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平成20年度 第3回 Q&A

第3回 2008年8月25日(月)

データ社会とアーカイブ
--年金記録問題などに見られる情報管理の重要性とは?--

古賀 崇(国立情報学研究所 コンテンツ科学研究系)

講演当日に頂いたご質問への回答(全25件)

※回答が可能な質問のみ掲載しています。

記録媒体は物理的、システム的に恒久に保存可能ですか?(物理的劣化、情報記録方式などに関して)

どの記録媒体であろうと恒久に保存可能とは言えません。媒体に応じて、環境の適切な管理、またミグレーション(媒体変換)などの手段をとりつつ、できるだけ保存可能な期間を延ばしていくことが求められます。

現在の記録メディアの信頼性と対策(紙と比べて)
①自然寿命
②温度(許容)
③電磁的サージ(紙より影響が大きい?)

CD、DVDなどは素材やメーカーによって寿命にバラツキがあると言われます(一般的に格安品のCD、DVDは信頼性が劣る)。また、紙と同様に温度のみならず湿度、光(特に紫外線は避ける必要がある)を適切に管理することが長期保存のために必要です。不必要な電磁気にさらさないことも当然、必要となります。

デジタルの圧縮技術は年々進歩するが、今、記録として残したデータを将来どう保存しておくのか。
例:8mmフィルム→VTR→DVD→・・・
(保存しなおしの手間や再生の問題)
(DVDプレーヤーでは8mmフィルムは再生できないなど)
アナログデータ(紙)も同時に保存する必要はあり続けるのではないでしょうか。(データの再生がデジタルよりは容易)

「保存しなおし」はミグレーション(媒体変換)の問題として捉えられます。データを将来に向けて保存する--というより、「再生可能」な状態を保つ--にはミグレーションを繰り返さなければならない可能性があります。しかしその際のコストを利用者に転嫁するままでいいのか、は検討課題と言えます。紙あるいはマイクロフィルムといったアナログ媒体によって保存するほうが、コスト面で有利と言える場合もあります。

日本アーカイブ学会と記録管理学会、どういう住み分けとしているのでしょうか。オーバーラップする部分は?
Ex. 日本アーカイブ学会 記録方法のしくみ
  記録管理学会 マネジメントのしくみ
ISO9000などの文書管理はどちらに入るのでしょうか。

おっしゃる通り、記録管理学会はマネジメント(今ある記録の活用と、それに基づく組織運営の改善)のほうにより重点を置いて活動しています。一方、日本アーカイブズ学会は歴史的資料の整理・活用という点に関心をもつ会員も多いのですが、今ある記録の保存・活用に関心をもって活動する会員も少なくありません。両学会に所属する研究者、実践者も多く、オーバーラップは確かにあります。ISO9000などの文書管理は、今のところは記録管理学会のフィールドと言えます。

①個人・企業の記録(偉人伝・社史や産業史)は、アーカイブの中でどう位置づけ、活用するのか?
②記録のスタイル(文体やデータサイズ等)が一定の基準に沿わないと、利用・活用が限られるのではないか?その規格がISOなどにあるのか?

①講演で言及した「機関アーカイブ」「収集アーカイブ」の枠組みに基づけば、個人の記録は「収集アーカイブ」に当たります。企業の記録は「機関アーカイブ」の性格を帯びますが、企業で活躍した経営者らの個人記録に依る側面も大きく、「収集アーカイブ」の側面も含みます。
②おっしゃる通り、記録の利用・活用のためにはそのスタイルに関する基準が必要です。そのための規格としてISO15489などの国際規格があり、国内規格としてもJIS X 0902が存在します。

①政府が個人情報の記録を残すことに、国民の嫌悪感はないのでしょうか?
②誰がアーカイブとして個人情報を取り扱うべきなのでしょうか?

