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平成26年度 第6回 Q&A

第6回 2014年11月27日(木)

社会を変える量子コンピュータ
宇都宮 聖子 (国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系 准教授)

講演当日に頂いたご質問への回答(全45件)

※回答が可能な質問のみ掲載しています。

難しすぎて、さっぱりついていけませんでした。今回の講演で最も伝えたいメッセージは何だったのか、教えて頂ける助かります。

DOPOネットワークを用いたコヒーレント・イジングマシンは、最適化問題を非常に効率よく解くことができる。光の結合系でコヒーレント・イジングマシンを実装できれば、計算時間は問題サイズによらない。

先生がこの研究をしようと思ったきっかけについて教えてください。

大学院の頃から始めた量子コンピュータの実現の延長線上にこの研究があります。大規模に実現可能な量子状態を用いたコンピュータを作りたいと思ったのがきっかけです。

量子コンピュータを実現するために必要なホットな基礎研究や今後の課題をご教示ください。その課題を解決するために、どのような他分野の研究者と連携したいでしょうか。

コヒーレント・イジングマシンの実現においては、通信波長帯のファイバー光学系の安定化技術、高速変調技術、高度なFPGAプログラミングが実現の肝となります。また、実際の問題を効率よく実装するという点で、グラフ理論に精通した研究者、非ノイマン型の計算概念を導入するために人工知能の研究者との融合が重要と考えています。現在本プロジェクトはそれらの分野の先端の研究グループと共同して、研究を進めています。

探すのがとても速くなるのが量子コンピュータだと理解しましたが、先生は何を探そうと、探したいという夢や希望があれば教えてください。(そもそも探すものか?という気もしますが)

コヒーレント・イジングマシンが得意とする組み合わせ最適化問題、実際の応用領域を探していきたい。特に脳内の相転移などを模倣できるシステムへの発展を期待しています。

量子コンピュータ、量子情報などの学習の初歩に向いた書籍等があればご紹介お願いします。

量子コンピュータと量子通信 (ミカエル ニールセン (著), アイザック チャン (著),) 量子コンピュータ―超並列計算のからくり(竹内繁樹 (著))、ようこそ量子 量子コンピュータはなぜ注目されているのか (根本 香絵 (著)) 、量子もつれとは何か―「不確定性原理」と複数の量子を扱う量子力学(古澤 明 (著))

量子コンピュータが今のスパコンレベルで普及するのはいつごろですか? 2020年、2050年?

コヒーレント・イジングマシンは2年後に1,000サイト、5年後に100,000サイトの実現を目指しています。スパコンとの直接比較は難しいですが、10^16(スパコン京)のスペックに対抗できるマシンが実現できるのはいつになるかまだ見当がつきません。

量子コンピュータが今のPCくらいに社会に普通に出回ったら、どのような社会になると思いますか。

量子コンピュータで因数分解(RSA)暗号が解けるとしたら、別の原理の次世代暗号化技術(格子暗号など)が登場するという話を聞いたことがあります。量子コンピュータがPCのように普通に社会に出回ると、情報社会の形は様々に変化する可能性はあります。ただ現時点では量子コンピュータは制御が難しく高額になると考えると、スパコンなど中央集中型の処理に導入され、大規模演算部に量子コンピュータの出番がくることは想定されるかと思います。

量子コンピュータは、アナログコンピュータの一種と考えてもよいのでしょうか。

本日私の紹介したコヒーレント・イジングマシンは、アナログコンピューティングの一種と考えてよいかと思います。ゲートベースの量子コンピュータは、bitを用いているという点でデジタル、振幅の重ね合わせという点でアナログという中間的な意味合いを持つかと思います。

「量子コンピュータは、計算がすごくて普通のコンピュータが数千年かかる計算は数十秒でできる」と聞いていますが、計算のみでなく、普通のコンピュータのようにいろいろできるようにはならないのでしょうか。「まだ計算以外できない、不得意だ」と聞いていますが、普通のコンピュータのようにいろいろなアプリができて、今の普通のコンピュータのように使用はできるようになりますか。

これまでに考えられてきた量子コンピュータで実装できるアルゴリズムは、特定の難しい問題に特化しており、難しい計算を担当する特別なマシンであると考えられていました。組み合わせ最適化問題が解けるイジングマシンのようなものが実現できれば、様々なアプリケーションへの応用の幅が格段に広がることが考えられます。

