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医療ビッグデータ研究センターを新設/医療画像情報を収集するクラウド基盤を構築し、AIによる画像解析技術を開発

大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII、所長:喜連川 優、東京都千代田区)は12月25日に記者会見を開き、ネットワークやクラウド、セキュリティー、人工知能(AI)などの最先端情報技術の活用により医療分野の課題解決を推進する「医療ビッグデータ研究センター」(センター長:NIIコンテンツ科学研究系教授 佐藤 真一)を設置したことを発表しました。NIIは国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)の研究事業に採択された日本消化器内視鏡学会、日本病理学会、日本医学放射線学会の3学会とそれぞれ連携して研究開発を始めており、今後は本センターを基盤に、NIIが構築・運用する学術情報ネットワーク「SINET5」を活用した医療画像ビッグデータのクラウド基盤の構築やAI技術による医療画像解析の研究開発に取り組んでいきます。連携する医療分野の学会は今後増える予定です。

医療ビッグデータ研究センターが取り組む研究開発事業では、各学会の段階で匿名化された医療画像情報を安全な環境で収集し、研究者がクラウド上でデータ解析を行えるようにする「医療画像ビッグデータクラウド基盤」を構築します。大学や病院から各学会のサーバーへ、そして、各学会のサーバーから「医療画像ビッグデータクラウド基盤」への医療画像情報の安全な環境での転送には、全都道府県を100Gbpsの超高速回線で結んでいるSINET5(*1)と、SINET5が提供する強化された仮想プライベートネットワーク(VPN)の機能を活用します(図1)。そして、収集された医療画像ビッグデータを、機械学習と画像認識というAIの主要2領域を活用して解析する「AI解析」の技術を開発します。

本センターでは、日本消化器内視鏡学会、日本病理学会、日本医学放射線学会が収集し、匿名化した医療画像情報について、今年度中にデータ登録を開始することを目指しています(表1)。2018年度以降は、より多くの病院等の協力を得てデータ収集の規模を拡大していく予定です。

厚生労働省が普及に取り組む「科学的根拠に基づく医療」の実践には、ビッグデータやAIの高度な活用が求められます。NIIは情報学分野の国内唯一の学術総合研究所であり、同時に研究と並ぶ両輪の一つとしてSINETの構築・運用などの事業にも取り組む世界的にもまれな研究機関です。学術研究と事業の両面で得られた知見を生かし、日本の医療の質の向上に貢献できる研究開発を進めていきます。

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〈図1〉医療画像ビッグデータクラウド基盤のイメージ

目標登録症例数 研究協力病院数
日本消化器内視鏡学会 10,000 62
日本病理学会 110,000 23
日本医学放射線学会 20,000 6

〈表1〉2017年度のデータ登録症例数の目標

「医療ビッグデータ研究センター」はNIIの研究施設(*2)として11月1日付で設置されました。副センター長は原田 達也 東京大学大学院情報理工学系研究科教授(NII客員教授、理化学研究所革新知能統合研究センター医用機械知能チームチームリーダー)が務めます。NIIは11月1日付で「システム設計数理国際研究センター」も新設(*3)しており、NIIの研究施設は以下の「15」となりました。

  • 学術ネットワーク研究開発センター(2006年4月設置)
  • 先端ソフトウェア工学・国際研究センター(2008年1月設置)
  • 社会共有知研究センター(同)
  • 量子情報国際研究センター(2010年11月設置)
  • 知識コンテンツ科学研究センター(2012年4月設置)
  • サイバーフィジカル情報学国際研究センター(2012年10月設置)
  • ビッグデータ数理国際研究センター(同)
  • クラウド基盤研究開発センター(2015年4月設置)
  • データセット共同利用研究開発センター(同)
  • 金融スマートデータ研究センター(2016年2月設置)
  • コグニティブ・イノベーションセンター(同)
  • サイバーセキュリティー研究開発センター(2016年4月設置)
  • オープンサイエンス基盤研究センター(2017年4月設置)
  • システム設計数理国際研究センター(2017年11月設置)
  • 医療ビッグデータ研究センター(同)
【医療分野の3学会との連携】

