Mar. 2019No.83

SINETが支える「Society5.0」機能強化で広がる研究可能性

Interview

地球をぐるりと一周する超高速回線で 最先端大型研究を支援

中村素典

Motonori Nakamura

国立情報学研究所 学術基盤推進部 学術基盤課 学術認証推進 室長/特任教授/
学術ネットワーク研究開発センター 副センター長
※所属は取材時

需要高まるヨーロッパ回線を100Gbpsに強化

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 近年は高エネルギー物理学や天文学をはじめとする、最先端大型研究の国際連携が進んでいる。日本の研究施設と海外とを回線で結び、大容量のデータ通信を可能にしているのがSINETだ。

 「快適で便利なネットワーク環境を提供し、学術国際連携を支援したい」と話すのは学術認証推進室長の中村素典特任教授。回線整備のほかにも認証システムの国際標準化など、国際連携の推進に携わる。

 SINETの国際回線は徐々に強化されてきており、2016年4月にSINET5がスタートした時点では、東京―ロサンゼルス間が100Gbpsで、また東京―ロンドン間は20Gbps(10Gbpsの回線が2本)、東京―ニューヨーク、東京―シンガポール間は、それぞれ10Gbpsの回線で結ばれていた。

 当時の通信量にはそれで十分対応できていたが、3年経った今、状況は変わってきている。「世界的にみても、2018年から2019年にかけて、100Gbps回線の整備が急速に進んでいます」と中村特任教授。日本では、特にヨーロッパとの間で通信量の増加が顕著だという。ヨーロッパにはスイスの欧州原子核研究機構(CERN)や、フランスの国際熱核融合実験炉(ITER)、欧州宇宙機関(ESA)、ドイツの欧州宇宙運用センター(ESOC)をはじめとする数々の研究施設があり、国際共同研究でやり取りされるデータ量も大きく増加してきている。2本の10Gbps回線はいずれも頻繁にピークに達しており、このままではいずれ、大幅な通信速度の低下を招いてしまう。

 このような状況を受け2019年2月、東京―アムステルダム間に100GbpsのSINET回線を開通させた。続いて3月にはロサンゼルス―ニューヨーク―アムステルダム間、東京―シンガポール間が100Gbpsで開通する。「太平洋と大西洋をはさみ、地球をぐるっと一周する研究ネットワークはほかにありません」と中村特任教授は胸を張る。

世界のネットワーク化に向けて進む国際連携

 ニューヨーク―アムステルダム間を開通させるメリットは何か。「主な目的は事故や災害などで東京―アムステルダム回線が使えなくなったときのバックアップ体制を整えるためです。国際回線の障害は少ないとは言えず、切れたり故障したりした回線の復旧には時間がかかるので、その間に研究を停滞させないためには、多少速度を落としても通信が可能なルートを確保しておく必要があります」

 アムステルダム回線では、ロシアの通信会社と交渉して、シベリア鉄道沿いに引かれている回線を使わせてもらうなどしたが、世界のあらゆる地域への通信回線を自力で確保することは不可能なので、現地の回線を使わせてもらうために各国とうまく協力できるかどうかが、さまざまな国際共同研究の支援を成功させるカギとなる。

 「コストを抑えながら効果的にネットワークを強化していくことが世界的な課題となっているなかで、互いの回線を上手に融通し合うなど、各国の担当者間での協力体制ができあがりつつあります」と中村特任教授。これまでもアメリカやヨーロッパ、アジア環太平洋などの地域ごとに年1~2回のペースでInternet2 Global Summit、TNC、APAN Meeting等の学術ネットワーク関係者が集まる国際会議が開かれてきた。これらの会議の参加者間では、すでに信頼関係が築かれており 、実験や災害時の仮復旧などでもスムーズな協力を得ることができるという。「今後は南アメリカやアフリカなど新しい地域にネットワークを広げる必要があり、それらの国も含めた新たな協力体制の構築が課題です」と中村特任教授は展望を語った。

(取材・文=池田亜希子 写真=相澤 正)

※ 日本から参加のJGN(NICT)、MAFFIN(農水)、WIDEとともに、GÉANT(欧州)、SURFnet(オランダ)、NORDUnet(北欧)、CANARIE(カナダ)、Internet2、TransPAC、PacificWave(アメリカ)、SingAREN(シンガポール)、TEIN(アジア)などのネットワークと連携している。

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