答え頂くのが良いと考えますが、日本の個人情報保護法は国際的な標準に従う形で制定されたと理解しています。ただ、聞いたところでは、海外特に欧米諸国では,個人情報は「活用する」という方向で考える(その中で保護しなければいけない部分を保護する)のに対し、日本では「保護一辺倒」という傾向が現状では見られているという面もあるようです。
この件については、一橋大学名誉教授の堀部政男先生のお話が興味深かったです。

ブログの普及にともなって、グーグル等で情報を検索するときに、正確さの疑わしい、内容のないデータがブログの形で出てくることが多くなった。
検索に時間がかかるようになっていますか?
不要なブログをデータから取り除けませんか?

検索結果の上位にランクされることを目的に、勝手によそのブログ記事を取得してつなぎ合わせて生成されたブログ記事が存在し、スプログなどと呼ばれています。
このような、元になるブログ記事を集めて自動的に生成されたスプログについては、これを検知する技術についてはいくつか提案がなされており、一部では試用されていると思います。
もう少し難易度が高いレベルの処理が必要となること、例えば「書かれていることに内容がない」「不要だ」というのを内容から自動的に判別するための技術については、まだ実用レベルにはなっていないものと思います。

ログとコンテンツとは同義語ですか?
コンピュータの中に入っているコンテンツをログというのでしょうか?

端的に言うと、ログとは記録のこと、コンテンツとは各種のデータのことです。ログは、従来それ自体を見るという目的で記録されてきたわけではないと思われますが、近年はブログやライフログなどの「ログ」も登場してきたため、ログも見るためのコンテンツの一種とみなしても良いでしょう。

コメント
logが丸太→航海日誌→コンピュータの運行記録にどのように変ったかを説明した方がよい。

英語の語義の範疇の話になるので、英語学や文学等の専門家に確認しないと意味の変遷・拡張の経緯については不明です。
講座では、現在の英和辞典の意味として示されているものとして引用させて頂きました。

物忘れがなくなる社会は実現するか→むしろ、トラブルが発生、メールではディスコミュニケーションが多発する、個人情報は多次元→どうするか?
・だれが「氏名」
・いつ「時」
・どこで「場所」
・何を「ことば」
だけでは無理。個人の環境。アフォーダンス?
社会的・住所(ローカル)
歴史・歴史(出身地・学校・先祖)

コミュニケーションが多様化し、以前は「その場」でしか存在しなかったコンテンツがずっと蓄積されていく状況になってきたのに対し、それを処理する人間自身の能力は変わっていないため、情報におぼれるような状況になっていることが問題であると思います。
過去のデータや個人への情報の入出力をいかに効率的に、かつ、効果的に整理整頓できるのかが重要となっており、情報系の研究の多くは正にこの部分をいろいろなアプローチから取り組んでいるというふうに見ることもできると思います。個人的には、情報の中身だけではなく付随する多様なコンテキスト情報をいかに多く、網羅的に収集できるのかが重要だと考えています。

LinkedInが「目安」とされるという話があったが、ライフログが逆に「改良」されたものを記録するような悪用も遠いことではないように感じる。ライフログの真正性などの管理はどのように取り組まれているのか?
(Googleに対してリンクスパムが行われる様に、ライフマイニング事業者にはダミー行動ログ、ダミー映像等を送り、スコアリング操作がなされるのではないか)本人確認で排除を行うと、プライバシーの問題も大きくなる。どうしたらよいのだろうか。

ライフログの真正性を考える場合には、それを収集・蓄積するプラットフォームや通信のセキュリティ、運用業者の保証など、関係する部分を1つずつクリアにしていくことになるかと思います。

ログ収集者(CP?)間でのデータやり取り(連携)で、より良いサービスが出来る(と思います)。が、制限や工夫、オープン化での動向を教えてください。

ログを収集する業者間でのデータ連携については、ユーザ自身が明確に許諾した範囲においてのみそれが可能となるため、現実にはなかなかスムーズに進んでいないというのが現状であると思います。
個人レベルのログを連携するのはハードルが高いですが、ユーザ群の行動傾向などの統計情報やパターンなどを抽出して、それでもって業者間で連携するということは実現可能だと思います。
携帯電話事業者などは、自らがログ収集およびログ管理の事業者になるべく競っているのだと思われ、連携というよりは囲い込みという側面が今のところ強く見られるかもしれません。

スライド6枚目 「何のために公開するか」の箇所で、アメリカでSNS(LinkedIn)に登録しないと就職活動があり得ない、という事情をもう少し詳しく教えてください。
LinkedInでは何がどう公開されるのか?
企業がなぜどのようにそれを評価するのか?

