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システム設計数理国際研究センターを新設/高品質・高効率な製品開発に向けて「形式手法」をものづくりへ更新

大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII、所長:喜連川 優、東京都千代田区)はこのほど、工業製品等の物理情報システムの動作原理を数理的に解明する先端的理論研究と実システムの設計支援手法を導出する実用研究などを推進する「システム設計数理国際研究センター」(センター長:NIIアーキテクチャ科学研究系准教授 蓮尾 一郎)を設置しました。蓮尾准教授は国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の「戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)」(*1)で研究総括に採択され、「JST ERATO蓮尾メタ数理システムデザインプロジェクト」を率いており、今後は本センターを基盤に同プロジェクトの研究活動を進め、ソフトウェア科学の成果をものづくり技術に導入して、工業製品開発の様々な側面を支援する手法・ツールの構築に取り組んでいきます。

今日、自動車などの工業製品は複雑になり、機能も高度になってきました。それに伴い、製品に対する製造者の社会的責任も増大しています。こうした中、「形式手法」と呼ばれる、ソフトウェア科学における数学を基盤としたシステム設計の技法を製造業の設計過程に適用することで、製品の品質や信頼性を効率的に向上させることが、学術的、産業的に重要なトレンドとなっています。

形式手法を自動車制御などの物理情報システムに適用するためには、従来はコンピューターによる計算を前提に扱ってきた「離散的要素」と、物理系の連続ダイナミクスや確率・時間などの「連続的要素」の両方を併せ持つような理論の拡張が必要になります。本センターでは、JST ERATO蓮尾メタ数理システムデザインプロジェクトを通じて、形式手法を拡張する過程そのものを「論理学」や「圏論」といった抽象数学の技法を駆使して解析します。そうすることによって高次(メタレベル)の理論を構築するという独自のアプローチをとり、形式手法の諸技法を一挙に拡張することを目指しています。

同時に、こうした理論研究の成果を産業界が実際に抱える課題に適用しようという応用志向も本センターの取り組みの大きな特徴です。理論的な研究の成果を制御理論や最適化理論を用いて具体化するとともに、機械学習などの実践的ソフトウェア工学手法を活用することで実用化を目指します。

産業応用は二つの具体的なアプローチで進めます。一つ目のアプローチでは、国内外の企業と協働し、実際の製品設計プロセスに対する形式手法の支援を行います。現実のプロセスに適用することで具体的、実践的な形式手法の効果を実証します。二つ目のアプローチは、将来の製品設計プロセスにおいて形式手法が果たすべき役割を追求していくというものです。ここではソフトウェアを中心にした先駆的な製品設計プロセスを実践しているカナダのウォータールー大学(University of Waterloo)の自動運転システム開発プロジェクトをテストベッド(試験用プラットフォーム)として形式手法の産業応用について研究を行います。

これらの取り組みにより、産業応用はもちろんのこと、現代数学の抽象化や一般化志向によってのみ獲得が可能な柔軟性を社会課題に応用するという、応用数学の新たな一類型を呈示することも目指しています。

「システム設計数理国際研究センター」はNIIの研究施設(*2)として11月1日付で設置されました。NIIは11月1日付で「医療ビッグデータ研究センター」も新設(*3)しており、両センターの設置により、NIIの研究施設は以下の「15」となりました。

  • 学術ネットワーク研究開発センター(2006年4月設置)
  • 先端ソフトウェア工学・国際研究センター(2008年1月設置)
  • 社会共有知研究センター(同)
  • 量子情報国際研究センター(2010年11月設置)
  • 知識コンテンツ科学研究センター(2012年4月設置)
  • サイバーフィジカル情報学国際研究センター(2012年10月設置)
  • ビッグデータ数理国際研究センター(同)
  • クラウド基盤研究開発センター(2015年4月設置)
  • データセット共同利用研究開発センター(同)
  • 金融スマートデータ研究センター(2016年2月設置)
  • コグニティブ・イノベーションセンター(同)
  • サイバーセキュリティー研究開発センター(2016年4月設置)
  • オープンサイエンス基盤研究センター(2017年4月設置)
  • システム設計数理国際研究センター(2017年11月設置)
  • 医療ビッグデータ研究センター(同)

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(*1)「戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)」: ERATO(Exploratory Research for Advanced Technology)は研究総括を務める研究者を選定し、そのリーダーシップのもとで独創性に富んだ探索型基礎研究を進める「人中心の研究システム」。JST ERATO蓮尾メタ数理システムデザインプロジェクトの研究期間は2016年10月から2022年3月まで。
(*2)「研究施設」: 達成すべき目標が明確な研究課題に計画的に取り組む研究部門。「サービス・事業」「大型研究プロジェクト」「産官学連携」の3分野があり、本センターは「大型研究プロジェクト」。
(*3)「『医療ビッグデータ研究センター』も新設」: 12月25日付のNIIニュースリリース「『医療ビッグデータ研究センター』を新設」参照。
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