Mar. 2022No.94

教育を止めるな!教育機関DXシンポの2年

Essay

コロナ禍が生む次世代の新常識

―不安、そして期待

FURUKAWA, Masako

国立情報学研究所
情報社会相関研究系 助教

COVID-19感染予防対策として、気がつけば2年も在宅勤務を続けている。

ちょっと我慢していればコロナ禍前の日常生活に戻れるかもしれないという淡い期待を抱きながら、もう2年過ぎていることにあらためて驚く。つい先日、久しぶりに研究所で会った同僚と「コロナが落ち着いたら飲みに行きましょうね」と話したが、それから早くも1年が過ぎているではないか。

日々の繰り返しに慣れてしまった大人たちにとって1年があっという間に感じることも多いが、毎日が新鮮な出来事の連続という多感な時期の子供たちにとっては、この2年の影響はもっと大きいものだろう。大人たちが知っている「生活が元に戻る」という意味もわからないかもしれない。コロナ禍に過ごした2年によって、子供たちにとってはもうすでに新しい時代が始まっていて、今経験していることから新しい常識が生まれることになるだろう。そして、コロナ禍時代に教育を受けた者が社会に出た時には、世界の常識はもはや「元に戻る」ことはなく、今の大人たちの想像以上に変わっているように思う。

コロナ禍において、あらゆるところでインターネットを介した学習環境が充実してきた。オンライン授業は、大学などの高等教育機関のみならず、小学校から高校まで広く実施されるようになった。小学校ではタブレット端末を活用して、オンライン授業を受けたり、電子教科書を閲覧したり、さらにプログラミング教育が始まったりしている。

また、大規模公開オンライン講座(MOOC)は、コロナ禍前に比べて、コンテンツ数も受講者数も爆発的に増えているし、YouTubeの教育系動画も増えて社会人向けのオンライン学習環境もある。このようにあらゆる世代においてオンライン学習環境は急速に身近なものになってきた。これに伴って、様々な端末から学習 履歴データはますます蓄積されていて、今後は学習履歴データなどを活用した教育支援(ラーニングアナリティクス)も広がっていくのだろう。

この流れのなかで、SDGs、教育DX、ラーニングアナリティクスなどの最近の取り組みは次世代にどのように根づいていけるのだろうか。変わった先の世界はどうなるのだろうか。もしかしたら、オンライン学習環境が充実するなかで、多くの時間・お金・労力をかけたオンライン教材は、無造作にインターネット上に死蔵されたり、はかなく消滅したりしていくのかもしれない。また、次世代の学習環境になじまない人々が情報弱者として社会の犠牲になっていくのかもしれない。しかしその一方で、ラーニングアナリティクスによって教育資源が再利用・改良され、あらゆる世代の誰一人取り残さずに、適切な教材設計や学習支援が行われている時代になっていることも期待していて、まずは自分なりに今できることをやってみようと思う。(文・古川 雅子)

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