研究 / Research

情報社会相関研究系

古川 雅子
FURUKAWA Masako
情報社会相関研究系 准教授
学位:博士(情報学)
専門分野:学術情報
研究内容:http://researchmap.jp/mfuru/

研究紹介

もっとあなたらしい学びにつながる「学習分析」

パソコンや携帯電話などからインターネットに接続して学ぶことを「eラーニング」といいます。eラーニングを利用すると、"学習者がいつ、どこで、何をどのように勉強したのか"という履歴「学習ログ」が、サーバに残ります。このような教育に関わるデータはどんどん蓄積されており、教育ビッグデータと呼ばれるほど大きくなっています。そんな中、学習行動を明らかにできるとして、学習ログを分析する「学習分析」が、欧米を中心に注目されています。そこで私は、学習者に個別の学習支援をすることを最終の目標にして、学習分析に取り組み始めました。

教材をつくっていたからわかる「学習分析の必要性」

私は前職で、外国人向けにeラーニング用日本語教材をつくっていました。日本で暮らす外国人にとって、日本語を身につけることは重要な課題です。悩みも苦手も人それぞれですから、常にその人に寄り添って教えることができると一番いいのですが、それはできません。代わりに、必要な日本語力を効率よく習得できる教材をつくることにしました。
言語学習では、読む・書く・聞く・話すという習得すべき4つのスキルがあります。例えば話すスキルを体得するには、自分が言ったことが正しかったのかを確認できると便利です。そこで話した言葉を、音声認識を使って取り込み、平仮名で表示する機能を開発しました。また、学習履歴を基に、自分の苦手な単語だけを集めた単語帳を自動的につくる機能も搭載しました。これらの機能は、それぞれの学習者に対応することを心がけた結果、生まれたものです。これらの経験から、教材づくりのプロセスや難しさを学びました。
一方で、教材をつくると、自分たちが工夫してつくった機能がどのように使われているのか、また、狙ったような学習効果が出ているのか知りたくなります。その答えは、学習分析から得られます。また、そこには教材を改善するためのヒントも含まれています。これまで教材づくりや評価は、ベテラン教師によってその経験に基づいて行われてきました。それがデータに基づいて行われるようになるため、判断の根拠や学習効果がより明確に示されるようになるでしょう。

学習分析でできること

学習分析では、教材の改善につながる情報を得られる以外に、学習者個人の情報を分析すれば、その人にあった教材がわかったり、"ついていけなくなりそうだ"などといった学習状況を把握したりできます。学習者を集団ととらえればその傾向も明らかになります。こうした情報は欲しい時にいつでも得られるので、これからは学習行動により細やかに対応できるようになります。そして教育に関わる全ての人にとって、学習分析は重要になるでしょう。

ビッグデータと利用者との橋渡し

現在、私は、オンライン教育を行っている大学と共同で、学習ログを蓄積するための倉庫をサーバ上につくっています。倉庫が完成したら教材や映像の視聴履歴やテストの結果といった学習ログを集め、さらに集めた学習ログをどのように分析すれば価値のある情報を見いだせるかを提案します。こうして初めて、教育ビッグデータと、それを利用する人たちの間を橋渡ししたことになるからです。
多くの人が関係する学習分析にはそれだけ様々な利用価値が考えられます。しかし、教育ビッグデータで何ができるのか見極めるには、ある程度の時間が必要です。学習分析の真の価値を知るためにも、息の長い取り組みにしたいと思っています。

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取材・構成 池田亜希子

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