Essay
行政職の立場から 日本全体の女性研究者の増加と育成に思うこと
佐野 多紀子SANO, Takiko
国立情報学研究所副所長
(敬称略)
私自身、行政職として三十年以上前に中央省庁に就職した際、職場における女性職員の少なさに驚きを覚えたことを今でも記憶している。女性職員は少数で、そのことにより息苦しさを感じる場面も少なくなかった。当時は、結婚や出産を女性の幸福とする価値観や、女性は論理的な仕事に向かないといった言葉もまだ聞こえてきた時代でもあった。
三十年以上前の中央省庁における女性職員割合は、当時の内閣府男女共同参画局による調査によれば、1995年時点で指定職[1](概ね局長級)は0.6%、行政職(一)[2]の9~11級(課室長級以上)でも1%前後に過ぎず、女性の登用は極めて限定的であった。
その後三十年を経た現在、状況は大きく変化している。内閣官房が公表する「国家公務員の各役職段階に占める女性の割合の推移」によれば、2024年時点で指定職は5.2%、本省課室長相当職は8.3%まで上昇している。政策作りの中心を担うことが多い総合職の採用者に占める女性割合も右肩上がりで増加し、令和7(2025)年度には36.8%に達した。全府省における国家公務員全体で見ても、女性割合は2025年に25.3%となっている。少なくとも現在では、中央省庁で女性が働くことは特別なことではなくなったと感じている。
では、この変化を研究者の世界に当てはめると、どのような姿が浮かび上がるだろうか。NISTEPの資料によれば、日本における女性研究者の割合は1995年時点で8.9%であった。これが2024年には18.5%まで増加しており、着実な前進であることは確かである。しかし、その伸びは、同期間における中央省庁総合職の女性採用割合の上昇と比べると緩やかである。一方で、研究者全体に占める女性割合は、行政職における指定職や課室長級の女性割合より高い水準にあり、単純な比較ができないことも事実である。
注目すべきは、研究分野間の大きな差である。教授等の上位職における女性割合は、理学で6.9%、工学で4.5%、農学でも7.8%と依然として低い水準にある(2022年度データ)。一方で、保健分野では25.3%、人文科学では29.4%と比較的高い割合を示している。中央省庁においては、各種指標に女性研究者に関する目標を盛り込むなどの取組が進められており、全体として数値は改善してきているものの、理学や工学といった日本の研究力の中核を担う分野における女性比率の改善は緩やかな状況にとどまっている。また、大学における研究者採用段階においても分野間には大きな差が存在しており、これは採用後の施策のみならず、高等教育以前の進路選択や教育環境の影響を強く受けていると考えられる。
女性研究者の増加と育成は、単なる数値目標の達成にとどまらず、日本の研究力そのものの質に直結する課題である。中央省庁において女性登用が進んだ背景には、継続的なデータの可視化や採用・登用における明確な方針の存在があった。研究分野においても目標設定は行われているものの、制度面と文化面の双方から、引き続き、ライフイベントを考慮しつつの改善の余地は大きい。例えば、進学選定の際の無意識のバイアスの除去や長時間労働を前提とした研究スタイルの見直しなどが考えられる。
折しも、AI for Science による研究革新が進みつつある。生成AIを含むデジタル技術は、研究のスピードと裾野を広げ、働き方そのものを変える可能性を秘めている。本稿の作成においても、生成AIを活用することで、効率的に情報収集等を行うことができた。AIを積極的に取り入れ、生産性を高めることは、研究と生活の両立を支え、結果として多様な人材が活躍できる環境づくりにつながる。
研究現場における変化を支える制度と環境整備を着実に進めることで、女性研究者がより自然に活躍できる社会に近づくことを期待するとともに、その実現に向けた環境整備に貢献していきたい。
[1]指定職:国家公務員(一般職)のうち、「一般職の職員の給与に関する法律」に基づく指定職俸給表が適用される職員
[2]行政職(一):国家公務員(一般職)のうち、「一般職の職員の給与に関する法律」に基づく行政職俸給表(一)が適用される職員