NIIについて / About NII

所長の挨拶

151_260212所長Trim3.jpg黒橋 禎夫
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構
国立情報学研究所 所長

AIによる研究大変革の時代に向けて

 国立情報学研究所(National Institute of Informatics;NII)は、我が国における「情報学に関する総合研究並びに学術情報流通のための先端的な基盤の開発及び整備」を目的として、2000年4月、文部省・大学共同利用機関の一つとして創設されました。その淵源は、学術情報センター(1986~2000年)、東京大学文献情報センター(1983~1986年)、そして東京大学情報図書館学研究センター(1976~1983年)まで遡ることができます。

 このように長きにわたり我が国の情報学と学術情報基盤に関わってきたNIIにとって、今は最大のチャレンジの時といえます。2022年11月、OpenAI 社から、人と自然に対話できる大規模言語モデル(Large Language Model;LLM)、ChatGPTが発表されました。これを契機に人工知能(Artifi cial Inteligence; AI)が劇的な進展を続け、研究や社会のありようを変革しつつあります。そもそも、言語は人類を「万物の霊長」たらしめる根源的ツールであったわけですから、それを使いこなす人工物の出現が社会に大きなインパクトを与えるのは当然のことかもしれません。

 一年ほど前、2025年2月頃からLLMに備わったDeepResearch 機能(自律的に情報を探索・統合する能力)は、素朴に対話ができるというレベルではなく、その先にあるAIの無限の可能性を強く感じさせるものでした。その後、研究のアイデア出しのための壁打ち、実験計画の立案、(サイバー空間で可能な範囲なら)コード作成と実験・分析、さらに論文執筆まで、AIによる支援の範囲が広がっています。AIの研究への関与をどの程度許容するかはまだ議論の途上ですが、昨年、2025年10月には、AIが論文の主著者となり、査読にもAIが関与する実験的な国際会議がスタンフォード大学の主催で開催されるに至っています。このような大きな変化は、医療、法実務、ソフトウェア開発など、学術に隣接する高度専門職の領域でも見られます。

 AIにとって最も重要なのはデータですが、そこではオープンデータの考え方が広がりつつあります。我が国でも2025年度から始まった「公的に支援された論文とその根拠データは即時公開する」という施策について、(研究開始から論文成果が生まれるまで時間の遅れがあるものの)今年、2026年からその実施が本格化します。データ公開に対する研究者の意識は分野によって様々ですが、上記の施策や、なによりも、公開されたデータを収集・活用するAIの存在が、 この流れを加速することでしょう。

 人の能力に匹敵する、または凌駕するAGI(汎用人工知能)やASI(人工超知能)の出現も、AIの進展の加速度を考えるとすぐには起こらないと断言できる状況にはありません。AIが意志を持って人類を滅ぼすようなことは簡単に起こらないとしても、強力なAIの悪用による甚大なインシデントの発生は十分にありえることです。

 このような時代において、人間の価値とは何か、AI と人類が共存する社会をどのようにデザインして次世代に引き継ぐのか、踏み込んだ議論を始める必要があります。人文・社会科学を含めて学術分野全体を見渡す図書館学を祖とし、さらに、LLMを生み出した情報学の拠点であるNIIには、果たすべき役割が少なくないと感じます。本研究所としては、情報学の知見を結集し、信頼性あるAIの基盤技術の研究と、学術データの流通・活用を支える制度設計の両面から、この変革期に責任ある役割を果たしてまいります。極めて難しい問題ですが、あまり時間はないかもしれません。NIIの創設者である猪瀬博先生が座右の銘とされたギリシャ・ローマ以来の教訓、「Festina Lente(ゆっくり急げ)」をあらためて胸に刻みたいと思います。

2026年4月

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