Mar. 2022No.94

教育を止めるな!教育機関DXシンポの2年

NII Today 第94号

Article

次世代モバイルネットワークと技術的課題

〜With/Postコロナ社会を支える

金子 めぐみ

KANEKO, Megumi

国立情報学研究所
アーキテクチャ科学研究系 准教授

既存の無線通信システムはモバイルデータの急増により、多くの課題を抱えている。

これまでも移動体通信システムの加入者、IoTデバイス数は指数的に増加してきたが、コロナ禍により、その状況にはさらに拍車がかかっている。

無線通信に適した周波数帯である低い周波数帯(6GHz以下)は、ほとんどを既存システムが利用済みであり、無線資源不足問題は深刻なものとなっている。そのため、異なる無線システムやセル間で、同じ周波数を同時利用するユーザやデバイス数が急増し、多数の干渉やパケット衝突が起き、通信特性が著しく劣化している。

一方、現行最新の規格である5Gは2020年に初期サービスが開始されている。4Gまでは主に伝送速度の向上のみが重視されていたのに対し、5Gでは、低遅延や高信頼性、多数のIoTデバイスの接続や高システム容量、低消費電力など、他の指標も重視される点が異なる。

また、Beyond5Gや6Gで求められる今後の諸技術のレベルは5Gを大きく超えている。例えばBeyond5Gにおいては、5Gと比べて伝送速度は100倍、遅延は5分の1という高い性能が想定されている。

社会的な要請からも、コロナ禍収束後もリモートワークのニーズは存在し続け、遠隔教育、遠隔医療、高齢化社会の進展に伴う遠隔介護が必須の技術として求められていくと考える。With/Postコロナ時代に向け、前述の課題は深刻化していき、その解決は逼迫している。

注目すべきテーマ
様々な無線通信性能とエネルギー利用効率の同時向上
IoT超多数接続の実現AI技術と数理最適化の活用

このような課題に対し、国立情報学研究所の金子めぐみは大きく3つのテーマで研究を進めている。

1つ目は、クラウド・エッジ機能を活用した無線資源利用効率向上である。この研究では、モバイルエッジコンピューティング(MEC)やフォグ無線アクセスネットワークのエネルギー利用効率に注目した。クラウド中央集中的機能と各エッジノードの分散型機能を両立させる干渉制御法を設計・提案し、無線通信路が不確定な場合でもエネルギー利用効率を向上させつつ、遅延・ユーザ間公平性を同時に改善した。

2つ目は省電力広域IoTシステムのための無線通信プロトコル 設計である。従来のLoRa(Long Range)通信方式には、省電力だが伝送速度が著しく低く、多数接続では特性が大きく劣化するなどの問題点があった。これに対し、金子は厳しい干渉環境でのLoRa伝送速度の理論解析に成功した。LoRa資源割り当て最適化法を提案し、接続可能なIoTデバイス数や伝送速度、公平性、電力消費などの諸指標を同時に改善した。

3つ目はAI機能(機械学習)と数理最適化を両立させる無線通信制御である。複数基地局・ユーザが存在し干渉環境が動的に変動する無線ネットワークを対象に、各ユーザデバイスのAI機能を活用した深層強化学習法を提案することで、システム全体の低周波数帯(サブ6GHz)および高周波数帯(ミリ波帯)の有効利用を達成し、より高密度な環境で各ユーザのレート・遅延の同時改善を実現した。

今後の課題
コロナ禍の影響を乗り越える次世代モバイルネットワーク構築

主にこれらの研究は、国内外の諸機関と共同で進めてきたが、現在、コロナ禍によって国際共同研究・交流に大きな支障が出ている。

国際的トップレベルの研究継続のためには、一刻も早く、海外からの優秀な留学生や人材の受け入れが必要である。With/Postコロナ社会を支えるためにも、国際交流・共同研究の継続のためにも、上述の次世代モバイルネットワークの構築は必至である。

(取材・構成 川畑 英毅)

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