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平成21年度 第4回 Q&A

第4回 2009年9月2日(水)

インターネットは地域社会をどう変えるのか?
ネット時代の社会心理

小林 哲郎(国立情報学研究所 情報社会相関研究系)

講演当日に頂いたご質問への回答(全31件)

※回答が可能な質問のみ掲載しています。

スライドP15 の北部が水平的で密なネットワークで南部が垂直的で疎なネットワークと判断された根拠は何でしょうか。
言葉を変えると水平的 / 垂直的、密 / 疎を分ける基準は何ですか?

模式的には、ネットワークの中心人物がはっきりしていて、その他のフォロワーが中心人物とのみつながっているようなネットワークが垂直的で疎なネットワークです。一方、中心がそれほどはっきりせず、ネットワークが網の目のように張り巡らされているネットワークが水平的で密なネットワークになります。

社会関係資本が高いと判断される場合、何を根拠とするのですか?(社会関係資本が高い状態とは例えばどのような状況ですか?)

社会関係資本は複数指標で測定される概念です。パットナム流に考えれば、社会的信頼や互酬性規範、ネットワークの水平性・密度が高いことが根拠となります。

社会関係資本の指数測定の方法は?

コミュニティ組織生活・公的問題への参加・コミュニティボランティア活動・インフォーマルな社交性・社会的信頼などで測定されます。詳しくは、「Putnam, R. D. (2000) Bowling Alone: The Collapse and Revival of American Community. New York: Simon and Schuster. (パットナム, R.D. 柴内康文(訳) (2006). 孤独なボウリング―米国コミュニティの崩壊と再生 柏書房」を参照してください。

Social Capital の定量的測定法とは?

Q3をご参照ください。

Putnamは社会関係資本係数をどのような評価軸、数値化手法で算出したのか?(簡単な例を教えて下さい)
同様の定量化手法、ビジネスへの応用例とかで注意すべきもの、特筆すべきものはありますか?

Q3をご参照ください。複数の指標から1つの総合的な指標を合成するには、主成分分析や因子分析などの統計的手法が用いられます。ビジネスへの応用では、ブランド評価などで用いられています。

日本は社会関係資本が充実しているのか?いないのか?説明して下さい。

指標の算出方法によって異なり、地域差も大きいので一概には言えません。国ごとの信頼感の差などは、多くの国際比較調査で調べられています。信頼感だけでいえば、日本の信頼感は米国よりも低いという指摘があります(山岸俊男「信頼の構造」東大出版会)。

社会関係資本と死亡率、教育達成指数、殺人率は、社会関係資本(原因)と死亡率(結果)ということでなく、「相関関係」でしかないのではないでしょうか。 原因と結果の裏付けはあるのでしょうか。

厳密な実験が困難であることから、相関関係である可能性は否定できません。統計的な因果効果の推定や、両者に共通する説明要因の検討が進められています。

古くはTV、今はゲーム、インターネットについて「○×の利用傾向が高いと(脳、人格、etc.)が××」という発表がよくなされるが、あのような研究は学問的にどの程度信頼できるものなのか?また、どうやって信頼できる研究としているのか?

個別の研究については存じ上げませんが、研究結果の信頼性・妥当性については、実験や調査の方法論が厳密であることが求められます。サンプルが偏っていたり、測定が不十分であれば、信頼できない結果となります。

ミクシィなどのSNSがコミュニケーションツールとして注目を集めているが、健全なツールと言えるのか?
もし改善すべき点があるならば、どの様な点か?(最近、ミクシイを悪用した犯罪が起きたところ)

サービス自体が健全かどうかという判断は難しいところです。利用の効果は、人によって異なるからです。

インターネットのコミュニティ(SNS, Twittieなど)は、別次元の(地域)社会と考えられますか?

地域社会の人間関係がそのままSNSやTwitterに持ち込まれれば、それはコミュニケーションの手段が付け加わったと考えるべきだと思います。

ネット・サークルでは無責任な書き込みが横行し、まじめな発言はひかえられる傾向が多く見られる。ネットによる世論の形成には悲観的であるが、改善策はあるだろうか?

