Mar. 2019No.83

SINETが支える「Society5.0」機能強化で広がる研究可能性

Interview

世界トップレベルの400G回線が東京─大阪間を結ぶ

栗本 崇

KURIMOTO Takashi

国立情報学研究所 アーキテクチャ科学研究系 准教授/
総合研究大学院大学 複合科学研究科 准教授

世界をリードする日本の伝送技術

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 SINET5では、現在、北海道から沖縄まで全47都道府県が100Gbpsの高速回線で結ばれている。40Gbpsが最大だったSINET4から、100Gbpsにアップグレードした2016年当初は、余裕のある状況だった。しかし、通信量は2016年度に年率で1.55倍増加するなど、近い将来、回線の混雑により十分な通信速度が確保できない見込みとなっていた。

 これに対応するため、来る2019年12月に、通信量の最も多い東京―大阪間に400Gbps回線を開通させる。国内の通信状況もさることながら、北米、欧州、アジアへの海外回線が100Gbpsへと整備されていくなかで、東京を経由して海外と通信を行う西日本地区の研究拠点に、よりよい環境を提供する狙いもある。

 「400Gbpsの速度は世界トップレベルであり、日本が世界をリードする技術です」と話すのは、今回のSINET5の高速化を主導する、学術ネットワーク研究開発センターの栗本 崇准教授。光伝送は10bpsの速度が限界だったところに、2004年に東京大学の菊池和朗教授がデジタルコヒーレント技術を提唱し、ブレークスルーをもたらした。世界レベルの開発競争が繰り広げられるなか、日本の主要メーカーが協力開発し、世界に先駆け100Gbpsキーデバイスの実用化に成功した。その後さらなる技術の開発が続けられ、今回400Gbpsの回線が実現することになる。

高速化とともに長距離化も実現

 「高速化と同時に長距離化も重要な技術です」と栗本准教授。東京-大阪間を、複数の中継ノードを入れてつなぐのと、中継ノードなしで一気に長距離をつなぐのとでは、中継ノードを経由しないため「コスト面で大きなメリットがあります。また新幹線のこだまとのぞみのように伝送遅延にも違いがでます」

 しかしながら「同じ晴れであっても、富士山がはっきり見える日とぼやっとしか見えない日がある」ように、光ファイバーの透明度を保ったまま長距離をつないでいくことは並大抵のことではない。光ファイバーの品質や、それをつなぐ職人技の良し悪しによって、性能が左右されるという。実際の敷設工事のスタートは2019年4月以降。12月の完成に向けてこれからが本番だ。

 さらに、ネット回線に求められるのは「24時間365日いつでも稼働できること」。これまで400Gbpsの速度で500kmもの距離を商用提供した例はほかにないため、実験で確かめられた技術ではあっても、「寒い日も暑い日もあるなかで、安定的に稼働し続けることができるかどうかが、一つのハードルです」

 今後、ますます増える通信量に対しては、どのように対応するのだろうか。栗本准教授は次のように語る。

 「フラストレーションを感じずに快適に研究ができる環境の整備は、重要なことです。そのために、すでに600Gbps伝送環境の実証実験にも取り組んでいます

 ただ、今後のビッグサイエンスにおける研究データの爆発的増加だけでなく、IoTやAI技術の進化によるデータ収集方法の変化などにより、10年後の学術界で通信量がどれほどになっているのか、正直わかりません。伝送技術の限界についてはそれほど心配していませんが、SINETは何年も先を見越して、計画を立てる必要があります。需要を予測しながら、必要なタイミングで必要な速度を提供していく、その見極めが一番大事ではないかと考えています」

(取材・文=平塚裕子 写真=相澤 正)

※世界最速の1波600Gbps 光伝送と587Gbps のデータ転送実験に成功
https://www.nii.ac.jp/news/release/2018/1211.html

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