Mar. 2019No.83

SINETが支える「Society5.0」機能強化で広がる研究可能性

Essay

未来社会を紡ぐ研究基盤への期待

Satoshi Sekiguchi

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 理事/情報・人間工学領域長

 4月になり希望に満ちた新入社員や新入生が初々しい。彼(女)らはスマホの弄り方が尋常ではなく、身体や生活と完全合体したまさにデジタルネイティブである。以前、新入職員の研修で「このパソコンがどうやってネットワークに繫がっているか報告せよ」といった課題を出した頃は、まだ天井裏にケーブルが敷設されていた。もはや、技術の進展が技術そのものを不可視にしてしまったが、これは情報技術の宿命でもあろう。いつでも、どこでも、だれとでも繫がる日常は「中の人」の不断の努力が支えている。

 Society5.0では、交通/医療・介護/ものづくり/農業/食品/防災/エネルギーなどの分野に新たな価値を創造するとされている。いずれも情報系の研究者にとっては技術の出口として実現に取り組んできたところであり、驚きはない。分野ごとに限れば個別のソリューションはいくらでもある。むしろ最先端の尖った個別技術をコモディティへと質転換し、ヨコ展開をめざしたプラットフォームの構築に醍醐味があるのではないかと思う。

 Society5.0でもデータモデルやオントロジーの整備などデータ連携基盤の準備がある。しかし、ペタバイト級のデータをどうやって高速に移動するか、そのデータをどうやって短時間に入力として与え、いかに高性能に処理を行わせるかという課題に研究者は正面から取り組まなければならない。

 すでに20年ほど前になるが、グリッドコンピューティングとして高性能計算(HPC)と大規模データを高速ネットワークで流通させる構想があった。個人的にもその実現に少なからず貢献してきたし、NIIのSINETが果たした役割も大きい。時は巡り、人工知能(AI)を活用したHPCやHPCによるAIなどが現実の課題となり、また要求されるスケールは膨大となった。

 今、東京大学柏Ⅱキャンパスでは、我々、産業技術総合研究所が設置したABCI(AI 橋渡しクラウド)が稼働し、世界トップレベルの計算処理能力とデータ処理能力を誇る。SINET5にも100Gbpsで接続されており、国内外の学術研究機関や民間事業者からのアクセスが可能である。NIIとも連携協定を締結したところである。さらに、ここには東京大学がSINETと協力して構築するデータプラットフォームも集結する予定だ。多種多様なデータ、コンピューティングパワー、ソフトウエア、そして人々をSINETなどの学術研究用高速ネットワークが紡いでいる。チャレンジを加速する研究開発基盤への期待はますます高まる。

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