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平成20年度 第7回 Q&A

第7回 2009年1月19日(月)

言語情報とコンピュータ
--人間の文法とコンピュータの文法とは何が違うのか?--

金沢 誠(国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系 准教授)

講演当日に頂いたご質問への回答(全5件)

※回答が可能な質問のみ掲載しています。

スライドp. 20の2番目の例は誤りでは?

すみません。間違えました。

再帰プログラムと入れ子とはどんな関係がありますか?

再帰と入れ子とは深い関係があります。言語学においては、ある要素が別の要素の中にすっぽりおさまっている入れ子状の配置で、2つの要素が文法的に同じ種類の表現である場合(たとえば、2つとも節である場合)を「自己埋め込み」とか「再帰」と呼んでいます。この場合の「再帰」は必ずしも「再帰呼び出し」という意味ではありませんが、文法における再帰を構文解析における再帰呼び出しとして理解することも可能です。この考え方では、文法の規則を互いに呼び出し合う(相互再帰)手続きの形で表します。たとえば、A → B Cという規則は、Aという種類の表現を見つける手続きと見なされ、最初にBを見つける手続きを呼び出し、これが成功したら次にCを見つける手続きを呼び出す、という手続きと理解されます。このような手続きを実行するのが「再帰下降構文解析」と呼ばれる構文解析の手法です。

「最終呼び出し最適化」と理解しやすい語順との関係について説明してください。

最終呼び出し最適化とは、プログラムの実行の仕方の効率化の手法のひとつで、ある手続きAの最後の処理が他の(あるいは同じ)手続きBの呼び出しであるとき、呼び出された手続きBの処理が終了したときに手続きAに戻って処理を進めるのではなく、Aを呼び出した手続きに戻るようにすることです。こうすると、手続きBを呼び出したときに手続きAに戻るための情報を保持する必要がないのでメモリーの節約になります。この考え方は、文法の規則を相互再帰型の手続きの形で表す場合にも適用できます。一般に、文の入れ子の深さが増すにつれて理解が難しくなりますが、閉じるかっこが右端に集中している(1)のような構造(構文木が右へ右へと伸びて行くのでこのような構造は「右枝分かれ」と呼ばれます)は、最終呼び出し最適化によってあたかも(2)のような(閉じるかっこが少ない)構造であるかのように処理することができます。
 (1) [The dog saw the cat [that chased the rat [that ate the cheese]]]
 (2) [The dog was the cat [that chased the rat [that ate the cheese]
このような仕組みが、(3)のような、閉じるかっこが右端に集中していない「中央埋め込み」と呼ばれるタイプの文よりも、上のような「右枝分かれ」と呼ばれるタイプの文の方が理解が容易である理由のひとつであると考えられています。
 (3) [The rat [that the cat [that the dog saw] chased] ate the cheese]

話し言葉では、声の強さやアクセント、間の置き方などでかっこを作り出しているように思えますが、これらは研究対象にならないのですか?

抑揚(イントネーション)、強勢、音調、リズムなどは言語学で「韻律」と呼ばれますが、韻律と構造的に曖昧性な文の理解との関係は心理言語学で盛んに研究されています。

ワタボウシタマリンの実験とホシムクドリの実験は、具体的に どのような実験だったのでしょうか?

この二つの実験は手法が全く異なります。ワタボウシタマリンの実験は、繰り返しのパターンの音声刺激を与えるグループと入れ子のパターンの音声刺激を与えるグループに分け、それぞれが与えられた種類の音声刺激に馴化(ある刺激を繰り返し提示されるうちにその刺激に反応しなくなること)を示した後、新奇な刺激として、両方のパターンの音声刺激を提示します。このとき、繰り返しのパターンに馴化したグループは入れ子のパターンの新奇な刺激に対して大きな反応を示しましたが、入れ子のパターンに馴化したグループはどちらのタイプの刺激にも反応を示しませんでした。ホシムクドリの実験では、広く用いられているGO/NOGO型の能動的な弁別訓練により繰り返しのパターンと入れ子のパターンをそれぞれ学習させるという実験で、どちらのパターンも学習できるという結果が出ました。

shimin 2008-qa_7 page2597

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