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平成23年度 第3回 Q&A

第3回 2011年9月1日(木)

井戸端会議の中の構造とは?
コミュニケーションを科学する

坊農 真弓(国立情報学研究所 コンテンツ科学研究系 准教授)

講演当日に頂いたご質問への回答(全21件)

※回答が可能な質問のみ掲載しています。

同じく関西出身です(大阪)久しぶりに関西弁良かったです。"三本柱"の中に"状況"というのは入らないのでしょうか?例:放射線があふれている状況

フィールドはインタラクションが起こる「現場」という意味で用いています。例えば「手話コミュニティ」「同じマンションに住む人で構成されるコミュニティ」「関西コミュニティ」といった特定の現場をフィールドと呼びます。それに対して「状況」は動的なものです。刻々と変化するのが状況です。状況ごとにインタラクションを観察するのは大事なことだろうと思います。重要なご指摘ありがとうございます。

会話の中である人が発言することで場がしらけることがあります。 これはどのような状態なのでしょうか? 場がしらけない発言をするにはどのようなことに注意すればよいでしょうか?

確かに、「場がしらける」ことってよくありますよね。場がしらける原因はどこにあるでしょうか?例えば、その場で継続されている会話の連鎖に沿っていない、大きく逸脱する発言がなされたといった原因があると思います。場がしらけさせないため(=場を盛り上げるため)には、会話の連鎖に沿った発言をするといいのだろうと思います。

多民族社会での遺伝子の違いにより、コミュニケーションの成り立ちによる共通性はありうるか?

勉強不足で、遺伝子の研究はよく知らないのですが、民族ごとにコミュニケーションの成り立ちが違うということは、文化人類学といった分野で研究されています。それらの研究における議論は、遺伝子といった問題ではなく、その民族における社会や文化の問題に焦点があてられています。

(1)O、P、R空間のお話は直観に合い、かつ非常に明快でした。ところでこの考え方は他の種類の言語行為にも適用できないでしょうか? 例えば講義は一見とても一方的ですが、話し手の体の向きが聞き手の興味の度合いに影響したり、逆に聞き手の体勢が話し手のモチベーションに影響すると思います。O、P、R空間の考え方で説明はつかないでしょうか?(2)日本語と日本手話の文法の差は、音声言語の間の差以上の質的な差があるのですか?

(1) 聞き手の興味の度合いや話し手のモチベーションといったトピックは社会心理学分野でしばしば研究されているように思います。空間の話がこういった社会心理学分野の研究とどのくらい適合するかは今後調べてみると面白いかもしれません。(2)ご質問の「音声言語間の差」というのは英語と日本語の文法の差という理解をしました。日本語と日本手話では、伝達メディア(音声か手か)の違いがあります。マルチモーダルインタラクション研究では、この伝達メディアの質的な差に焦点を当てて研究を進めています。

コミュニケーションを拒否しようとする人とのコミュニケーションをどうすればよいのか?(例えば自閉症の人、六ヶ国協議を拒否する北朝鮮、一人でしゃべりまくる人、順番交替ルールを無視・拒否する人)

コミュニケーションを拒否する、コミュニケーションを拒否されるといったことが、どのように達成されるのかに焦点を当てて研究をしてみると何か解決策があるかもしれません。

音声会話の日本語と手話会話の日本語の同じ所、違う所を教えて下さい。

質問の意図を理解しきれていないかもしれませんが、音声会話では日本語が話されており、手話会話では日本手話が話されています。日本語と日本手話は文法体系が異なるそれぞれ独立した言語です。

会話の文化/社会/地域による差異について特徴的なことがあったら教えて下さい。例えば日本/中国/ヨーロッパ・・・の差異、東京/青森/・・・の差異、女/男/犬/ネコ/・・・の差異

日本の会話はあいづちが多いといわれます。一方欧米の言語の会話はそれほどあいづちが多くないといわれます。日本語の電話会話の冒頭部(もしもし)は、声が高くなるといわれていますが、中国語の電話会話の冒頭部は、声が低くなると論文で読んだことがあります。

"ひとり言"はどのような扱いになるのでしょうか? 話し手=自分 受け手=自分? なし?空間が受け手?O空間は?漫才のボケ、突っ込み、観客のO空間を考えてもおもしろそう(引き込む技術)

重要なご指摘です。「独り言」は受け手がないかもしれません。その場にいる人はその発話内容を聞くことができるということから、傍観者とするといいのかもしれません。漫才の空間の話はすでに私が編集した本(『多人数インタラクションの分析手法』)に掲載されていますので、ご覧ください。

順番交替システムの研究視野に ・コーチング(1対1) ・ファシリテーション(多対多) ・プレゼンテーション(1対多)のスキル向上は入っていますか?