集合知という考え方は1つの改善策かと思います。また、無責任な書き込みではなく、まじめな発言をした方が自分にとって得になるような制度を作ることも有効でしょう。

「地理・時間から解放されるインターネット」というが、ここ数年で"リアルタイム"、"一の知らせ合い"といったよりローカル(風の)スタイルが台等している様に見える。これは従来への回帰と見るか?
それともグローバルの先の新しいローカル(従来の"ローカル"とは異なる意識・社会性の)と見るか?)

「リアルタイム」や「位置の知らせ合い」といったニーズは一度もなくなったことはないのではないでしょうか。従来への回帰ではなく、こうしたローカルなコミュニケーションの重要性はインターネットの登場によっても不変であったと思われます。

遠距離で伝達手段として、一番早い媒体としてインターネットの実用性は理解できるが、地域社会という密接した空間でインターネットのメリットはあるのでしょうか。
インターネットを利用していない住民に対する配慮を設けることで、インターネットを使用して、二度手間になる事については如何でしょうか?
インターネットを利用して、不特定多数に幅広く伝えられるが、ブラウザを通してだけで、限定したコミュニティに陥る事については如何でしょうか?

密接しているにもかかわらず、対面でコミュニケーションすることが難しいというのが現代社会の1つの特徴かもしれません。
二度手間のコストを払ってでも、インターネットを利用していない住民を巻き込もうとする動機は注目に値します。つまり、人間の集合行動には損得勘定を抜きにした行動もあるということです。
閉鎖的なコミュニティの形成にインターネットが寄与してしまう可能性は多くの研究者が指摘しています。"Cyber-balkanization"と呼ばれる現象です。

インターネット活用で個独になった・・・のではなく、逆に人々のネットワークや付き合いが大きく広がったのではないですか。Net community, Blog, SNS などの活用はSocial communication の幅を拡大した。社会や政治に大きな影響を与えている。いかに活用するかが課題。

もちろん、ネットワークや付き合いが広がる効果も見られます。重要なことは、インターネット利用の効果は一意に定まらないということです。いかに活用するかが課題というご意見はまさにその通りだと思います。

Netvilleの事例でも見られたように、インターネットを使わない(使えない)人も地域社会を構成している。インターネット普及に併せ、「地域社会」全体という点ではデジタルデバイス(マイノリティ)への情報格差の問題を考えるべきでは?
また、小中高生や主婦の携帯や社会人のPC等、年齢、社会層によるツールやシステムの分化もある。"インターネット"一語でくくってよいだろうか?

おっしゃる通り、高齢者などインターネット利用率の比較的低い層をどのように地域コミュニティに巻き込んでいくかは大きな課題です。今後研究が進むことが期待されている分野でもあります。
ツールの分化についてもおっしゃる通りです。子育て中の母親コミュニティでは携帯によるインターネット利用が圧倒的多数派であると伺ったことがあります。こうしたツールの分化による分断化をどう防ぐのか、今後検討する必要があるでしょう。

日本でかつて全戸にインターネットの回線を設置した村(町?:自治体名を忘れてしまいました。)があり、先進事例として注目された。しかし、その後の追跡調査で、現在インターネットを継続して使っている家は少数になったと報道された。直接的な理由は、当時(設置時)のISDNからADSL、光通信へ乗り換えられなかったからとのことだが、もし地域に不可欠のものとなっていたら、ISDN+ADSL, etc. も障害とならずに(皆が乗り換えながら)済んだと思う。インターネットが社会関係資本に与える影響を考察すると同時に、土地柄(地域のニーズ、これも社会関係資本)がインターネットに適するかという観点も必要ではないか?