LinkedInは、基本的には求人求職の情報をやりとりするSNSだと考えれば良いと思います。
ここには、いわゆる個人の履歴書の情報が載せられていると考えて頂ければ良いでしょう。つまり、出身大学や職歴などが載せられており、またSNSですので、自分がどういう人とつながっているのかも見ることが可能となります。
これらの情報は基本的にユーザ間では公開され、他者のデータを見ることができます。LinkedInに出ているから就職できるということはない気がしますが、LinkedInにも出てない人はITリテラシなどを含めその程度の人だと見なされる傾向はひょっとするとあるのかもしれず、それが就職に不利に働くことはあるのかもしれません。

ぷらっとPlat@自由が丘はどんなマスコミに取り上げられたか?

NHKの朝のニュース「おはよう日本」で自由が丘での実験風景が中継されたのと、ネットニュースを中心に文字のメディアなどで取り上げられました。

この分野の米国での現状は?(日本がファーストランナーか?)

高機能な携帯電話の普及という点、都会では自動車よりは電車や歩行などでの移動が中心であるという点、プライバシ意識が非常に高い傾向があるという点など、日本にはいくつかの特徴があります。
米国や欧州では、個人から発信される情報が比較的オープンに扱われるという前提で進んでいて、情報を「共有する」という観点の取り組みをしばしば目にしますが、日本ではより個人に特化した取り組みにフォーカスが当たっていて、この方面では日本が進んでいると考えられます。日本の方が、より詳細に行動に関するセンサ情報などを取得していこうとする傾向があるように思われます。

無意識な行動がある有意義な価値を生み出すことがある。暗黙知と言われるものだが、これを掘り出す方法は既にあるのだろうか?

本人がその時点で重要だと認識していないことでも、後で見返すと重要だと改めて認識されるようなことはしばしば経験されると思います。放っておいても記憶からは想起されない(記憶した段階で重要視していなかったため)ことを、見方を変えて見せてあげることで新たな「気づき」を与える技術は、「創造性支援」や「発想支援」と呼ばれる研究の中にいくつか見られます。

Plat
pin@clip
各々の意味(語感)をお教えください。

「ぷらっとPlat」は「ぷらっとぷらっと」と呼びます。街中を散策する時の気分を表したものです。
「pin@clip」は「ぴなくり」と呼びます。自分のお気に入り情報を街中の好きな場所(@)に埋め込み(pinする)、また、他の人の埋め込んだpinを取得する(clipする)というサービスイメージから、pin@clipと名付けられました。

ぷらっとPlat@自由が丘やpin@clipなど女性向けアプリケーションだと思うが、男性向け(おじさん向け)は無いのですか?あればご紹介していただきたい。

特に利用者の性別や年代を意識してはいません。実際、現在進めているpin@clipの実証実験の一般参加の利用者の多くは男性です。

先生のお話にあったように、「活用」は重要だと思うのですが、なかなか受け入れられるユースケースが出て来ていない様な感じがします。キラーとなる様な活用法が出て来る為のブレークスルーを起こすには何が必要だと思われますか?

分かり易いのは、やはり安全(防犯)、安心、健康などの面でのサービスでの活用になるかと思います。個人的には、情報過多な日常生活を手軽に整理整頓できるようにするために活用できると、ログを収集・蓄積する意味が出てくると思っています。例えば、不要なものを有効にフィルタできるとだいぶ日常生活がすっきりするのですが、それには何が「不要」なのかをシステムが判別できる必要があり、それを実現するにはひとつ深いレベルでの人間の認知モデルの解明と、学習データとしての蓄積されたログが必要なのではないか(少なくともログがなければ学習はできない)と思っています。

情報発生側にもたらされるユーザーの行動情報「履歴」やコメントにいわゆる"サクラ"や"八百長"の介入、判別を防ぐ必要はないのか?

現状では、ある程度ヒューリスティックを導入して排除するしか手はないかと思います。
行動履歴については、あくまでも本当にそこを訪れたのであればそれを無かったことにするというのは逆の意味で問題がありますが、その行動にどれだけの意味を与えるかについては、我々の研究では、その他の行動やその人の他からの評価などを元に「信用性」や「専門性」などの「信憑性」を算出して考慮するモデルを提案しています。

iPhoneに、pin@clip対応のソフトはインストールされていますか?

購入した状態ではインストールはされていません。iPhoneにプレインストールされているApp Storeというアプリケーションを使うと、pin@clipをダウンロードインストールすることが可能です。

消費生活をとりあげての説明はよくわかりました。
生活は消費だけではないので、政治、経済、社会について知るにはどうしたらいいのか(ピアノの練習ばかりで大人になった人に対してどう利用したらいいのか)。

消費活動が実際の行動として観察されやすいという側面があるため、現在の研究では主に消費者という観点で利用者を扱うサービスに取り組んできています。
政治や社会などについては、一般的な情報を届けるだけであればウェブでも足りる部分があるのと、信条や思想など、行動やコミュニケーションの捕捉からだけでは捉えるのがまだ難しい部分が多く含まれるため、将来的な課題であると思われます。

shimin 2009-qa_6 page2585

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