研究 / Research

情報学プリンシプル研究系

井上 克巳
INOUE Katsumi
情報学プリンシプル研究系 教授
学位:1993年,博士(工学)
専門分野:知能情報
研究内容:http://research.nii.ac.jp/~inoue/official/content_j.html
研究室WEB ダイナミック環境で推論・意思決定するAI

サイエンスライターによる研究紹介

コンピューターによる科学知識の発見に向けて

人工知能研究は、人間のさまざまな能力をコンピューター上に実現してきました。まだ十分に実 現できていない人間の能力に"発見する"、"発明する"という行為があります。「発見・発明」とは、 今まで誰も知らなかった新しい理論を作る創造的な行為ですが、これまでに蓄積された情報・知識 を利用するとともに、人間の発見能力に相当する部分を組み込むことで、コンピューターにもできる と思っています。

コンピューターと人間の思考の違い

1980 年代からコンピューター技術開発の国家プロジェクトにかかわるなど、人工知能研究に携 わってきました。それは賢いコンピューターを作ろうという試みで、私は、人間の思考方法に関す る基礎理論を研究していました。 コンピューターは本来、論理の飛躍をしないことが特徴とされます。つまり、前提となる事実か ら論理的に筋道が通るものを導き出します。そこに曖昧さはありません。一方、人間の思考には曖 昧さや飛躍があります。つまり、十分必要な前提条件がなかったとしても、過去の経験などをもと に結論を導くことがあるのです。この飛躍が人間の知能の大きな特徴の1つです。

未知の科学知識を発見する

コンピューターに人間的な思考をさせようと研究しているうちに、科学の発展に寄与するような知識 を発見できないだろうかと考えるようになりました。「発見」とは新しいことを見つける、いわば飛躍 です。具体的には、観測事実や目標とする現象が、これまでに得られている知識からは説明や実現でき ない場合に、欠けた部分にあたる仮説を立てます。それが過去に誰も考えたことがないものであれば「発 見」になるのです。 今、生物を全体としてとらえる「システム生物学」が注目を集めています。これまでの生化学研究に よって、遺伝制御や酵素反応、代謝など生物の部分はわかってきています。それを全体としてとらえよ うとすると、どうしてもわからない部分があって仮説が必要になります。生物学に限らず一般に科学で はこれまで、仮説は研究者たちによって立てられ、検証されてきました。生化学の知識が蓄積され膨大 になった今、もし多くの情報を扱うことを得意とするコンピューターに発見ができるとすれば、生物 学・工学・医学・薬学などの学問や人間の暮らしは、いちだんと進歩するかもしれません。 そこで、システム生物学の発見に対して、以前から考えてきた数学的な推論方法を使って仮説を生成 しようと考えてみました。しかしながらこのやり方では、生成される仮説の数が多過ぎて扱いきれない という問題に直面しました。それも、確率の手法を使うことで、仮説に優先順位を付け絞り込みができ るようになってきています。コンピューターが出すのはあくまでも仮説ですから、正しいかどうかは実 験による証明が必要です。そのために、生化学の研究者の力を借りなければなりませんが、生化学の側 でも、コンピューターが提示する仮説が大きな発見につながるのではないかと期待してくれています。 科学知識の発見にはまだまだ解決すべき難題が多いですが、生化学分野で成果が得られれば、さらに 多くの分野の発見・発明につなげていきたいと考えています。

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取材・構成 池田亜希子

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