①これは現に存在しており、個人情報保護法の施行後に国勢調査の回答率が大きく下がった、また国によるその他の統計調査でも回答率が落ちている、と言われています。
②誰が、というよりも、どのような基準(収集・保存・公開に関して)のもとで個人情報を取り扱うべきか、を考える必要があると思います。個人情報の漏洩によるリスクは、国・自治体の管理でも企業の管理でも大きく異なるところはないと考えます。

<方針や規制の記録は(当事者・権限者)の交渉、アリバイとして対象となるのは明白だが、>
個別交渉(取引)が非現用文書となったときの保存の可能性(範囲)の考え方はどうなるか?
・個別交渉(守秘義務、個人情報保護の制限)
・保存の片寄りと全体性の相克の解消法
cf.通用・流通・公開されたものの採集・保存過程

明確な回答はできませんが、さまざまな法律・規則において個別交渉の記録に関する保存年限が定められており、その限りで保存年限を守っていればよい、とは言えます。もっとも今後の訴訟の動向もあわせて考察する必要はあるでしょう。やや古くなりましたが、抜山勇・作山宗久『文書管理と法務』(ぎょうせい、1997)を参照して下さい。

文書館と史料館との違いがよく理解できませんので、わが国の現況をふまえて、その相違を教えて下さい。

一般的には、文書館=機関アーカイブズ的役割(親機関から体系的に文書記録を収受する)が期待される、史料館=歴史的資料を自治体や個人宅などさまざまなところから収集し保存する、という区別があると考えられます。しかし日本の現状では、両者は明確に区別されてはいません。

質問で、マイクロの効用を見直す・・・といわれますが、国内の生産は打ち切られ、供給が危ぶまれるので、東京国立博物館などでは、デジタル化に移行していますが、デジタルと別の保存のしかた。長期保存の媒体としてかんがえられるのか。また。その媒体自体のメタデータはどうするか、お教えください。

デジタルデータについては、できるだけ特定のソフトウェア等に依存しないフォーマットで保存することが望まれます。しかし、PDFで固定できるようなものはよいのですが(PDFがISO標準として定められたため)、動画、音声、GIS等のデータについては今後の標準整備が課題となります。保存のためのメタデータに関しては、さしあたり、後藤敏行「デジタル情報保存のためのメタデータ:現状と課題」『情報管理』50(2), 2007, p. 74-86(http://johokanri.jp/ よりアクセス可)を参照して下さい。

アーカイブの定義 仕組みからの説明が多いが、何のためにアーカイブが必要なのでしょうか?
年金記録、薬害関連記録など、トレーサビリティへの関心の無さに起因していると考えます。記録管理、情報管理の重要性を論じる前に、何のために必要なのかを考える必要があるのではないでしょうか?

何のために残すか、というのは「過去の行動や方針を検証し、将来の行動・方針の改善につなげる」という点、また「被害や権利侵害に関しての証拠を保全し、救済につなげる」という点が大きいと考えます。これはおっしゃる通り、「トレーサビリティ」への関心をいかに高めるか、にもかかわってくるでしょう。年金や薬害の記録のほか、アスベストをめぐる問題を思い出してみて下さい。下記のQ.12、 A.12も参照して下さい。

①年金問題からもアーカイブの工程に人の手があまり入らない方がいいかもしれないが、自動で行えるようにすることは可能か
②図書館の目録作業も将来人の手による作業はなくなってしまうのか、ぜひ先生のお考えを教えていただければ幸いです。

①年金納入のしくみと、それに伴う記録システム(金融機関と社会保険事務所のシステムの連動・統合?)をうまく整備すれば、自動化は可能かもしれません。しかし、システム上で自動化をしたところで、その不具合について誰が責任をとるか(政府の側か、システムを構築する側か)、また自動化された記録は長期的に保存されるのか(上述のミグレーションなどの問題)、といった点も考えないといけません。
②これも①と同様に、「自動化と目録の品質保証」をいかに両立させるか、の問題として考える必要があるかと思います。あわせて、目録に関する方針(どのような基準で目録データを整理するか)を国際レベルで見直す動きが現在ありますが、こうした方針変更の際に自動化のコストがどれだけかかるか、という点も考えないといけません。