量子コンピュータは、未来の計算機でしょうか。これからどのようなことに役に立つのでしょうか。おそらく、今まで計算で表わせなかったもの、たとえば宇宙のはてのはての始まりとか終わりとかわかるのでしょうか。原始時代から現在までの計算機の移り変わり、計算の方法の変化、江戸時代、歩数で日本の地図を作ったように、日時計で一日の時間を作ったように、量子コンピュータで今まで分からなかったことが分かってくるのでしょうか。

量子コンピュータが得意とする問題は今のところ限られていますが、その得意な問題に関しては、今までわからなかったものがわかるようになる可能性は高いと思います。量子コンピュータが搭載できる問題サイズに応じて、計算の幅が指数的に増えることは想定されるため、これまでの計算機の計算能力の限界によってわからなかった世界が見えてくるかもしれません。

2045年問題は、量子コンピュータの発展を元に言われていますか? あるいは、量子コンピュータのパワーが加わることで、より早く実現するのですか。

近年のうちに汎用コンピュータが量子コンピュータで置き換わることは現実的に考えづらいと思いますが、2045年問題を加速する計算機が、量子系を用いて実現できる可能性はあるかと思います。

レイ・カールツワイルは、解ける問題の限定される量子コンピュータよりも分子コンピュータが未来の(次世代)コンピュータとなると書いていましたが、量子シミュレーションの方向性も含め、どのような状況が数十年後に起こっているとお考えでしょうか。

量子コンピュータも量子アニーリングなどの登場により、量子系を用いた計算機の概念が少しずつ変化しています。数10年後に周辺技術(光エレクトロニクス・FPGA等)がどのように変化していくかによって、それを組み合わせてできる技術も変わってくるため、容易には想像がつきません。

量子コンピュータにも物理的な計算速度の限界があるのでしょうか。

量子コンピュータを実現する物理系に依存するので、計算精度の限界はあると考えて良いと思います。量子コンピュータの計算速度は量子ビットのゲート操作にかかる時間で律速されますが、ゲート操作のほとんどの時間は量子エラー訂正に使われています。1ゲートあたり100ピコ秒かかるとすると、量子エラー訂正には10^7桁多い1ミリ秒程度の時間がかかるとされています。

量子シミュレーターではどんなプログラム言語が使われるのでしょうか。

量子シミュレータは、ある量子系のダイナミクスを予測するために、別のコントロールしやすい物理系で模擬する実験で、読み出しは実験結果を直接読み出しています。プログラム部分というのは、システム全体をマクロに操作する制御系部分にあたりますが、プログラム言語はどのような制御を行うかで自由に選択することができるかと思います。

(漠然していて恐縮ですが)光半導体デバイスに望むものがありましたら、お教えいただけませんでしょうか。

FPGAクロック周波数の高速化、オンチップメモリーの大容量化、メモリのIOの高速化、低消費電力化など

具体的にどのような入力をして、答えがどのように出力されるのかを知りたいです。

コヒーレント・イジングマシンの場合、与えられた問題設定によ応じた光配線を入力値として与え、答えは光の位相状態を読み出し組み合わせ最適化問題の配位状態として出力します。

難しい概念を素人にも分かりやすく(?)説明いただき、有難うございます。
量子コンピュータが実現したとして、その"計算"結果を信じて良いとどのように保証するのでしょうか。

質問18と同様な観点ですが、比較的性能の良い近似アルゴリズムの計算結果と比較して、それよりもよい近似度が出ているかどうかで評価できます。

量子コンピュータの出す結果が正しいか、誤っているかのチェックをするのでしょうか。(特にビッグデータの場合)

大きな問題サイズについて、NP完全の場合は解が正しいのかの検算は容易にできます。NP困難の場合は厳密解そのものがわからないので、焼き鈍し法など精度の良いヒューリスティックや精度保証のあるSDPなどの解と比較してその近似精度としての能力を評価しています。

0状態と1の状態が確率的に決まる。 ⇐ 量子コンピュータ
     ↓
データの入力を行う時に、0か1を決めて入力している。 ⇐ 古典的なコンピュータ
         
このギャップがよく解りませんでした。確率的に0か1が決まるのにどうして正しく計算できるのでしょうか。

解きたい問題の状態
 資料4ページのタマゴパックのイメージ
     ↓
どうやって設定するのですか。設定のやり方によって答えは変わりますか。正しく設定する方法はありますか?

