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日欧間で速度131Gbpsのデータ転送に成功

大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII、所長:喜連川 優、東京都千代田区)は欧州の研究ネットワーク「GÉANT」(*1)と共同で、NIIが構築・運用している学術情報ネットワーク「SINET5」の100Gbpsの日米回線などを使って構築した日欧間のネットワークで大容量データの転送実験を行い、10テラバイト(TB)(*2)のデータを131Gbps(*3)の速度で転送することに成功しました。データ転送には、NIIが超高速データ転送用に開発したプロトコル「MMCFTP」(Massively Multi-Connection File Transfer Protocol)を使用しました。本実験は5月29日から6月2日までオーストリア・リンツで開催されたネットワーク分野の国際会議「TNC17」(*4)でのデモンストレーションに向けて実施しました。

素粒子物理学、核融合学、天文学などの先端科学技術分野では国際協力によって構築された巨大な実験装置などで得られたビッグデータを国境や地域を越えて転送・分析しており、大陸間の大容量高速データ転送技術の必要性が高まっています。今回の実験で多くの巨大実験装置が立地する欧州との間で131Gbpsという速度での転送に成功したことは、SINET5の100Gbps日米回線など世界中で導入・増強が進む広帯域回線の連携と、複数の回線を利用して大容量のデータを高速で転送できるプロトコルMMCTFPの組み合わせが、国際共同研究における日欧間ビックデータ共有の活発化・高度化に寄与できることを実証したものと考えられます。

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図 1 NII~GÉANTのネットワーク

実験期間は本年5月23日〜6月2日で、東京都千代田区のJGN(*5)アクセスポイントとロンドンのGÉANTデータセンターに送受信サーバーを設置し、その間をSINET5の日米回線などを利用して北米大陸を経由する二つの経路で結び、実証実験用のネットワークを構築しました(図1)。転送実験はネットワークの帯域を専有してではなく、他のトラフィックも流れている中で実施しました。

使用したMMCFTPは、データを転送する際に多数のTCPコネクションを同時に接続して、通信帯域を大幅に広げることができるファイル転送プロトコルです。従来の転送プロトコルは、今となっては低速なネットワークを前提に設計されていたので、例えば、遅延時間が4倍になると転送速度は4分の1になり、ネットワークの能力をフルに活用できない制約となっていました。しかし、MMCFTPは往復遅延時間の大きさ等のネットワーク条件に応じてTCPコネクションの数を自動調整するため、安定した超高速データ転送を実現できます。今回の実験は地理的に異なる二つのルートで日欧をつないで行われましたが、MMCFTPが実装している、一つのファイルを送るのに複数のネットワークを同時に使う機能(マルチホーム機能)により、計200Gbpsの回線帯域を利用したデータ転送が可能になりました。

この結果、「メモリー to メモリー(M2M)」(*6)と呼ばれる条件で実施した実験で、10TBのデータをロンドンから東京へ10分9秒で転送し、転送速度はグッドプット(*7)で131.4Gbpsを記録しました(表1、図2、図3)。

また、ディスクへのデータの読み書きが必要となる「ディスク to ディスク(D2D」」の条件では、約3TBのファイルを4分4秒で転送し、96.9Gbpsの転送速度を記録しました(表1)。この結果は、広域ネットワークで「ディスク to ディスク」の条件で行った転送実験におけるこれまでの最速記録と言われている米国中部-東部間での91Gbps(*8)を、転送速度、経路の距離共に上回りました。今回の転送速度のボトルネックはディスク書き込み性能と考えられ、今後のディスク性能の向上に伴い、転送速度の向上が期待できます。

メモリー to メモリー

発信地

受信地

速度

所要
時間

データ
サイズ

実験日時
(UTC)

東京

ロンドン

127,580.84 Mbps

10分
27秒

10TB

5月27日
08:59-09:10

ロンドン

東京

131,416.77 Mbps

10分
09秒

10TB

5月26日
08:35-08:46

ディスク to ディスク

発信地

受信地

速度

所要
時間

データ
サイズ

実験日時
(UTC)

東京

ロンドン

96,944.59 Mbps

4分
04秒

3TB

5月24日
12:03-12:07

ロンドン

東京

96,992.48 Mbps

4分
04秒

3TB

5月27日
14:36-14:40

表 1 日欧間の大容量データの転送実験結果

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図 2 転送実験のネットワークモニター結果(M2M:東京→ロンドン)

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図 3 転送実験のネットワークモニター結果(M2M:ロンドン→東京)