おっしゃる通りだと思います。ニーズのないところに仕組みを入れても使われないだけです。インターネットの特徴は、その設計の柔軟性にあるので、多様なニーズにこたえられるという点です。うまく地域特有のニーズに合わせて導入していくことが必要でしょう。

総務省が地域コミュニティの活性化を目標に「地域SNS」を開発し、各地で実際に運用が始まっているが、地域SNSは、本当にコミュニティ活性化に有益か?効果や課題などについて、ご意見を伺いたい。

長期的な効果についてはまだわかりません。失敗例も多いと聞きます。当面の課題は、いかにして初期値としての参加人数を多く集めることができるかだと思います。住民の自発的な参加だけに期待するのでは活性化は難しいかもしれません。初期のブースターとして利用価値を高める仕組みが必要でしょう。

スライドP.15の中の「水平的で密なネットワーク」を構築するために必要な要件があれば教えてください。
スライドP.16の中の「社会的信頼」が豊かであればセキュリティの観点は必要ないのですが、或いははどのように関連づけることができるのでしょうか。

必要な要件は1つではないと思いますが、一般的他者に対する信頼や異質な他者に対する社会的寛容性が重要であると思います。
セキュリティと信頼は関連していると思いますが、信頼があればセキュリティが必要ないということにはならないと思います。セキュリティはむしろ信頼がない場合に安心をもたらす機能です。

伝統的メディア(新聞など印刷物、TVの広告やくだらないプログラム)からインターネットの利用が普及拡大している。ポスト・インターネットメディアは個人の要求に応じた直接コンタクトに発達するか。

その可能性は大いにあります。実際、たとえば米国の選挙キャンペーンはいまだにマス広告の比率は圧倒的ですが、徐々に個人の特性に合った文面のメールで投票を呼び掛けるようなマイクロ・ターゲッティングが普及しつつあります。

ICTの地域利活用、実は全然進んでいません。インターネットを地域社会に役立てようとした時に難しいところは、普段使っている人とあまり(ほとんど)使ったことのない人とのインターネットに対するイメージの差だと思います。インターネットを使ったことのない人は、必要性を感じてくれません。どれだけ役立つか、ということをなかなか分かってもらえないのですが、何か良い方法はありませんか。資料があれば教えてください。意思決定をする人がたいてい使ったことのない人で、悪玉論を支持していることが多いです。「人々の日常生活に埋め込まれたインフラ」になるまで、まだ時間がかかるということでしょうか。それとも もうすぐそうなるのでしょうか。時間の問題かもしれませんが。

インターネットを使った選挙運動を禁じた公職選挙法がなかなか改正されないのも同じ構造をもった問題だと思います。すぐには変わらないかもしれませんが、インターネットは使っている人が多ければ多いほど、その効用は大きくなるという特徴を持っています。なので、有る程度の利用者数まで達すると、使っていない人も使った方が便利だということが目に見えて明らかになってくるかもしれません。

社会関係資本について、大統領選との相関があるのでしょうか?
地図を見た限り、民主党が選挙人を獲得する地域は高く、共和党が強い地域は低いような感じを受けました。中西部だけが高い要因について知りたいと思います。他の高い地域の高い要因とは、個人的に異なるような気がします。

中西部が高く南部が低いといった特徴は確かに支持政党の地理的分布とある程度似ています。歴史的には、アメリカのレーガン政権やイギリスのサッチャー政権による新自由主義的改革の後にコミュニティの再生が叫ばれ、社会関係資本の重要性に注目が集まったという経緯があります。

かつては「インターネット革命」と称され、バラ色の世界の出現も言われたが、本来米国の軍事目的に開発されたものと聞いている。少なくとも市民ユーザを対象にしていないのではないか?

当初は軍事技術として開発されたのは事実です。しかし、今やインターネット利用はマスに広がっているので、何か特定のセクターを対象としているということはないと思います。

「高速常時接続回線」とはどのようなサービスですか。具体的に説明してください。E-mailingの相手が不特定、つまり不特定多数を相手とする接続サービスでしょうか?

