研究 / Research

社会のニーズに応える研究を 〜 デジタル時代の高等教育 新たな可能性を探る

日本における「大学IR(Institutional Research)」の先駆者。大学IRとは、大学の諸情報を収集・分析し、大学の経営戦略や意思決定に生かす取り組みだ。現在は、その知見をもとに、デジタル時代の高等教育の在り方を研究し、研究所の学術情報流通事業にも関与している。

デジタル技術は、情報流通の時間的・空間的制約を解き放ち、さらにその情報連結や自動解析の可能性により、人間社会のあり方を劇的に変える可能性を有している。他方、数値化による画一化を招く危険性も常について回る。例えば、研究者の評価は、その研究の内容ではなく、論文数や引用数などの量的指標が支配するようになった。しかし一方で、それら数値指標を丁寧に分析することで、個々の事象の特性を抽出することも可能である。「大学の経営戦略は、それぞれの大学の個性を引き出し、伸ばすものでなければいけない」。そう考えて、大学の特徴抽出を可能とする「全国版大学IR支援システム」を構想している。「研究で終わらず、事業化までを見届けられるのがNIIの魅力」

10代半ばまでドイツで育った帰国子女。音楽好きの両親のもと、幼い頃から音楽家を目指してピアノとバイオリンを学ぶ。コンクールで優勝するなど、才能も認められた。ところが、音楽大学受験を前に疑問が生じる。「自分は音楽が好きというより、褒められるのが嬉しかっただけかもしれない」。熟考の結果、総合大学への進学を決めた。

専攻は地球惑星物理学。数十万年ごとに繰り返す「地球磁場の逆転」を解き明かす研究に没頭した。しかし、いくら研究が評価されても、生きている間に次の磁場逆転が起きて、自分の説が立証されることはない。もっと社会のニーズに応える研究をしたい――。心の叫びに気づき、民間のシンクタンクへ就職。そこから文部科学省へ出向したのが、大学経営の課題解決に関与するきっかけになった。手掛けた大学IRの成果は、1200ページ超に及ぶ「世界有力大学の国際化の動向」報告書や「東京大学国際化白書」となった。

「寝るときと食べるとき以外、ほとんど仕事をしている」という毎日のなかで、唯一の息抜きは、今も続けているバイオリン。弾くだけでなく、名器ガスパロ・ダ・サロの音色を多くの人に知ってほしいと、師のバイオリニスト・長谷川紘一氏のコンサートを精力的に企画する。「誰かの役に立てるならー」。その想いとエネルギーが尽きることはない。

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船守 美穂
FUNAMORI Miho

情報社会相関研究系 准教授

修士(理学)/東京大学理学系研究科地球惑星物理学専攻修士課程修了/1993年、三菱総合研究所に入社。文部科学省大臣官房国際課、政策研究大学院大学国際開発戦略研究センター助教授、東京大学特任准教授を経て2016年4月から現職。

東京大学では国際連携本部、評価支援室、教育企画室を歴任し、執行部の意志決定を支援するインスティテューショナル・リサーチを担当。東京大学の国際化推進長期構想の策定を導き、総合的教育改革では協働学習や大規模公開オンライン講座(MOOC)のあり方について検討を行った。

大学経営を常に意識し、「学校基本調査徹底読解」も広く知られている。NIIでは新たな潮流であるオープンサイエンスや研究データ管理に関わっている。

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