確率的に現れる初期状態から、問題を実装(ネットワーク構造を決めるJijの設定)して系を走らせることによって、ランダムに生成された初期状態から徐々に最適化された状態へと遷移していくことを用いて計算を行っています。量子ノイズによって確率的に0か1に決まる光の系を用いるため、コヒーレント・イジングマシンは確率的に解を求める乱拓アルゴリズム(焼きなまし法などもこれにあたる)の一種です。イジングスピンにあたる光の結合状態(Jijの強度位相変調)によって問題を設定します。この値が正しく設定されないと、定常状態として求まる答えに影響してしまいます。

量子コンピュータにおける「プログラマー」職業は成立しうるでしょうか。またそれはどのような像となるでしょうか。

強いて言えば、実装したい具体的な問題(例えば組合せ最適化問題)を物理系(量子ビット)にどのように対応させて実装するのかを考える人がそれにあたるかと思います。

実験では、何の原子(物質)を使うのですか?

私たちのシステムでは光子(レーザー)を使います。

ハミルトニアンというのは何ですか。

物理学におけるエネルギーに対応する物理量です。

ブール代数の1ビットの基本演算(and, or, *..)をするには、どの程度の実験装置が必要ですか?(量子コンピュータ以前の基礎的質問です)

対象とする物理系によります。例えば光子の量子ビットは位相板で操作できますが、電子スピンの場合はマイクロ波の発振器と電子スピンの希釈冷却装置などが必要となります。

量子系から情報を取り出す際に、量子状態は壊れてしまうと思いますが、それを多体数Nを大きくとることで補うということは、古典系にマッピングするようなイメージでしょうか。

量子力学的な線形重ね合わせ状態は確かに観測によって壊れてしまいます。量子計算のアルゴリズムは、線形重ね合わせと干渉効果により、最後に読み出される結果の状態に、高い確率で求めたい答えが出てくるようなユニタリー変換を施すことになります。一方コヒーレント・イジングマシンは、一時的には量子相関のある状態を経由し、最終状態としては定常状態である古典の発振状態となります。

扱える問題の性質、種類は、統計的な値をもとに統計的な結果を求めるものに限定されるのでしょうか。(より量子コンピュータ向きの問題として)

講演でお話をしたコヒーレント・イジングマシンは量子コンピュータと根本的に異なる動作原理を持ち、イジングマシンを代表とした様々な組合せ最適化問題に応用が可能です。

量子アニーリングについて、アニーリングをしなければいけないのはなぜですか。クエンチではだめなのでしょうか。

アニーリング(焼きなまし法)を効率良く良く用いると、大域的な最適解が求まることが理論的にも示されており、また近似解法アルゴリズムとしても特性が良いため工業的にも非常に重宝されています

「焼き鈍し法」を初めて聞きました。もう少し説明してください。

大域的最適化問題への汎用の乱択アルゴリズムです。熱的エネルギーを確立的に制御することにより、局所解に陥った状態から抜け出してグローバルな最適解を見つけ出すことができます。

ニューラルネットワークの様な実数パラメータの組み合わせ最適解を二値変数の最適解を出すイジングモデルで解くことは可能ですか。変換アルゴリズムなどは確立されているでしょうか。

コヒーレント・イジングマシンも振幅として連続値をとることができるため、実数パラメータのマッピングは検討できるかもしれませんが、今のところまだ考えておりません。

量子ビットの状態(スピンの向き)を計測するには、どのような装置が必要なのですか。また、それはどの程度の感度と精度が必要なのですか?

CIMの光パルスの状態を計測するには、光の位相と振幅を局発光を用いてホモダイン検波を行います。光子10個程度の測定ができれば十分な測定結果を得られると現在のところ考えています。

量子ビットも計測の都度、スピンの状態が変わっているとしたら、計算はどうやってやるのでしょうか。理解出来ません。

時々刻々と変わる光の状態を読み出し、その状態に対してフィードバックを行うことで、量子雑音から立ち上がりランダムネスの高い位相を持った光パルスは、定常状態向かってスピン配位を変化させて計算を行っています。

コヒーレント・イジングマシンについて
1)結合係数Jijを設定することが、プログラミング(問題設定)に対応しているという理解でよいでしょうか。
2)それは具体的にはどうやって設定するのでしょうか。
3)さまざまな組合最適化問題に対して、Jijにマッピングするアルゴリズムは存在しているのでしょうか。

1)その通りです 2)光の強度・位相変調器にJijの強度位相に対応した値を電気信号として与えます。3)例えば巡回セールスマン問題やコミュニティ分割問題などの問題に対するマッピングが見つかっています。

コヒーレント、イジングマシンは、現代暗号(RSA, ECC)を量子多項式時間で破ることができるのでしょうか。

因数分解を解くアルゴリズムのマッピングを検討中ですが、現在までには現実的な時間で暗号を解くアルゴリズムは見つかっていません

コヒーレント、イジングマシンは、耐量子暗号(格子暗号)の安全性に影響を与えるのでしょうか?