NIIは大学共同利用機関として、ビッグサイエンス時代に対応した学術情報基盤の整備に取り組んでいます。昨年4月から、全都道府県を100Gbpsでつなぎ、日米回線も100Gbps化したほか、欧州回線を新設したSINET5の運用を始めました。当初の予想を超えるトラフィック増に対応するため、400Gbps伝送技術の導入や国際回線の増強も検討中です。また、超高速データ転送に適したMMCFTPを開発し、平成28年(2016年)5月にはSINET5を模して構築した実証実験用の400Gbpsネットワーク環境で2対2のサーバー間での370Gbpsのデータ転送実験に成功しました(*9)。昨年11月の国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)との共同実験(*10)では日本と米国の間で1~10TBのデータを転送速度約150Gbpsで安定的に転送することに成功しています。NIIでは、MMCFTPを先端科学の発展のために提供し、実利用を通じて安定化と更なる高速化を図っていきます。

本実験結果については、6月8日の「NII学術情報基盤オープンフォーラム」で発表します。

【ネットワーク構成】

実験では、JGNの東京アクセスポイントとGÉANTのロンドンデータセンターに設置したデータ転送サーバーそれぞれに、100GE(ギガビットイーサネット)のネットワークインタフェースカードを2枚、アダプターを介して容量1TBのNVMe規格のSSDを8枚装備しました(図4)。

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図4 送受信サーバーの構成

実験ネットワーク(図5)は、SINET5とGÉANTネットワークに加え、以下の北米・欧州・日本の学術ネットワークの協力を得て構築しました。経路の長さは、東京-ロサンゼルス-ニューヨーク-ロンドンのルートで約1万8千キロになります。

  • ANA-300(欧米間の100Gbps回線3本を共同利用するコンソーシアム。今回の実験では、CANARIE、NORDUnet、SURFnetが共同管理するニューヨーク-モントリオール〈カナダ〉-アムステルダム〈オランダ〉間の100Gbps回線を利用)
  • CANARIE(カナダの学術ネットワーク)
  • Internet2(米国の学術ネットワーク)
  • JGN(NICTが運用する研究開発テストベッドネットワーク)
  • NEAAR(米インディアナ大学が運用するアフリカ諸国と欧州・米国を結ぶ学術国際回線)
  • NetherLight(SURFnetが運用するアムステルダムの学術ネットワークの相互接続点)
  • NORDUnet(北欧諸国を繋ぐ学術ネットワーク)
  • MANLAN(Internet2が運用するニューヨークの学術ネットワークの相互接続点)
  • Pacific Wave(米国西海岸の学術ネットワークの相互接続点)
  • SURFnet(オランダの学術ネットワーク)
  • TransPAC(インディアナ大学が運用する米国とアジアを結ぶ学術国際回線。日本-シアトル回線はPacific Waveとの共同運用)
  • WIDE(WIDEプロジェクトが運用する日本の学術研究ネットワーク)

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(*1)「GÉANT」: 欧州諸国を結ぶ欧州の学術ネットワークを運用する組織。ネットワークの研究や利活用の推進に向けての活動に相互に協力する国際交流協定(MoU)をNIIと締結している。
(*2)「テラバイト」: データ量などの単位。1テラバイト(TB)は1兆バイト(1,000ギガバイト)。
(*3)「Gbps」: データ伝送速度の単位。1Gbpsは毎秒10億ビットを伝送できるスピードで、1,000Mbps。
(*4)「TNC17」: GÉANTが主催するネットワーク分野の研究・教育に関する国際会議。
(*5)「JGN」: 国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)が運用する研究開発テストベッドネットワーク。
(*6)「メモリー to メモリー」: 送信機のメモリー上のデータを受信機のメモリーに書き込む性能を測る実験条件。ディスクからのデータ読み出し及びディスクへの書き込みを行わず、ディスク性能の制約を受けないため、通信プロトコルの性能測定に適している。
(*7)「グッドプット」: 再送やプロトコルヘッダ等、通信制御のためのオーバヘッドを除いた、アプリケーション間で実際にやりとりしたいデータのみに関するスループット(単位時間あたりに伝送されるデータ量)。
(*8)「米国中部-東部間での91Gbps」: 米航空宇宙局(NASA)のHigh End Computer Networking(HECN)チームが米コロラド州デンバーとメリーランド州グリーンベルトの間で記録。("NASA HECN Team Achieves Record Disk-to-Disk 91+ Gbps via ESnet"
(*9)平成28年(2016年)5月24日付ニュースリリース「370Gbpsでのデータ転送実験に成功/400Gbps技術の実用化へ道」参照。
(*10)平成28年(2016年)12月6日付NII・NICT共同ニュースリリース「世界最速の長距離データ転送に成功/ファイル転送プロトコルMMCFTPで転送速度150Gbpsを記録」参照。
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