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平成19年度 第1回 Q&A

第1回 2007年6月7日(木)

脳科学とロボット
--人間と同じようにロボットも考えられるのか?--

稲邑 哲也(国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系 准教授)

講演当日に頂いたご質問への回答(全25件)

※回答が可能な質問のみ掲載しています。

人間の脳と同じ機能のロボットを作るために、ニューロンなどを分析するミクロ分析だけではできないことは証明されているのか?

人間の脳と同じ機能のロボットを作るために、ニューロンなどを分析するミクロ分析だけではできないことは証明されているのか?

人が賢いのは、
①概念化して記憶している点→私も同感です。
②自らが行動するためには、「問題意識」、「希望」、「欲求」...と言った「概念」が必要になるかと思いますが、どうでしょうか?

はい、ご指摘の通りだと思います。
本当に人間と同じような「賢さ」を求めるのであれば、人間が営む生命活動に踏み込むような「概念」すなわち、本能に基づく欲求、感情や情動などが非常に重要となってくると思います。生命活動以外にも、信念や意図なども重要なキーワードとなってきます。人工知能や知能ロボティクスの研究者達はこれらの概念をいかに人工物の上に実現させるか、というテーマに現在チャレンジしている段階です。

現在、思考の源とは「脳」という解釈が一般的であるが、他の思考媒体はあるかどうか。

このご質問に対する回答は「思考」の定義に依存すると思います。例えばサッカー選手がいかにゴールを決めるか、という問題を思考する時、自らの身体能力、身体から得られる感覚などが重要になるので、脳だけでなく身体で「思考する」と言えるかも知れません。

非常におもしろい講演で参考になりました。一点、気になったことがあります。
子供が大人のマネをしながら言語を学んでいく時、どのような状況で使われたかも同時に学んでいくように思います。概念化(シンボル化)をするためには、動作が行われる状況も必要なのではないでしょうか。
動作をただ学ぶだけではなく、どのような状況で(どのような効果をねらって)その動作が行われたかを学ぶことにより、状況への適応(アドリブ)ができるようになるような気がします。動作同士の関係性より、そちらの方が有効ではないでしょうか?(素人考えで申し訳ありません)

ご指摘の問題は、文脈や状況への対応問題と言い換えることもでき、まさに知能ロボットではいつも議論に上る話題です。
今回、動作の間の関係性という概念を提案しましたが、この関係性には、単純な「似ている・似ていない」というレベルから、「この状況ではこの動作が適切」「別の状況では別の動作が適切」という高次判断を伴う関係性も含まれるべきであると考えています。今回の話題に取り上げた位相空間構造を用いた関係性の表現を発展させ、文脈や情動の表現ができないかどうか、現在研究を進めているところです。

文脈をどうやって形成するのか?
文脈がひっくりかえる瞬間にどう対処するのか?

Q4の回答をご参照ください。

同じ行為、行動でも文化の違いにより、解釈が違うことが多々ある。例えば日本人の手招きと外人のあっちへ行け。

Q4の回答をご参照ください。

今回は行動を数値的なものに落としこんでいるが、例えば同じ手を挙げる行為でも人によって解釈が変わる。そのあたりをどうロボットで実現するか?

Q4の回答をご参照ください。

おもしろい講演ありがとうございます。
家庭に言語を使うロボットが入っていく場合、まずは、どのような用途で使うものになると思いますか。
それは、何年後になると思いますか。
10年後、20年後は、どのような用途に使えるようになってほしいと思いますか。

まず家庭において言語を使えるようになるシステムとしては、テレビやエアコンのリモコンのボタンを押す代わりに言葉で指示を出すような使い方から実現して行くと思います。
10年後、20年後には、食器を洗ったり、洗濯物をたたむような、道具を用いる動作の実現をしたいと考えています。

①原始シンボル空間を用いた表現や情報処理は、人の脳が真似る場合に活動する領野との対応関係があるのか?
②ミラーニューロンに到る前、後の活動領野は見つかっているのか?

①について:
今回ご紹介した数理モデルは、あくまでミラーニューロンと呼ばれる現象にヒントを得て工学的に実装したものなので、直接的な関係はありません。
②について:
ミラーニューロンという言葉の定義そのものが曖昧な状況なのですが、ある特定の一部分の領域を指すのではなく、脳の広範囲にわたる一連の現象として捉えるべきである、とする考え方も多くあります。そのような場合、ニューロンという言葉が誤解を与えるので、ミラーシステムと呼んだ方が良いとする意見もあります。そのような意味ではミラーシステムは運動前野のF5領域をはじめとして、頭頂連合野の一部であるPF野、上側頭溝領域(STS)なども関連が深いと言われています。

ヒトの脳とロボットのCPUでは、計算方法などハードウェアが大きく違うと思いますが、この差を吸収するためにどんなことが必要でしょうか。また、どんなハードウェアが実現すると良いのでしょうか。

