研究 / Research

副所長

安浦 寛人
YASUURA Hiroto
副所長/学術基盤チーフディレクター
学位:Doctor of Engineering(Kyoto University)
研究内容:https://researchmap.jp/Hiroto-YASUURA

研究紹介

歴史に学べない時代に次世代学術情報基盤を構築する

歴史に学べない時代の研究開発

最初のコンピュータが生まれたのは1946年。それから80年足らずで、当初の性能をはるかに凌ぐ情報機器を小学生からお年寄りまで誰もが使える時代になりました。

情報科学の進展はすべての社会インフラに影響するため、この間に私たちは産業革命にも匹敵する大変革を幾度となく経験してきました。これほど急激に変化が起きた時代は過去に例がなく、私たちはある意味で「歴史に学べない時代」の只中にいると言えるでしょう。

このように変化が激しく未来予測が難しい時代の研究開発には2通りの方向性が必要だと考えています。1つは、研究者が発見した基礎研究の成果を利用して製品を作り、その製品を利用したサービスやシステムを社会で運用し、その結果、社会の制度や文化が醸成されるというボトムアップの「技術シーズ積層型研究開発」です。これは従来、日本が得意としてきた研究開発法です。

一方、今後重要性が増すのが、「どんな社会にしたいか」という社会のニーズから出発する「社会ニーズ主導型研究開発」です。思い描く社会をつくるためにどのような社会システムや製品が必要で、どのような技術課題や研究課題があるのかを見定めていきます。私が九州大学の広大な新キャンパスを「新しい社会都市のモデル」とし、自動運転やDXを導入した取り組みもその一例です。社会ニーズ主導型研究開発の場合、研究者には社会のニーズを知るために多様な社会の人々と議論を重ね、今ある常識を当たり前と思わず自由な発想をすることが求められます。

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5階層の社会モデルと2つの研究開発の方向性

NIIが構築する次世代型学術情報基盤への期待

私は2000年ごろから情報技術はあらゆる社会活動・社会インフラの基盤となるので、社会情報基盤を展開・発展させることの重要性を強調してきました。正にNIIは、日本の学術界全体が利用できる情報ネットワークの構築・運用やデータ管理など新しい学術情報基盤の構築に対して大きな責務を担っています。研究データを公開する「オープンサイエンス」という世界的な潮流の中で、次世代学術情報基盤を構築する取り組みを始めています。

NIIがこうした重要な役割を果たせるのは、NIIに最先端の研究者と学術情報基盤を実際に構築・運用している技術者が所属しており、実社会のニーズやそこで起きている問題の本質を、双方で議論できる理想的な環境が整っているためです。

一方、私は、文部科学省の科学技術・学術審議会の情報委員会で主査も務めています。ここでは、日本の学術情報基盤の将来像や研究および教育のDX化について多様な学術領域の方と議論をしており、次世代学術情報基盤への要望も広く聞くことができます。それをNIIの研究者、技術者へ伝えていくことが私の役割の一つです。

情報科学に関わる者は、最新技術を常に取り入れながらも、今あるシステムを安定的に運用する大きな使命を担っています。NIIの強みと私のこれまでの経験を生かしつつ、立ち止まることなく次世代の学術情報基盤づくりに貢献していきたいと考えています。


取材・構成 大石かおり

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