NIIについて / About NII

所長の挨拶

kurohashi2023.png黒橋 禎夫
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構
国立情報学研究所 所長

データ基盤から知識基盤へ

 20世紀半ばのコンピュータの誕生以来、情報学は社会および学術界に対して広範なインパクトを与え続けてきました。およそ30年前に発明されたWWW(World Wide Web)は情報発信・流通の在り方を根本から覆し、社会構造を変革しました。さらに、この10年あまりの深層学習の進展も目覚ましく、AlphaFoldによるタンパク質構造予測は生命科学研究に革命をもたらし、WWW上の膨大な対訳テキストから学習された機械翻訳システム DeepLは世界のコミュニケーションの形態を変容させつつあります。最近では、ChatGPTが大学の定期試験等で合格レベルのエッセイを書くというニュースも駆け巡っています。今後、想像以上のスピードでAIと人間が本格的に共生する社会がおとずれるでしょう。一方で、現代社会には環境問題、格差問題、地域紛争などの問題も山積しており、人類はむしろ矛盾に満ちた世界で苦しんでいます。複合的な社会課題を解決しつつ、AIと人間の共生社会をデザインし、真に人々の心の安寧をもたらすためには、人文・社会科学を含む様々な学術研究の協働が必要であり、それを可能にする土壌の構築が喫緊の課題です。

 21世紀の学術および社会の大きな潮流として、データの重要性が明確に認識されました。様々な観測や計測からデータを作成し、デジタル化し、オープンにして議論・利活用 することで学術的に大きな進展が起こっています。このような状況下で、我が国では国立情報学研究所(NII)を中心にSINET6に至るネットワーク整備と、研究データ基盤の整備が継続的に進められてきました。

 様々な学術研究の協働を進める上で問題となるのは、特定分野の専門家も他分野については素人であり、多様な分野を見通してデータを直に活用することは容易ではないとい う点です。これからの学術研究が総合知として深化し、複合的な社会課題を解決していくためには、データの解釈、知識の関係付け・体系化を自動化し、分野を横断する新たな知 の創造を支援する知識基盤の構築が必要です。そのような基盤の必要性は10年以上前から指摘されてきましたが、データ基盤が整い、データをオープンにすることの価値が認識さ れ始め、機械翻訳研究に端を発する AI基盤モデルにより論文やマルチメディアデータを高度に解釈することが可能となりつつあることから、ついに知識基盤の構築を本格的に目指すべき時代となりました。しかし、AI基盤モデルの構築には大規模計算資源を必要とし、一部の海外企業による寡占化が進んでいることが大きな問題です。我が国全体の連携のもとに、AI基盤モデルの研究・開発・運用の体制を整備し、知識基盤の構築に取り組むことが必要であると考えます。

 このような急速な社会変革の時代に、2023年4月からNIIの所長を務めさせていただくこととなりました。NIIは、大学共同利用機関として、そして、我が国における情報学の 中核機関として、歴代所長のリーダーシップのもと、研究と事業の両面で社会の要請に応えてきました。今後も、基礎論から最先端までの総合的な情報学研究、そして、学術ネットワーク基盤、研究データ基盤等に関する事業をさらに推し進めるとともに、学術研究の協働の土壌となる知識基盤の構築に一歩一歩取り組んでいきたいと考えております。

2023年4月

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