順番交替システムには、「順番が交替される活動」が含まれています。2010年に出版された『会話分析基礎論集』(世界思想社)の冒頭に関連する記述が載っています。

いわゆるパーティーでも同じような構造分析ができているのでしょうか?

パーティは面白い研究対象になります。プレゼンで挙げたケンドンの仕事は、誕生日パーティのデータを使って進められました。1996年に出版された『コミュニケーションとしての身体 』(大修館書店)の中に論文の日本語訳が掲載されています。

手話学が専門分野の1つだとプロフィールにありますが、「日本手話」と「日本語対応手話」の違いは何ですか? 具体的に文法の並び方や表現方法など。 なぜそれぞれ分けて手話通訳士の養成を行わないのですか。 とても紛らわしいし、曖昧な表現方法になってしまうのではないですか。また、全国共通手話を学校で教え、その上で各地域性のある方言手話を教えたらどうでしょう。

日本手話は「音声日本語とは全く異なる文法体系を持った、ろう者が用いる言語」、日本語対応手話は「音声日本語の文法や語順に手話単語を当てはめたもの。主に難聴者や中途失聴者など音声言語を獲得後に手話を学び始めた人が用いるコミュニケーション手段。独立した言語とはみなされない」とされています。手話通訳士の養成は、その多くが日本語対応手話でなされていると私は認識しています。日本に日本手話を指導できる人が少ないというのがその原因ではないかと思っています。全国共通手話とは何か、標準手話というのはあり得るのかといった問題はまだまだ議論が必要です。

英語における音声会話と英語の手話(手話会話)の研究はありますか? 海外で研究は進んでいますか?

手話会話の研究は海外にもまだそれほど多くありません。アメリカのギャローデット大学が出版している手話の社会言語学研究の一部に手話会話の研究報告が載っています。

会話に突然割り込んでくるという事象はどうとらえるのか。 TCUの完了可能点以外で強制的に終了されることになると思うが。

割り込みは興味深い現象として扱われています。音声会話には「一時に一人が話す」といった基本的な規則があり(Sacks et al。 1974)、順番交替はこの規則を前提に重複を避けて進められるとされています。強制終了がどのように起こるか、強制終了されたTCUは再度修復されるかといったトピックは今なお議論されています。

コミュニケーションを学問されている方々は以下の述語をどのように使い分けていらっしゃいますか?「ジェスチャー、ボディランゲージ、手話、ビジュアルハンド」以上は全てノンバーバルコミュニケーションとくくって議論されているのでしょうか?

いえ、それらの術語はひとくくりにせずに議論されています。特に手話は言語なので、「ノンバーバル(非言語)」に入れることはできません。研究術語の定義や分類は研究領域によって異なることが多いです。

井戸端会議は何かゴールを目指している。受け手が居るガールズトークはゴールがない。受け手の有無に関係なく進むとみなしていいでしょうか。

井戸端会議とガールズトークは両方とも明確なゴールがない場合が多いかもしれません。しかし、それは時と場合によるでしょう(井戸端会議であってもその時絶対決めないといけないことがあればゴール志向会話の形になります)。ご質問の受け手の有無というところがよくわかりませんでした。

(1)3人以上でコミュニケーションが成立するならば。何人まで成立し、何人以上になると分散してしまうのか?(2)音声会話と手話会話の比率は参加者の数によってどう変化するのでしょうか?(3)世代の違いや異性によってコミュニケーションはどのように変化をきたすのでしょうか?(4)パーソナルスペースと会話空間は変化するか?

