研究 / Research

望み通りにモノを動かす 〜「制御理論」がもたらす新しい世界へ

あらゆるモノがインターネットを介してつながる「IoT社会」。これまで無関係に存在していたモノ同士が関わり合うことで、まったく新しい便利さや価値が生まれる。より多くのモノをつなげて望み通りに動かすためには、 ネットワークを介した制御を行わなければならない。この制御に費やす通信や計算、電力といったリソースをいかに抑えられるか。この問いに挑んでいる。

最初から制御を志していたわけではない。幼い頃に伝記を読み憧れたのは、湯川秀樹博士。その後に続きたいと、大学入学時には素粒子物理学の研究者を目指していた。それが、偶然受講した制御工学の講義で変わった。「数式ばかりの物理学科の授業の中で、制御工学が扱うブロック線図を知って、物事をこんなふうに分かりやすく表す方法があるのだと新鮮に感じた。これで面白いことができると思った」。自分が進むべき分野を見つけた瞬間だった。以来、制御の中でも、得意の数学を活かせる「制御理論」に取り組んでいる。

制御とは「モノを望み通りに動かすための技術」である。つまり、"動き"のあるものはすべて"制御"の対象になる。それ故だろうか、研究対象を軽やかに変えながら世界を渡り歩いてきた。

始まりは大学3年生の夏。より良い研究環境を求めて渡米を決めた。留学先は、米国の名門校の一つ、ミシガン大学。専攻は何でも構わなかったが、アメリカらしいものをと、航空宇宙工学を選んだ。その後も、ニュージーランド、ドイツと国を移りながら、同時に再生工学、電気電子 ...と研究対象も変えていった。変わらないのは、どれも"制御"という目で見てきたことだ。「バネや質量を含む機械系とコンデンサやコイルを含む電気回路のように、一見、まったく違って見えるシステムが、数式で抽象化してみると、同じ制御理論で解釈できる。制御では"抽象化"の素晴らしさを感じることができる」

今、ネットワーク化制御の省リソース化に取り組むのは、NIIにいるからだ。「情報学の最先端に身を置くなら、 情報に関わる分野で制御理論を展開したい」

研究に必要なものは、紙とペンだけ。「半日も考えれば、くたくたに疲れきってしまう」というほど、ひたすら数式を解く。その視線の先には、制御がもたらす情報分野の新しい世界が広がっている。

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岸田 昌子
KISHIDA Masako

情報学プリンシプル研究系 准教授

Ph.D./イリノイ大学アーバナシャンペーン校より Ph.D.を取得/イリノイ大学ポスドク研究員、マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学特任助教及び助教、カンタベリー大学(ニュージーランド) レクチャラー、マグデブルグ大学での研究員を経て、 2016年より現職。

2015年、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団リサーチフェローシップ。制御理論と最適化をベースに、再生工学、生化学ネットワーク、統計、音響信号処理、行列解析など幅広い分野の問題に取り組む。

近年は特に、通信を介して制御を行う「ネットワーク化制御」における新しい理論の構築と種々の問題解決のための数理的アプローチの開発を目指している。

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