日本消化器内視鏡学会、日本病理学会、日本医学放射線学会の3学会は2017年1月、AMEDの臨床研究等ICT基盤構築研究事業(2017年度より「臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究事業」)の「ICT技術や人工知能(AI)等による利活用を見据えた、診療画像等データベース基盤構築に関する研究」においてそれぞれ研究開発課題が採択されました。NIIは各学会から再委託を受けています。

同事業はAMEDの「医療のデジタル革命実現プロジェクト」の事業の一つです。日本の医療の質の向上や全国どこでも標準的な医療を受けられる均てん化(平均化)とともに、診療支援や日本発の医療技術の臨床開発に必要なエビデンスの提供のため、臨床研究などに関連した先端的な情報通信技術を有する機関等を中心に臨床研究などのICT基盤構築に関する研究を推進します。

各学会の研究開発課題とNIIが分担する研究課題、その目的と内容は以下の通りです。

《日本消化器内視鏡学会》

全国消化器内視鏡診療データベースと内視鏡画像融合による新たな統合型データベース構築に関する研究
NII分担研究課題「医療画像ビッグデータクラウド基盤構築」(AI画像解析技術を活用して医療画像ビッグデータを解析するための高性能クラウド基盤を開発・整備し、医療画像ビッグデータ解析技術の実現可能性を検証する)

《日本病理学会》

AI等の利活用を見据えた病理組織デジタル画像(WSI)の収集基盤整備と病理支援システム開発
NII分担研究課題「病理自動診断支援AIの検証」(P-WSIビッグデータから病理医の診断支援を行う人工知能システムの開発を行う)

《日本医学放射線学会》(九州大学を代表機関として採択)

画像診断ナショナルデータベース実現のための開発研究
NII分担研究課題「人工知能(A.I.)による画像診断支援システム開発」(収集したビッグデータを利活用できる基盤を開発する。A.I.活用のためのデータ分析基盤の整備を行い自動診断技術の利用可能性について検証する)

NIIは上記3学会に加え、今年9月に2017年度「臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究事業」に研究開発課題「次世代眼科医療を目指す、ICT/人工知能を活用した画像等データベースの基盤構築」が採択された日本眼科学会(筑波大学医学医療系眼科を代表機関として採択)とも連携に向けた協議を行っています。NIIの分担研究課題は「医療画像ビッグデータクラウド基盤構築」(眼科画像データとヒストリカルデータの収集とAIを用いた解析のためのビッグデータクラウド基盤を構築)となる予定です。

NII所長・喜連川 優(きつれがわ・まさる)のコメント
「日本医療研究開発機構の『臨床研究等ICT基盤構築研究事業』に採択された医療画像情報のITによる解析という研究の大きな一歩を踏み出す中で、NIIはIT基盤を支えるという役割を担っています。一番重要なポイントであるデータについては、NIIが構築・運用しているSINET5を利用することによって、膨大な画像情報を収集することができるようになります。同時に、ネットワークから入ってきたデータをクラウドで運用することも重要で、さらにそのシステム全体がセキュアな環境でなくてはなりません。NII ではネットワークもクラウドもセキュリティーも研究センターを運用しており、画像解析のチームと 一丸となることでこの研究事業をしっかりしたものとして実現していきます。これができるのは情報学全体を総合的に研究しているNIIならではと考えています。また、大学共同利用機関として様々な大学のパワーを結集することができる立場を活用して、本センターはNII以外の大学も参加するオールジャパンの態勢で臨みます」
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〈写真〉記者会見に参加した佐藤センター長、NIIの喜連川所長、AMEDの末松理事長、 日本消化器内視鏡学会の田中理事長特別補佐(左から)

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(*1)「SINET5」: NIIが構築・運用している学術情報ネットワーク(Science Information NETwork)。2016年4月に本格運用を開始したSINET5では全国のすべての都道府県を100Gbpsの超高速回線で結んだほか、日米回線も100Gbpsに高速化し、日欧回線も新設した。2016年度末現在で、国立大学86校すべてを含む全国の大学や研究機関など857機関が加入。
(*2)「研究施設」: 達成すべき目標が明確な研究課題に計画的に取り組む研究部門。「サービス・事業」「大型研究プロジェクト」「産官学連携」の3分野があり、本センターは「大型研究プロジェクト」。
(*3)「「システム設計数理国際研究センター」も新設」 12月25日付のNIIニュースリリース「『システム設計数理国際研究センター』を新設」参照。
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