(1) 4人以上から分裂の可能性が出てくると指摘されています。(2)「比率」とは何の比率でしょうか?(3)年齢や性別によって、コミュニケーションの進め方は異なるかもしれません。会話の基本的な概念を利用しながら、その違いを観察するのがインタラクション分析です。一般的に会話分析研究では話者の属性を説明手段に用いることはあまりありません。(3)パーソナルスペースというのは今回の講義で扱っていないのですが、これまでの研究では静的に扱われてきたように思います。それに対し、会話空間は会話の流れによってダイナミックに変化します。

TRUが外国語でも同じとのことですが、語順が違っていても同じなのですか。

TCUは会話参与者によって、発話の切れ目と認識される場所のことを指します。英語でも日本語でも発話の切れ目と感じられる箇所はあります。そういった意味で「同じ」と申し上げました。英語と日本語の文法構造上の違いによって、発話の切れ目と感じられるかどうかは異なるかもしれません。この部分もいま多く議論されている点です。

民主党内での総理大臣指名経過は「多人数インタラクション理解」という研究課題からみて興味ある研究テーマになりますか? この研究課題の成果は会話の効果を高めるのに役立つことが期待できますか?

総理大臣指名は多人数の対面会話によって進められるというよりも、裏でいろいろと決まっているように思います。そういった会話の表面に現れにくい情報は、会話分析で扱うのは難しいです。会話の効果を高めるために会話の研究をしているわけではないのですが、会話の効果が高まったと感じられる会話の連鎖構造はどういったものか、とても興味があります。

とても興味深いお話でした。 この研究はどういうことに役立っていくのでしょうか。

ありがとうございます。我々のコミュニケーションでは莫大な情報がやり取りされています。それらはコンピュータで読み取ることのできない情報です。それらをコンピュータ上で読み取ることができるようになれば、面白いインターフェースのデザインや人工物のデザインに役立てられるかもしれません。

コミュニケーションを科学することは可能か? の結論は?

可能だろうと思います。しかし、我々が得た結果を万人が「科学的だ」と言ってくれるかはわかりません。

韓国語も助詞があるのですが、TCUが分かりにくいのでしょうか。

助詞はTCUの末尾を知るための手掛かりになります。ですので、韓国語もTCUの末尾を知るために助詞が使われるかもしれません。

会話の分裂は傍参与者と傍観者とがもともと別の事柄に興味があれば当然の結果ではないでしょうか。

はい、当然だと思います。しかし、その「当然」と思えるコミュニケーションのメカニズムを解明することこそ、我々の研究課題です。

疑問が残りました。Netにおける"コミュニケーションは?" という質問で、Netにおけるものについても研究されているか?ということでしたので、"なされている"というお答えでした。私はただ、"Netにおけるコミュニケーションは?"ということが聞きたかったのです。最後の質問へのお答えにありました日本語と英語の違いの拡大版、量質版が現実社会とNet社会にはあり得るのではないかと。

面白い観点だと思います。現実社会とNet社会のコミュニケーションメカニズムを研究するのはとても興味深いテーマです。今後、進めたいと思います。

市民講座質問.png
日本語は動詞が最後に来るので、英語に比べるとTPRが遅れると思いますが正しいですか?

そうかもしれません。このあたりの議論はたくさん研究があります。もし興味があるようでしたら、ぜひ文献検索をしてみてください。日本語でも多く論文発表されています。

(1)TCUの完了可能点に"沈黙"は含まれるか。(2)含まれる場合、現話者が次話者選択テクニッツクを用いたと見なすことができるか。("沈黙"以外にシグナルがない場合)

(1) 沈黙はTCUの完了可能点に含まれません。句末や文末の沈黙ならば、それまでのTCU完了後に置かれた沈黙と理解します。句中や文中の沈黙(単語の間の空間)ならば、TCUの中の沈黙と考えます。

とても興味深いお話、ありがとうございます。本日のお話では会話中の「視覚情報」が大きな役割を果たしていると思います。「視覚情報」がないとき(音声のみの会話のとき)順番交替はどのようにしておきるのでしょうか? よろしくお願い申し上げます。

そもそも順番交替の基本的な文献は、電話会話の分析をもとに書かれています。よって、視覚情報がないときの順番交替であれば音声情報のみを用いて分析します。対面会話の順番交替であれば音声情報と視覚情報両方を用いて分析します。

本研究内容の実用化可能分野に関して何かしら用途がありましたらお教えください。 色々な分野に応用ができそうだとは感じるのですが、具体的なイメージが浮かびずらいので、もし、何らかの方向性がありましたら教えてください。

人と人の会話情報をインプットとして利用する何らかのプロダクトに利用できるかもしれません。例えば人と会話をするロボットのデザインなどに有効だろうと考えています。

(1)ビデオ撮影による分析の方法論についてのメリットは? デメリットは?(2)操作領域は視界領域と重なるものと考えてよいのでしょうか? 視界に入っていない人は承認されていない(人)でしょうか?