ヒトや動物の脳とコンピュータのCPUの間には、様々な相違点がありますが、大きな違いの一つに並列処理性があると思います。コンピュータでも並列計算に特徴のあるアーキテクチャが開発されていますが、高々数十の並列性のオーダーであり、ヒトの脳のように数百億の神経細胞で実現できる並列性とは本質的に異なります。
この点に関して言えば、世界中に点在するコンピュータを連結させ、膨大なオーダーの並列計算をするような試みが、脳型の情報処理に近づく一つのアプローチになると思います。

コミュニケーションには他者のみならず、自己認識が必要ですが、ロボットの自己・自我はどのように実現されるのでしょうか。

この問題はまさに今、研究者が取り組んでいる最新トピックになります。
自己や自我を計算機上のモデルで表現するために様々な手法が提案されていますが、根本的な考え方としては、自分で予想した事と、外部から得られる情報の間のギャップを用いることで自己を認識するという考え方があります。すなわち、自分の予想と違う挙動をするものは他者、自分の予想通りに動くものは自己、という認識の仕方です。
この考え方に基づく様々な手法がロボットや人工知能の分野で議論されています。

今日の話でいわれた「概念」は連続したものなのか、独立したものなのか。「こぼす」というイタズラをしてもロボットはちゃんとpourという、例えの中で気になりました。
識別の手掛りは何か?概念の区切りはなんだという発想ギモンです。

抽象的な議論になってしまいますが、概念は連続的なものであり、かつ独立的なものであると考えます。例えば「場所」に関して、連続的に様々な場所が連結していますが、それぞれの場所は独立した場所として我々は認識しています。それと同じアナロジーで動作に対する概念も記述したいという背景に基づいた手法になっています。

①ロボットは無意識な動作には、対応できるのでしょうか?また、開発対象には含まれているのでしょうか?
ex.立った状態で手を前に伸ばした時、無意識にバランスをとっているので、前につんのめらずにいられる。
②外から見た動作の情報だけをまねても、動きは身につかないのでは?
例えば、「職人の技を盗め」というか、実際は、見た情報を参考にしつつも、自分で工夫しないと身につかない。

①について:
「無意識」の定義が難しいのですが、例として挙げられているようなバランスを取る挙動に関しては、目的となる行動実現とは別に並列処理を行いバランスを取るようなロボットが実際に開発されています。
②について:
ご指摘の通り、見た通りの動作パターンを実行しても、職人の技を盗むような事はできません。そのため、ロボット自らが試行錯誤しながら動作を修正して行くようなアプローチが必要になります。
その研究については時間の関係から紹介できませんでしたが、ご興味のある方は、稲邑の過去の研究発表論文のページをご覧下さい。
http://www.iir.nii.ac.jp/inamura/

①認知症、アルツハイマー、健忘症は人間だけの現象ですか。チンパンジー、サル、ネズミ、その他動物は?
②先天的(本能)あるいは、後天的(学習)での記憶は根本的に違い、後天的記憶は、老化と共に忘れやすい?昔のことは憶えているが、新しいことは忘れやすいのは何故ですか?動物や植物は本能(遺伝子、DNA)中心で生きている?

①について:
私の専門は医学ではないので、正確な状況は正直良く分からないのですが、私の知っている限りはヒトに特化した症状であると思います。
②について:
この問題についても医学の専門家でないと正確な事が言えないと思いますが、昔の記憶は長期記憶と呼ばれるカテゴリに属する事が多く、一般的に忘れにくいとされています。その理由については諸説ありますが、例えば一例を挙げると、長期記憶を管理するメカニズムは、新しい情報に干渉されにくい構造になっているため、忘れにくくなっているという説があります。
また本能に従って生きているかどうか、という問いですが、ヒトに比べれば、多くの動植物は本能やDNAの働きによって動かされている側面が大きいと思います。

行動の(低次元で)空間的表現上の操作から行動を生成するところで、不良設定問題(逆問題)が生じると思うが、どのような制約を設けて解いているのでしょうか?

不良設定問題を解くカギとなっているのが、隠れマルコフモデルと言えます。隠れマルコフモデルは複数の似たような動作パターンを抽象化してパラメータ表現に変換するツールと解釈できます。生成時には複数の動作パターンの平均的な動作を出力する制約があるので、これによって不良設定問題を解決していると解釈する事ができます。

ロボットの頭脳には"過去"の経験、知識、情報しかインプットできないので、経験のないこと、イメージできないことが、日常的出現するので、ロボットは常に欠点を有していることを解消できず、不完全なもので、人間生活で使用するにはいつも制約があるのではないでしょうか。

はい、その通りだと思います。
人間でも同じ事が言えると思いますが、経験の無い、全く新しい状況に対応する能力には限りがあります。人間がそのような状況に陥った場合、周りの人に質問をし、助けてもらいながら社会的な行動を取ると思います。
ロボットも同じように,未経験の状況に遭遇した場合には、近くにいる人に助けを求めるというのも、一つの戦略になりうると考えています。ただし、いつでも同じような事を毎回質問するのは賢くないので、経験を次に活用するような知能の枠組みや、高度なコミュニケーション能力は必要になります。

鳥や昆虫にも非常に賢い種類のものがいるので、それらの脳の働きが、ロボットを賢くするための参考になりませんか?

