研究 / Research

IoT時代の効率的な無線通信システムを研究 〜 芸術が育んだ創造性を生かす

今後、IoT(Internet of Things)やM2M(Machine to Machine)デバイスが爆発的に増え、2020年には無線ネットワークにつながるデバイスは500億個にも達すると言われている。しかし、電波の周波数という資源は無限ではなく、すでに現在でも不足している状態だ。「だから、周波数を効率的に用いる、将来のための無線通信システムが必要なのです」

例えば、無線基地局の近くにいる人と遠くにいる人では、本来は近くにいる人の方が伝送速度が速く通信品質も高い。しかし、一つの基地局の範囲には何百人ものユーザーが存在し、通信路状態が厳しいからというだけで満足に通信できないのは不公平だ。「総伝送速度などのシステム全体の特性と、ユーザー間の公平性やサービス品質などの相反する指標について、いかに高次元でバランスをとっていくか。そこに面白みを感じている」

矛盾する要求を折り合わせるには、これまでにないアイディアが必要だ。圧縮センシングを用いた通信路アクセス法や、通信路情報とアクセス条件を連動させる方法など、理論的に裏付けられた新しい無線通信手法を生み出してきた。

実は10代半ばまで理数系には余り興味が無かった。幼少期からフランスで育ち、読書が好きで、ピアノやバレエに打ち込んでいた。将来はピアニスト希望だったが、転機は高校1年生の時に訪れた。フランスでは一度数学クラスから離れると、その後エリート養成機関の理数系グランドエコールへの進学ができなくなる。「選択肢は残しておいた方がよい」という両親のアドバイスもあり、理数系を選択。すると新しい世界が広がり、数学や物理の面白さに夢中になった。

グランドエコールでは工学を専攻し、修士で無線通信の研究を始めた。理論と応用のバランスの良さが気に入っている。日本に来たきっかけは、海外での滞在研究が修士号取得の条件となっていたからだ。NIIには2016年に入所。国際性を重視していて、海外や他分野の研究者とも交流しやすく、学際的な新しい研究を生み出せる環境が整っているところに魅力を感じている。

間もなく複数の国際共同研究が始動する。忙しい日々だが、ピアノやダンスのための時間を確保したいという。「パリのコンサートホールや教会でピアノ協奏曲のソリストを務めた経験は、研究で創造性を発揮することにおいても役立っていると感じる」。芸術が育んだ創造性が、これからも無線通信の世界に新しい技術を生み出していく。

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金子 めぐみ
KANEKO Megumi

アーキテクチャ科学研究系 准教授

博士(工学)/オールボー大学(デンマーク)・電子システム工学研究科博士課程修了/日本学術振興会特別研究員-PD、京都大学大学院情報学研究科助教を経て、2016年4月から国立情報学研究所准教授。

主な研究分野は、次世代移動体通信/IoT・M2Mシステム、無線資源割当、無線信号処理。限られた無線資源を最大限に生かした新しい無線通信システムの構築を目指す。

エリクソン・ヤング・サイエンティスト・アワード2009、IEEE Globecom Best PaperAward 2009、平成22年度 第10回船井研究奨励賞、WPMC Best Paper Award 2011、第27回(2011年度)電気通信普及財団賞テレコムシステム技術賞入賞などを受賞。

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