(1)メリットは多くの情報を得られること、(2)デメリットは撮影された人の個人情報もビデオデータに含まれてしまうことです。(2)はい、操作領域は視界領域と重なります。承認されていない人は、その場の会話に参与している人々にとって承認されていない人物のことです。視界とイコールではありません。

(1)2chとか掲示板とかインターネット上での会話、チャットの分析の研究開発の状況はどうでしょうか。(2)手話はコンピュータで音声認識して、ディスプレイをリアルタイムで表示することはできないのでしょうか。(3)実社会への応用面としては何があるでしょうか。

(1)JAISTの助教の先生がチャットの分析をされています。(2)手話をコンピュータで認識するには画像処理の技術が必要だと思います。手話は複雑な動きなので、リアルタイム表示は現時点ではかなり難しいと思います。(3)想像しやすいところだと、会話ロボットでしょうか。

ツイッターにおける会話の研究などはありますか? SNS上(ストリーミング的)なネットコミュニケーション

ツイッターの研究はまだ知りませんが、大阪大学の准教授の先生が2chのネットワーク分析をされています。

「ケンミンショー」ではありませんが東北弁の女性達と(無口)大阪のオバちゃんとでは井戸端会議の盛り上がり方が全然違うのではないかと推測するのですが(無口と言われる地域といっちょかみの関西では絶対に違うように思いますが)どうなんでしょうか?

面白そうですね。日本語会話の中にもバリエーションがあることを会話の連鎖構造の観点から言えると非常に素晴らしいと思います。まだ手つかずの領域です。

マシンガントークの人ばかりが集まれば、TRPがなくて順番交替が成立せず、会話が成立しないというようなことはないのですか?

マシンガントークの人ばかりの会話にもTRPや順番交替は存在します。

空間の使い方に国による違いはあるか。

あると思います。社会心理学領域では空間使用(主に着席位置)の文化比較研究があります。

「地図の読めない女、話を聞かない男」の例えではありませんが、井戸端会議を構成する要素の中にジェンダー差というものは存在するでしょうか? 姦しい(かしましい)という言葉があるとおり、ジェンダー差はありそうな気がするのですが・・・。 また、紅一点とか黒一点、同数同士でも成り立ち方が違ってきませんか?

あるかもしれません。しかし、会話分析研究は、ジェンダーを真正面から扱っていないと思います。裏情報として、我々がデータ収録する場合は、可能ならば女性ばかりの会話を撮りたいと思います。ビデオカメラを置いても盛り上がってくれそうな気がするので。

(1)男性に比べると女性の方が井戸端会議が好きですがこれはなぜでしょうか?(2)井戸端会議で会話をリードする人は一般的にスピーチ(プレゼンテーション)やディスカッションやディベートも上手なのでしょうか?(3)Facebookなどのネット上のクローズなSocietyで文字で行われるコミュニケーションも井戸端会議の一種と思いますがこの2つには基本的な違いはあるのでしょうか?(4)この研究は何の役に立つのでしょうか?

(1)なぜでしょうか?私もこの辺知りたいです。(2)会話におけるリーダーシップとスピーチ、ディスカッション、ディベートのうまい下手は関わっているかどうか、わかりません。想像では別のスキルのような気がします。(3)ネット上のコミュニケーションは、ネット上のどういったふるまいを対面コミュニケーションの何と対応づけて考えるかを議論する必要があると思います。それを経て、比較研究が可能になると思います。(4)すぐには世の中の役には立ちませんが、私たち人間のコミュニケーションという計り知れない研究対象にメスを入れることができます。

コミュニケーションを科学(分析)した結果として社会生活に何か反映されることがあるのでしょうか?

我々の研究は明日から社会の役に立つということはありません。しかし、コミュニケーションのメカニズムを知ることができれば、我々人間の日常生活の複雑さの一部を理解することが可能になります。人間のふるまいを理解したいという希望は多くの人が持っているのではないでしょうか?そういった希望に答えることができれば、我々は社会に成果を少しでも還元できたのではないかと考えます。

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