これは、利用時間やパケット量などに比例して課金されるのではなく、24時間インターネットが使い放題であるという状態をさしています。日本でも現在ではADSLやFTTHなどではこの方式が主流になっています。

「強い紐帯」と「弱い紐帯」を結ぶのに相関関係はありますか。

強い紐帯は情緒的なサポートなど、人々の社会生活のコアになる部分なので、強い紐帯がほとんどなく、弱い紐帯ばかり持っているという人はあまり多くありません。

日本ではインターネットの利用が投票行動にどの程度影響を及ぼしているでしょうか?
外国ではどうでしょうか?

データで見る限り、日本ではまだ直接的にはあまり大きな効果は及ぼしていません。韓国や米国では日本よりもインターネット利用と投票行動の結び付きは強い可能性がありますが、実証研究はまだ十分ではありません。

新しいメディアが現れたときに、それが人にとって価値をもたらすものか、害をなすものかの評価は、どのように行えばよいのか?アンケートの統計処理?

全体的な傾向を見るのであれば、実験や社会調査が適しています。ただしこれらの方法論によってわかるのは全体的な傾向です。全体的な傾向から外れる人もいます。

「少子高齢化時代の選挙制度」に関し、『世代別選挙区を設け投票する』という提案を目にしたことがありますが、どうお考えですか?(元産業再生機構・社長の冨山氏)

若年層の利益を代表する議席が少子高齢化社会では少なくなりがちですから、一つのアイデアとして有効だと思います。実際、学会の理事選挙などでは世代別投票区を設定しているところもあります。

官僚主導から政治主導の民主党政策は社会関係資本を豊かにするか。

これはわかりません。政治主導で社会関係資本を破壊することもできるからです。

インターネットなど情報通信技術は、地域社会の変化にどの程度(割合 or 率)(正 or 負) のインパクト(寄与)しているのでしょうか?インフラとし、またはメディアとして?

それぞれの地域社会によって異なるので一概には言えません。ただ、インターネットという技術そのもの自体は、地域社会の根本的な部分を換えるほどのインパクトを持っているとは考えにくいと思っています。

相手が特定できないネットより、実際に相手が特定できる掲示板、回覧の方が的確に安全に安心して情報を伝えられると思いますが、それ以外にインターネットにメリットがあるとすれば何か?よさを分かりやすく理解してもらうには、何か必要か?

周囲に知っている人がいない場合でも全く面識のない人から質問に対する回答をもらえたり、あるいは、いままで知らなかった人と共通の趣味や関心を通して知り合うことができるのも、インターネットの大きなメリットだと思います。

"小学校"や"中学校"の学区がグローカライズする世界の中で引用されているのは、「E-learning」と「体育」などがグローバルとローカルの身近な一例として取り上げていただいていると理解してよろしいでしょうか?

「E-learning」と「体育」の対比は面白いですね。確かに、体育など一人ではできない学習や教育もたくさんあります。何もかもがインターネットでできるわけではなく、ローカルの重要性は依然大きいと思います。

コンピュータ エージェントやロボット(非人物)とのコミュニケーションにより、社会関係資本に影響を与えることはできるのか?そのような研究はあるのでしょうか?擬似的に高める?

例えば毎朝見るニュース番組のキャスターに対して、思わず相槌を打ってしまったりするようなコミュニケーションは、パラソーシャル(疑似社会的)なコミュニケーションとして知られています。パットナムは、テレビを通したパラソーシャルなコミュニケーションによって、生身のコミュニケーション欲求が満たされてしまうことを危惧しています。

インターネット利用もPCと携帯電話で変わっていないか。

PCと携帯電話のように、利用のデバイスの違いがインターネット利用の効果を大きく異ならせてしまうことは確かにあります。例えば、同じメール利用でも携帯電話によるメール利用は「強い紐帯」とやり取りされる傾向が強く、PCによるメール利用は比較的「弱い紐帯」とのやり取りを多く含んでいます。こうした違いがさまざまな効果となって現れる可能性があります。

人間関係もインターネットにのる部分とのらない部分がありませんか。どんな部分ですか。

のらない部分はたくさんあると思います。例えば、直接的な触れ合いや、食事や旅行など、場所と時間の共有を必要とする人間活動が無くなることはないでしょう。

shimin 2009-qa_4 page2583

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