はい、ご指摘の通りです。
人間や霊長類以外にも、昆虫の脳の構造を参考にしてロボットを構成する研究などは良く行われています。また、集団で生活する生物の、群全体としての合目的的な挙動のメカニズムを研究するアプローチも取られています。脳科学以外の生物学者と、ロボット工学者との間でディスカッションする場も近年増えて来ていると思います。

ロボットが人間に非常に近い外観とコミュニケーション能力を持つと、「不気味の谷」が大きな問題になってくるのではないかと思います。ロボットを家族に導入していく上で、このような問題をどのように解決していけば良いと思われますか?

一つのアプローチとして考えられるのは、人間に似た外見を持たせない、というものです。例えばドラえもんや鉄腕アトムのように、アニメキャラクターのような外見をしているロボットを家庭に導入すれば、「不気味の谷」の問題は回避できると思います。
外見ではなく、コミュニケーションの能力から考えると、現在の技術ではまだまだ単調で機械的な会話であるので、「不気味の谷」を心配するようになるべく、研究を発展させる必要がある、という状況であると言えます。

サリーとアンの課題について。
サリーが自分がボールを籠と箱のどちらに入れたか忘れてしまった場合や、完全に勘違いして籠からすっと取り出してしまった場合など、大人だからこそ他の可能性を考えることもあるかと思います。
その場合、「籠から取る」と答えた大人についての評価はどうなるのでしょう?
そもそも、そんな疑う考え方をする被験者は想定していないのでしょうか?

「籠から取る」という答えが得られた場合に、さらにその理由を問うことで区別ができると思います。「サリーが忘れてしまったから」「サリーが勘違いしたから」という答えが返ってくれば、それは他者の立場に立って思考を行っていることになるので、心の理論を検証できることになります。

ミラーニューロンですが、入力モダリティと出力モダリティに依存しない情報表象を担っているという考え方がありますが...。マルチモーダルニューロンというのも見つかっているようです。

はい、ご指摘の通りで、ミラーニューロンというのは一般的な通称なのですが、正確に言うと「マルチモーダルミラーニューロン」と呼んだ方が良いくらいです。動作だけでなく、触覚・視覚・聴覚などの様々なモダリティに関与するようなモデルへと展開する研究も現在研究室で行っています。
詳細については、http://www.iir.nii.ac.jp/index.html をご覧下さい。

脱線的な質問で申し訳ありません。
ロボット工学ときくと、アイザック・アシモフを、つい連想してしまうのですが、ダニール君は理想のロボットという事になるのでしょうか...?(皆様はご存知ないと思いますので、回答いただかなくても構いません)すみません。

「ロボット」はどうあるべきなのか、という定義や目的に依存すると思います。人間と同じように生命活動を行うシステムを人工的に構築することが目的であるならば、ダニールは理想であると言えるかも知れません。ロボットという言葉が最初に使われたのは、カレル・チャペックという小説家によって執筆された戯曲「RUR」の中で、人間の代わりに労働をする物とされています。このような定義から考えれば、ダニールは理想ではなくなります。

ロボットが人間と同じ様に賢くなったとして、人間をロボットと同じ様に賢くする事はできるでしょうか?

今回の市民講座では時間の関係からお話できませんでしたが、人間の脳や神経系に人工システムを取り付け、人工システムに脳の機能を補助させるような試みが近年始まっています。例えば眼や耳に疾患を患っていらっしゃる方のための、人工網膜・人工内耳などが一例です。このような技術の延長線上には、人間の能力をコンピュータによって拡張する可能性があるかも知れません。
ただし、「コンピュータやロボットのような賢さ」は、大量のメモリ、正確で高速な計算能力であり、そのような賢さの実現可能性は、かなり低いと言わざるを得ないと思います。

人間や、ほとんどの動物の脳は眠りますが、ヒューマノイドロボットに脳科学からアプローチする上で睡眠は必要ですか。

生物学的な「睡眠」がなぜ動物にとって必要なのか、脳科学の側面からは、残念ながらその答えはまだ分かっていない、というのが現状であると思います。ただ、別の側面から考えて、ロボットが活動を一時的に休止し、メモリ(記憶・経験)を整理する必要性は重要なので、比喩的な「睡眠」は必要かもしれません。

同じような動作でも、周囲の環境によって概念が異なる場合もあると思いますが、ロボットに環境や雰囲気を理解させる研究はありますか。

周辺にどのような障害物があり、人がどの位置に立っているか、というような環境情報を認識する研究は昔から良く研究されてきています。しかし、雰囲気を理解したり表現したりする事は非常に難しく、現在挑戦的に研究を進めている人が登場し始めている、という段階であると思います。

研究のゴールは何年後にくるのでしょうか?

何をゴールとして設定するかに依存すると思いますが、例えば、数十の単語に基づいて、数百種類の動作を表現するようなシステムは今後3年~5年くらいかけると実現可能であると考えています。

shimin 2007-qa_1 page2599

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