Column
「研究者になる選択」のゆくえ
科学技術・学術政策研究所の調査[1]によると、日本の大学部門の研究者数FTE値(研究活動従事時間のフルタイム換算値。例えば研究従事時間がフルタイムに対し60%の場合は、0.6人と換算)は、国内で2024年度約13.9万人。2002年からの約20年間数値はほぼ横ばいだが、その中で値の高かった2007年の約14.6万人と比較すると約10%減となっている。しかし、数値以上に研究者不足がプロジェクトに影響していることは、別の記事で竹房教授も触れている。では、大学院生はどの程度研究職を目指す可能性を秘めているのか。また、彼らが研究職を望まない選択をするなら、その理由はどのようなものか。それらの回答から研究者減少の打開策を探るべく、国立情報学研究所(NII)に在籍する学生にアンケートを行った。
質問:研究職に就きたいですか?
アンケート概要●アンケート対象者:総合研究大学院大学(総研大)情報学コース[2]の大学院生、連携大学院[3]の大学院生、インターン生[4]、特別共同利用研究員[5]●回答数:47件。女性約11%、男性83%、その他&未回答6%●回答者内訳:総研大生55%、連携大学院生12%、インターン生29%、特別共同利用研究員4%●回答者出身国:中国19%、日本15%、ベトナム11%、ドイツ11%、フランス6%、他16カ国38%●学生の専攻(興味)分野:AI、強化学習、ロボティックス、グラフセオリー、HAI(Human-Agent Interaction)、サイバーセキュリティ、自然言語処理、医療言語処理、コンピュータビジョン、コンピュータサイエンス、セマンティックWeb、IoT、量子情報処理、法律、他●アンケート方法:Webフォームによる無記名オンライン回答●回答受付期間:2026年2月16日~2026年3月3日の約2週間
まず、将来研究職に就きたいかという質問に対しては、約70%が「はい」=研究職に就きたいと回答した。研究職に就きたくない学生は約13%、まだわからないという回答は17%だった。
では、「はい」と回答した学生が研究職を望む理由がどういうものか見てみよう。「研究も教育も好きだから」「新しいことを学ぶ情熱を持ち続けたい」「安定した収入を得たい」「研究に重点を置いたキャリアを追求したい」「自分のアイデアを実現したい」「研究の発展に貢献したい」「学術界に貢献したい」「大手テック企業の利益のためではなく、社会に貢献したい」「将来の研究に向けた知見を生み出したい」「企業勤めに比べて学問の自由が尊重されている」「新しい知識を探求し、挑戦し続けたい」など、研究へのやりがいや探究心、情熱、社会や学術への貢献を根拠とするものが多いという印象だ。一方、研究職に就きたくない学生は、決断を阻む理由として「アカデミアの『低賃金』」「巨額の資金力を持つ『産業界(大手テックなど)との格差』」「研究職の不安定さ」などを挙げた。また現在、研究職への進路を決められない学生は、その理由として「博士号取得が先決であり、その後に考えたい」という回答のほか、やはり「企業に比べて給与が低い」「雇用が不安定」「研究資金の不足」「外部研究資金獲得競争の激しさ」などが、研究職を目指すことへの大きな不安材料となっているようだ。彼らも研究への情熱は持ちつつ、「生活」の安定が不確実であるところに気持ちの揺らぎがあるように読める。
加えて、NIIで学生として学業に専念、またはプロジェクトに参加する利点や、NII(もしくは広義に日本の研究機関)が改善すべき点を問うた。
利点については、「NIIは国際性豊かな研究環境であり、多方面の研究機関と連携している」「研究にフォーカスできる環境と設備があり、多くの優秀な教員の指導が直接受けられる」「財政支援のプログラムがあり、研究に没頭できる」「セミナーや学術交流の機会が多い」「産学連携に強い」などが評価され、学生研究者として所属することのメリットを感じてくれているようだ。
逆にNIIに改善を求める点は、「研究目標に対する意欲が低い」「書類が紙でDX化されていない」「NII内で研究室やグループ間の交流、連携が乏しい」「研究リソースや研究資金の不足」「RA給与が他国に比べると低い」「国外でNIIの知名度が低い」「研究支援側を含め英語力の向上が必要」「博士課程の学生へのキャリアパス支援およびコンサルティングやメンターが必要」という意見が散見された。これらは、研究者減少に歯止めをかけ得るヒントとなる貴重な意見と受け止めたい。アンケートに協力してくれた学生に感謝しつつ、研究者となった彼らに再び会える日が来ることを願うばかりだ。
[1]2.2.3 大学部門の研究者(表2-2-11データ参照)
[4]インターン(NII International Internship Program)MOU協定校等から受け入れている大学院生
[5]特別共同利用研究員(国内外から受け入れている大学院生)
レポート:岸本 治恵