これまでのところ格子暗号を解くアルゴリズムへのマッピングは見つかっていません

コヒーレント・イジングマシンにおいて、解きたい問題の解を基底状態として問題設定することは必ず可能なのでしょうか。(どのような時に可能なのでしょうか)

現在のベンチマーク結果においては、ある程度大きな問題は準安定状態しか求まらず、基底状態を必ず見つけられるわけではありません。どのような時に見つかるかについて、理論的な説明はきちんとできておりません。

Jijをコヒーレント・イジングマシンに設定することに課題はないのでしょうか。適用分野に現代暗号とありますが、素因数分解もIsing modelにおとせるのでしょうか。

素因数分解のマッピングは存在しますが、マッピングが完璧でなく、イジングマシンを用いて現実的な時間で素因数分解を解く手法はまだ見つかっていません。

コヒーレント・イジングマシンでは、すべてのレーザ同士が1対1のパスでつながれている必要があるのでしょうか。N個のレーザがある場合は、nC2のパスが必要だとすると、Nが増えるとパスの数が多くなり、実装が難しくなるように思われますが、正しいでしょうか。

時分割多重を用いることで、N-1本の遅延線で全てのイジングスピンをつなぐことができるため、実装上はN^2の結合を必要とする空間配置型に比べてスケーリングのメリットがあります。

イジングマシンの小型化、かつ集積化は可能になりますでしょうか。例として考えられるのが、注入同期レーザーネットワークシステムとフォトニック結晶の融合です。

ファイバーリング共振器を用いると、全体でテーブルトップ程度の大きさとして実装可能です。また、結合部分の光配線を回路化・集積化することで、更なる小型化が見込めます。

ゲーム理論におけるナッシュ近郊、パレート最適で、複数の均衡状態(解)がある場合、イジングモデルは使用不適と理解してよいですか。

これまでのところ、そのような問題への応用はきちんと考えられていません。

性能評価の指標は量子ビット数以外にありますか?(古典マシンならCPUクロック、メモリ、HDDの容量など、いろいろありますが、それらに対応するものや全く違う図り方など、もしあれば。)

コヒーレント・イジングマシンの場合、パルスの繰り返し周波数、ファイバー共振器の長さ、その二つによって決まる光パルスの数などがあります。また、測定フィードバックのADC/DACの解像度やダイナミックレンジなども計算精度に影響する指針となります。

宝箱の問題を解くアルゴリズムはあるのでしょうか。(従来の量子コンピュータ)
D-waveのコンピュータで宝箱の問題は解けるのですか。
D-waveのコンピュータで、計算アルゴリズムは公開されているのですか。
従来型量子計算で、パラレリズムの威力を発揮できるアルゴリズムは存在するのですか。
D-waveのコンピュータでは、パラレリズムの威力が発揮できるのですか。

従来の量子コンピュータで任意の組み合わせ問題を説くアルゴリズムは一般的には見つかっていないと思います。D-waveのイジングモデルは組み合わせ最適化問題なので、そのマッピングは可能かと思います。

D-wave II の出てきた経緯はどの様でしたか。急に出て来たのですか。

D-wave社は1999年に設立し、2011年には128量子ビットのD-wave oneの販売を開始しました

D-wave II はいくらですか?

市販価格1500万ドル程度と言われています

量子ビットに使う二準位系で光子を選ぶと速い(光速の)コンピュータが出来そうですが、光子の利用におけるデメリットはありますか。

単一光子でつくる量子ビットはロスによって消えてしまうため、安定に情報を格納することが難しいということが問題です。

・量子コンピューティング
・量子アニーリング
・コヒーレント イジングマシーン
 以外の理論で動作させようとしていることはないのでしょうか。あったら具体的にあげて頂きたいです。

ご質問の意図が、組み合わせ問題を解く物理学的なアプローチ、という意味でしたら、ニューロチップや日立のアニーリングマシンなど他にも様々な例があるかと思います

抽象的な質問ですが、人間の"直感"も複雑な演算のかたまりなのですか?

人間の直感に関しては、専門外なのでわかりません

shimin 2014-qa_6 page2518

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