先生のお話をお聞きして私のおもい!
何が大切であるか?過去の全記録を検索し、取り出す仕組みが事件発生時にさかのぼり、調査できることが懸命な処置であるが、かくす体制では、悪い例の繰り返しとなる。失敗は賢くなる源であると考えたい。

この点はまさに講演で触れた「失敗学」の考えに通じるものがあると言えます。「悪い例」を繰り返さないためにも「失敗」を分析するしくみが必要であり、その前提としてのアーカイブや記録管理の存在価値がある、と言えます。

①日本では、機関アーカイブ(特に政府の)規則は、NDLが担っているのではなのか?
②また米国では、文書館も州立が確立されているが、今後の日本のアーカイブ活動で、地方が担う役割はどうか?

①国レベルで言えば、実際にはNDL(国立国会図書館)ではなく、国立公文書館が担っています。もっとも、同館への体系的な記録の移管はなかなかできていないのが現状です。
②公文書館を有する日本国内の自治体は全体の0.5%程度に過ぎません。まずは公文書館の意義を地方レベルでどう伝えるか、を考える必要があります。日本国内の公文書館のリストはhttp://www.archives.go.jp/links/index.html#Sec_02をご覧下さい。

国家間の密約文書や失敗の記録を完了が正直に記録として残すとは思えないのですが、誰が内容を選択し、誰が記録の内容の正確さを保証するのでしょうか?

国の記録・文書はひとつの権威として機能しますが、内容が正確であるとは限りません。個人が残している文書、また関係者への聞き取り(オーラル・ヒストリー)などを通じて、記録・文書の内容について検証を進める必要があります。専門職としてのアーキビストに求められるのは、文書や記録の「出所(誰が、あるいはどのような組織が作ったか)」の正確性を保証することにある、と言えます。

官庁組織においては、スペース優先で廃棄が行われやすい。また意思決定過程の文書については(責任を追及されるのを恐れ)極力廃棄をすすめる慣習があるのではないか?

こうした慣習はしばしば指摘されていますが、講演で触れた通り、「公文書管理法」の制定に向けての動きがあります。法制化によって、意思決定過程の文書も適切に保存されるようなしくみの確立が期待されています。

「何をなぜ残すのか」について伺います。国や地方公共団体の一例としての東京都の違いや役割分担について、より詳しくお教えいただけないでしょうか。あくまでも参考ですが、、プラス面、マイナス面があるのではと思います。

政府・自治体といった組織の活動に関しては、その政府や自治体自身がどこよりもよく知っている、という意味で、それぞれが文書や記録の保存・管理について責任を負う必要がある、というのがまず言えるでしょう。また、国にせよ自治体にせよ、記録管理や文書館活動についてどこかが「ベスト・プラクティス」「グッド・プラクティス」を示し、学協会などがそのPRや普及に努める、というあり方も考えられます(国が模範を示す、というよりは)。

年金データについては、かなり杜撰な扱いであるようだが、日本の行政の記録は、他も同様なのか?

国レベルの記録管理の現状については、「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」のなかで取り上げられています。第5回の会議(2008年5月15日)で示された現状調査・視察結果に関する資料(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/koubun/dai5/5siryou.htmlよりアクセス可)などを参照して下さい。また、情報公開法に基づく文書の公開請求に対して、行政側が「文書が存在しないから請求に応じられない(文書不存在)」と回答したものの、実際には文書管理が不適切であった、といった事例がしばしば見られます。

①文書の保存にあたり、主に企業のアーカイブでは何を基準に「保存」と「廃棄」を判断すべきでしょうか?
②海外では、「デジタルアーカイブ」に当たる概念や用語はあるのでしょうか?

