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ニュースリリース

自然な音声を高速に合成可能な新手法を開発
~古典的手法にニューラルネットワークを導入したニューラル・ソースフィルター・モデル~

 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII、所長:喜連川 優、東京都千代田区)のコンテンツ科学研究系の特任研究員 シン ワン、特任助教 高木 信二(たかき・しんじ)、准教授 山岸 順一(やまぎし・じゅんいち)の研究チームは、高品質な音声を高速に合成する手法であるニューラル・ソースフィルター・モデル(以下、NSF法)を開発しました。この新手法は、1960年に発表された音声生成モデルを深層学習により発展させた新たな手法で、人間の肉声に近い高品質な音声波形を生成できるだけでなく、ニューラルネットワークの学習を安定して行えるのも特徴です。

背景

 従来、音声波形を合成する手法として、ボコーダ法と呼ばれる手法が提案され、携帯電話等で広く利用されてきました。しかし、合成された音声の品質は、人間の音声より品質が劣るものでした。2016年に海外の有力ICT企業(*1)が、深層学習(ディープラーニング)を駆使した音声合成手法WaveNet法を提案し、人間の肉声に近い高品質な音声波形が生成できることを示しました。しかし、WaveNet法は、非常に複雑な構造のニューラルネットワークのため、機械学習に大量の音声データが必要であること、また、正しい予測結果を得るためにはパラメータ調整など色々な試行錯誤を幾度も繰り返さなければならないなどの問題がありました。

研究概要と成果

 1960年代に発表されたソースフィルター・ボコーダ法(*2)は、ボコーダ法の最も有名なモデルとして広く活用されています。NIIの研究チームは、このソースフィルター・ボコーダ法にニューラルネットワークを導入することで、人間の肉声に近い高品質な音声波形を生成する新手法を開発しました。NSF法と名付けたこの手法は、ニューラルネットワークの機械学習のために必要な音声データが1時間程度でよいこと、簡易な構造のニューラルネットワークのため、パラメータ調整をしなくても正しい予測結果を得ることができるなどの特徴があります。また、大規模な検証からWaveNet法から生成された音声と同等に高品質であることが示されました。

今後の展望 

 NSF法は、海外の有力ICT企業の特許技術とは異なる理論による手法であることから、NSF法を活用することにより音声合成の新たな技術開発が進むことが期待されます。そこでNSF法のソースコードを無償で公開し広く利用できるようにしました。
今回の評価に使った機械学習データのサンプル(ソースコード、学習済みのモデル)と、実際に合成された音声データのサンプル(日本語・英語)は、以下のページで公開しています。

*ソースコード
https://github.com/nii-yamagishilab/project-CURRENNT-public

*学習済みのモデル(これを実行すると英語の音声を生成することができます。)
https://github.com/nii-yamagishilab/project-CURRENNT-scripts

*音声サンプル(日本語・英語)
https://nii-yamagishilab.github.io/samples-nsf/index.html

山岸 順一准教授からのコメント:

 「NSF法により、音声インターフェースを利用する日本のAI企業に新たなビジネスチャンスがもたらされるのではと期待しています。この手法をリアルタイム音声合成エンジンとして多様なシステムにおいて利用できるようにしていきます。話者適応技術等も追加する予定です。」

 なお、以下のページで、人間の肉声、ソースフィルター・ボコーダ法を用いた音声、WaveNet法を用いた音声、NSF法を用いた音声を聞き比べていただくことができます。

https://youtu.be/yr_xMq1gxKY

研究プロジェクトについて

本研究成果は、科学技術振興機構CREST JPMJCR18A6および日本学術振興会 科研費16H06302, 16K16096, 17H04687, 18H04120, 18H04112, 18KT0051の助成を受けたものです。

論文タイトルと著者

  • タイトル:「Neural source-filter-based waveform model for statistical parametric speech synthesis」
  • 著者:Xin Wang、高木信二、山岸順一
  • 掲載誌:International Conference on Acoustics, Speech, and Signal Processing (ICASSP) 2019(投稿中)
  • 発表日:2018年10月30日(Arxiv掲載:https://arxiv.org/abs/1810.11946

ニュースリリース(PDF版)

自然な音声を高速に合成可能な新手法を開発
~古典的手法にニューラルネットワークを導入したニューラル・ソースフィルター・モデル~


(*1) Google傘下であるDeepMind社。囲碁人工知能「AlphaGo」を開発したことでも知られる。
(*2) 1960年にGunnar Fant博士が発表した音声生成モデル。音声生成のプロセスを、人間の声門などの音源(ソース)と 声道などの線形音響フィルタで近似している。
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