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研究データ基盤のある社会作りが、生きる道
込山悠介准教授の専門分野は研究データ管理やデータ基盤構築などだが、その活動領域は生命科学・医学・情報科学にまで広がっている。研究者に至るその道筋は、どのように形作られてきたのかを探る。

込山 悠介KOMIYAMA, Yusuke
国立情報学研究所
コンテンツ科学研究系准教授
オープンサイエンス基盤研究センター
副センター長
(敬称略)
「データが少ない」という壁が出発点
込山は大学で物質化学と材料システムを学んだ。その時、研究で自由に利用できる充実したデータベースがないという課題に気づいた。生体高分子の挙動を理解するためには、計算機シミュレーションとデータが欠かせない。しかし当時、国際的なデータベースでオープンデータとして利用できる分野は、生命科学系など一部に限られていた。
大学院では、研究テーマとしてバイオインフォマティクス(生物情報学)を選んだ。遺伝情報の解析やアノテーション研究は重要であり、世界中の研究者が少しずつ解析を進め、その成果を論文化しながら研究を推進している。大学院からポスドク時代にかけての込山は、生命科学のデータ解析のためのソフトウェアや計算結果を整理するためのデータベース構築を研究し、それらをスーパーコンピュータ上で利用する研究をしていた。そして、込山の関心の中心は徐々に研究データ基盤へと移っていった。
「『研究者になりたい』と思い、大学院に進学しました。とはいえ、博士になったからといって研究を仕事にできるかどうかは分かりません。不安を感じながら学会や研究会に参加している中で、先生方や仲間から励まされ、博士課程修了後に就職活動していた時にも、NIIに転職した時にも、たまたまご縁があったりして、今に至っています。研究を続ける上で、人と人とのつながりの力は、とても大きいです」
現在の込山の研究の中心は、オープンサイエンスのための研究データ基盤の開発だ。研究の中で生まれる「データ」を管理しつつ共有し、利活用していくオープンサイエンスは、世界の科学研究の将来を支える重要な活動である。
「研究全体を蒸気機関車に例えると、データ基盤は、ボイラーに燃料を供給するような活動です。データという燃料がないと、オープンサイエンスは先に進めません。そして現在は、データを集めて供給し続ける部分、すなわちエンジンを駆動する部分を作って、従来の科学をよりパワフルにするための基礎固めをしているところです」
クレームもモチベーションに変えて
データの共同利用のために解決すべき課題は、数多い。データがどのように取得されたのか。捏造(ねつぞう)・剽窃(ひょうせつ)・改ざんなど研究倫理上の問題が無いことは保証されているのか。進行中の研究プロジェクトのデータは、どの範囲でなら共有してよいのか。さまざまな可能性やリスクを想定した上で「研究データポリシー」を策定し、システムに組み込むことが必要だ。現在の込山は、NIIが全国の大学や研究機関に提供している研究データ管理基盤「GakuNin RDM」の運用・提供を行いながら、研究開発も推進している。
「目の前の数々の課題を、日々、乗り越えている感じですね。自分自身これまでつながってきた『計算機と化学』や『計算機と生物学』という世界から他の分野にも適用していくことが、研究の関心として続いており、現在も『研究データ基盤』へ挑戦しつづけています」
職場環境も重要だ。込山は、副センター長やシステム開発責任者として環境を作る立場にもある。「同僚やサポートメンバーを含めて、よい環境にあると思います。むしろ自分が、職場環境や研究予算獲得のモチベーションを、さらに高めなくてはなりません」
研究会を主催して人脈を広げる中で、研究費申請書を作成するための合宿を開催して相互にブラッシュアップし、研究予算獲得に至ることもある。やはり、研究の継続には人と人のつながりが重要だ。
NII事業として研究データ基盤を研究開発し、外部に対して提供しているからこその広がりもある。
「多くの大学や研究機関に使っていただいているので、『不便だ』『この機能を追加してほしい』『より安全に』『もっと高速に』といったご意見を数多くいただきます。私たちとしては、これから実現しなくてはならないことが数多いということです。それは、モチベーションの下支えになっています。リクエストをいただくということは、同じニーズを持っている研究者が多数いるということですから、重要なヒントにもなります。もちろん、『これ、いいね』と言っていただければ、非常に励みになります」
とはいえ、研究者にとっての研究データ基盤は、水や電気のようなライフラインである。正常にストレスなく使用できることに対して、これといった称賛や感謝が示されないとしても、落胆することはない。
「外部から見えにくい点ですが、『システムがめったに停止しない』『ハッキングされにくい』ための情報セキュリティの改善やシステム運用の安全性向上には、日々取り組んでいます。最先端の研究のためには、下支えがとても重要なのです」
研究者たちが、正常動作と快適性を「当然」と受け止めている状況も、込山とチームのモチベーションの源泉の一つである。
やりたい研究が、道を開く
一般的に国内では、博士学位取得後しばらくは任期付き研究職を経験しながらキャリアを築いていくケースが少なくない。その時期は多くのライフイベントにあたることも多く、結婚・出産・育児・家庭生活などと重なる時期でもある。
現在、二児を育児中の込山は、子供の出生時に育児休暇を取得した。それは半年前から時間をかけて計画、関係部署と相談し、引き継ぎや代役などの調整、上司や同僚の理解やサポートを得る必要があり、やはり人とのつながりやコミュニケーションは重要だった。
加えて、NIIの組織としての特徴の一つは、研究者の多様性だ。NIIの研究者や職員の経歴は、実に多様であり、自身もその一人として、込山は自らを語る。
「私は、そんなに頭脳が優秀ではないと思いますが、自分の弱点や、できないことを把握しています。周りの同僚の多様な能力やスキルを頼り、信用することで、自分一人では達成できない活動ができています。もし、あなたが学生で、研究したいテーマがあるのなら、やれる時にはやるべきだと思います。ポスドクや助教時代などは、自分がやりたいテーマで研究できない時期もありますが、人間力やコミュニケーション力を高めながら、学力と研究力を高め続ければ、その『機会』に巡り会えると思います」
──研究者のキャリアパスは、意外に多様で柔軟だ。そこに自分の生きる道を見つける可能性は、「やってみたい」と思う人々すべてに開かれている。
取材・文:みわよしこ
写真:杉崎恭一
撮影協力:依田豊/水口美穂