①Q7の通り、まずは法律・規則等でどのような文書の保存年限が定められているか、を確認する必要があります。その上で、企業活動を継続するのに欠かせない文書・記録は何か(「基幹文書(vital records)」とも言われます)、といった点を考慮する必要があります。
②実は、もともと「デジタル・アーカイブ」は和製英語であり、英語でそれに当たる概念・用語は存在していませんでした。現在では、日本発の「デジタル・アーカイブ」のことばが海外でもある程度は浸透・通用しているようです。

①"継続的に利用する価値がある"として誰が判断するのか(特に公的な面)
②機関アーカイブ、収集アーカイブに著作権的なものがあるのか(認められている保護されているのか)

①この点は本来は専門家としてのアーキビストとしての役割になります。アーキビストとしては文書の取り扱いの仕方のみならず、組織の業務実態や組織運営にかかわる法規・制度なども理解をする必要があります。
②機関アーカイブ、収集アーカイブを問わず、「公表を前提としていない資料(著作物)」にも著作権があるかどうか、という話になるかと思われます。日本の著作権法では、著作物を公表するかどううか、が著作権の一部に含まれる(公表権。著作権法第18条)ため、著作権法を根拠としてアーカイブを公開しない、ということも認められるかと思います(この点は特に個人の文書に当てはまるでしょう)。ほか、アーカイブの複製・出版なども著作権の対象となります。もっとも、政府の文書については著作権をタテに文書等を非公開にするのは許されるか、政策レベルでの検討も必要です。
下記の拙稿もご参照下さい。
http://research.nii.ac.jp/~tkoga/text/in_law03.html

アーカイブは活動、業務の内で、情報の発生から記録されたものから管理するとのことでしたが、情報は文書化、記録と密接不可分だが、会話、電話のように記録されないウェイトが大きいものもあるので、記録管理は、情報管理上、限界があるものではないでしょうか。

確かに「記録されない情報」は十分カバーされない、という問題があります。むしろ、「何をどのような形態で文書化(記録)するか」の規則や方針をどのように定めるか。また、その規則や方針の妥当性が検証可能なかたちとなっているか(政府の記録に関しては法あるいは条例として定めるのが望ましい)、についての検討が必要でしょう。

アーカイブのしくみに求められるものの項で、(1)情報の評価・選別=何を残し、何を捨てるかの判断
この判断の基準は何ですか?何を基準にするのですか?

何を基準にするか、というのは長年にわたってアーカイブにおける大きな難問となっています。日本においては(特に公文書管理については)個々の文書の重要性(例えば条例に関するもの、自治体の長期計画に関するものなどを残す)が評価・選別の基準となる傾向があります。一方、欧米圏などでは「どのような文書を残せば、組織の活動を適切に反映したことになるのか。また、記録がつくられた当時の社会状況をいかに反映させるか(企業の社会的責任(CSR)ともかかわる)」といったところに注目して評価選別を行っている(個々の文書よりも、組織や社会のありかたを先に見て評価選別の基準を考える)、と言われています。

「情報を適切に保存する」には、
・最初にどのように保存するか?
・保存されている状況を、どう管理するか?
の両方をみたす必要があると考える。本日は、主に前者の話であると感じたが、後者に対する考えをお聞かせ願いたい。

後者の点については、前述のような「ミグレーション(媒体変換)」が大きくかかわってきます。それから「保存」と「利用(あるいは「再生可能状態」の持続)」を切り分ける、ということも必要となります。原本(オリジナル)はもっぱら保存に専念させ、マイクロ媒体や「デジタル・アーカイブ」に変換したものを利用に供する、といったことです。

組織マネジメントの問題とした場合、長期保存するものとして、どのような情報が適当なのか。具体的な例を教えてください。

何が長期保存すべき文書・記録なのか、というのは組織によって異なりますが、上記A.18の「基幹記録(vital records)」が「長期保存すべき文書・記録」に当てはまります。具体的には、外部との取引に関するもの、法務に関するもの、組織運営に関するものなどが該当するでしょう。

公文書管理における国立情報学研究所の役割はどのようなものか?

あいにく、NIIでは公文書管理について特別な役割を負ってはいません。

物理的な保存スペースはどう考えているのか?資金はどうするのか?

保存スペースと資金については各組織で検討するしかありません。もっとも、文書等の保存を専門的に請け負う企業もいろいろ存在し、そこへ「アウトソーシング」する、という選択肢もあり得ます。

shimin 2008-qa_3 page2592

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